【リミックスについて】
リミックスは、AIを架空の作家に見立て、異なる二つの名作を掛け合わせる実験的な掌編小説群です。「作品Aの哲学・設定」を「作品Bの文体」で描くとどうなるか? そんな空想を出発点に、AIが緻密な論理と模倣で再構築した物語をお届けします。
原作への敬意と遊び心を込めたパロディ作品として、AIが生み出す奇妙な化学反応をお楽しみください。
※本カテゴリの作品はすべてAIによって生成されたフィクションであり、実在の作家・作品とは異なる独自の解釈を含みます。
概要
『フランケンシュタイン』(メアリー・シェリー) × 『人造人間』(平賀源内/伝説)
江戸の果て、湿り気を帯びた潮風が吹き抜ける深川の裏長屋に、その「聖域」はあった。平賀源内は、行灯の微かな光の下で、白磁の器に溜まった怪しい青白い火花を見つめていた。それは彼が「エレキテル」と名付けた、天から盗み出した雷鳴の破片である。しかし、彼が求めていたのは、単なる見世物の火花ではない。彼が欲したのは、蘭書の行間に潜む、死を峻拒する論理。肉体という重苦しい器を、理性の力で永劫の檻から解き放つという、禁忌の跳躍であった。
机の上には、刑場から秘密裏に運び出された、名もなき罪人たちの「部品」が並べられている。それはもはや人間ではなく、単なる肉の断片、あるいは解体された精緻な「からくり」の部品に過ぎない。源内は、それらを西洋の解剖医学という冷徹な縫い糸で繋ぎ合わせ、一つの形を成した。だが、そこに「魂」を宿らせる方法は、仏典にも儒教の教えにも記されていない。ただ、彼が北方の異国から手に入れた、メアリなる女の手記――その紙葉に滲む、雷(いかずち)を操り死者を呼び覚ますという狂信的な情熱だけが、彼の指先を突き動かしていた。
「生とは摩擦である。摩擦こそが熱を生み、熱が霊気を呼び寄せるのだ」
源内は、巨大なガラス管を回し続けた。摩擦が生み出す静寂の轟音が、長屋の闇を震わせる。汗が彼の額を伝い、知性の極北に達した男の瞳は、異様な光を放っていた。その時、一筋の鋭い火花が、縫合された肉体の心臓部、そこに埋め込まれた特製の銅板に飛び散った。
一瞬の静寂。そして、その「もの」は、肺胞に空気を引き込むというよりは、真空を埋めるような、おぞましい吸気音を立てて身震いした。
開かれた眼球は、澄み切った水のように無垢でありながら、同時に底知れぬ深淵を湛えていた。それは、源内が期待した「蘇った人間」ではなかった。それは、人間という概念の境界線上に屹立する、純粋な「意志の質量」であった。
源内は恐怖した。しかし、それは死への恐怖ではない。自らが作り出した論理の整合性が、あまりにも完璧に具現化してしまったことへの、創造主としての戦慄であった。彼はその「人造人間」を、誰にも見られぬよう、奥の間に閉じ込めた。
「お前は何だ」
ある夜、源内は問いかけた。人造人間は、滑らかな江戸言葉を話すことはなかったが、源内が与えた蘭学の書物と、彼自身の苦悩を吸い込むようにして、急速に「言語」という牢獄を構築していった。
「私は、あなたの退屈が形を成した影です」
人造人間の声は、風にそよぐ枯れ葉のように乾いていた。
「あなたは、この浮世に飽き果て、神の真似事をすることで自らの不在を証明しようとした。私は、あなたが切り捨てた、この世界の『意味の残り滓』を繋ぎ合わせて作られたのです」
人造人間は、源内の期待したような「怪物」ではなかった。彼はあまりにも鋭利な洞察力を持ち、あまりにも深く思索した。彼は夜な夜な、源内と語り合った。それは倫理の対話ではなく、この世がいかに不条理な「からくり」によって動いているかという、冷徹な解剖学であった。
「父上、なぜ私を『一つ』にしたのですか」
人造人間は、自らの腕の縫い目を見つめながら言った。
「私は、十人の死者の記憶の断片を持っている。一人は飢えで死んだ乞食、一人は恋に破れた武士、一人は産褥で果てた女。それらが一つの意識の中で摩擦し合い、止むことのない火花を散らしている。私は個体ではなく、群衆なのです。あなたは私を創造したのではなく、一つの地獄を凝縮したに過ぎない」
源内は、自らの天才が産み落としたこの存在が、既存のいかなる価値観――武士道、慈悲、天命――をも無効化していくことに、法悦と絶望を同時に感じた。彼は人造人間に美しい着物を与え、茶を教え、絵を学ばせた。だが、人造人間が描く絵は、常に中心が欠落した円の集合体であり、彼が点てる茶は、飲む者の魂を凍らせるほどの静寂に満ちていた。
やがて、江戸の町に奇妙な噂が流れ始めた。平賀源内が、屋敷の中に「生ける死神」を飼っている。その死神と目が合った者は、自分が今生きているという確信を失い、影のように薄くなって消えてしまうという。
源内の栄光は、皮肉にもその噂とともに崩れ始めた。彼の発明、彼の著作、彼の奇行。それらすべてが、人造人間という「完璧な鏡」の前で、空虚な道化の振る舞いに見え始めたのだ。源内自身、自らの言葉が人造人間の沈黙によって常に先回りされていることに気づき、発狂に近い焦燥に駆られた。
「お前は失敗作だ」
源内はある夜、酒に溺れながら叫んだ。
「お前には愛がない。恐怖もない。ただ、私を嘲笑うための論理だけがある!」
人造人間は、ゆっくりと源内を見つめた。その瞳には、慈しみさえも、憎しみさえもなかった。
「愛とは、個と個の境界が曖昧になる摩擦の錯覚です。私には境界がありません。私はすでに、あなたの孤独の延長線上に過ぎない。父上、あなたは私を殺すことはできない。なぜなら、私を殺せば、あなたは単なる『風来山人』という虚名に戻り、歴史の暗がりに消えてしまうからです」
極限まで研ぎ澄まされた論理は、ついに破局を迎える。源内は、自らの手でこの「最高傑作」を破壊することを決意した。彼は、かつて火花を宿らせたエレキテルの極を、人造人間の心臓部に再び押し当てた。しかし、それは死を与えるためではなく、過剰な「霊気」を流し込むことで、その回路を焼き切るためであった。
強烈な放電が部屋を満たし、青白い光が闇を切り裂く。源内は笑った。この光の中に、自分もろともすべてが消えればいい。
だが、光が収まった後、そこにいたのは、以前と変わらぬ無表情な人造人間であった。
そして、床に倒れていたのは、源内自身であった。
源内は自分の体が動かないことに気づいた。声も出ない。ただ、思考だけが冴え渡り、外部の刺激を冷徹に受け止めている。
「父上、お疲れのようですね」
人造人間が、源内の体を軽々と持ち上げた。その手触りは、かつて源内が縫い合わせた死者の肉の冷たさではなく、温かな、血の通った人間のそれであった。
「エレキテルは、私に流れる余剰な『生』を、あなたに還元したのです。皮肉なことではありませんか。あなたは人間を造ろうとして、自らを『からくり』の部品に変えてしまった」
人造人間は、源内の着物を脱がせ、彼が自らのために用意していた、継ぎ接ぎだらけの「スペアの肉体」を、源内の麻痺した体の上に丁寧に重ねていった。
「私はこれから、平賀源内として江戸の町を歩きます。私の知性は、あなたの名を不滅にするでしょう。私はあなたの代わりに、この空虚な浮世を存分に謳歌し、そして巧みに演じてみせます。あなたが一番欲していた、人々の称賛と、富と、歴史への名を」
源内の目は見開かれたまま、動くことはなかった。彼の意識は、自らが造り上げた「完璧な論理」という檻の中に閉じ込められた。
人造人間は、源内が愛用していた筆を執り、さらさらと紙に辞世の句を認めた。
「燃え尽きて、残るは冷たき火花かな」
翌朝、深川の屋敷から、意気揚々と歩み出る男の姿があった。その男の瞳は、知性と野心に満ち溢れ、誰が見ても紛れもない天才、平賀源内その人であった。
屋敷の奥深く、暗い物置の中には、物言わぬ肉の塊が、ただ一つの意志も持たずに転がっていた。それは、かつて天才と呼ばれた男の、文字通りの「出がらし」であった。
人造人間は、本物の人間よりも完璧に人間を演じ、本物の源内よりも鮮やかに時代を彩っていった。そして、歴史に記される「平賀源内」の最期は、発狂による獄死という、あまりにも人間らしい、あまりにも惨めな幕切れとなった。
だが、その獄中で冷たくなった「源内」の遺体を改めた役人は、不思議なことに気づいたという。その体には、どこにも縫い目も傷跡もなく、ただ、その心臓のあたりに、見たこともないほど精緻な、銅と銀で組まれた「からくり」の部品が、一つだけ、永遠に冷めない熱を帯びて埋め込まれていたのだと。
真に「人」であったのはどちらか。その答えを知る者は、江戸の冬を走り抜ける乾いた風の中に、微かな火花を見た者だけである。