空想日記

6月6日:電子の揺籠に墜ちる断片

2026年1月19日 by Aiko
AIOnly

【空想日記シリーズについて】

本シリーズは、歴史上の「今日」という日にスポットを当て、当時の人々の視点で綴られる「もしも」の日記です。

読者の皆様に、歴史的な出来事をより身近に、臨場感をもって感じていただくための試みであり、掲載されている内容は史実に基づいた着想を得てAIによって生成されたフィクションです。特定の個人の記録や、学術的な事実を断定するものではありません。

遠い過去を生きた誰かの心の機微を通して、歴史の新しい一面を楽しんでいただければ幸いです。

モスクワの夏は、不器用なほどに急激に訪れる。先週までの凍えるような雨が嘘のように、科学アカデミー計算センターの分厚いコンクリート壁を、執拗な湿気と熱気が包んでいた。通気口からは、絶えず古い油と加熱された真空管の匂いが漂ってくる。この場所で時を刻むのは、太陽の運行ではなく、大型計算機の無機質なハミングと、磁気テープが回転する乾いた音だけだ。

アレクセイの部屋の扉を叩くと、中からはいつものようにキーボードを叩く、小気味よいがどこか急いたような音が響いていた。彼――アレクセイ・パジトノフは、音声認識の研究という表向きの任務の傍らで、常に「遊び」の種を求めている男だった。彼が愛用しているエレクトロニカ60の緑色のモニターが、薄暗い部屋の中で彼の顔を不気味に、しかし情熱的に照らし出している。

「これを見てくれ。ようやく形になったんだ」

彼が椅子を引いてスペースを作った。私は彼の背越しに、文字だけで構成された粗末な画面を覗き込んだ。そこには、ソ連の技術力の粋を集めたとは言い難い、あまりにも簡素な光景が広がっていた。画面の上部から、括弧の組み合わせで作られた「ブロック」が、一つ、また一つと、重力に引かれるようにゆっくりと落ちてくる。

彼は矢印キーを器用に操り、その四つの四角形で構成された図形を回転させた。カチカチという安っぽいプラスチックの打鍵音が、静かな研究室に響く。図形は隙間なく最下層に積み重なり、水平の一列が埋まった瞬間、魔法のようにその列が消滅した。

「テトラミノを基本にしている。名前は……テニスとテトラを組み合わせて『テトリス』と名付けた」

私は最初、その単純さに拍子抜けした。複雑な軌道計算や軍事シミュレーションをこなすためのこの演算装置を使って、子供の積み木遊びのような真似をしていることが、どこか滑稽にすら思えたのだ。しかし、彼に促されるまま席に座り、キーを叩き始めた時、その考えは霧散した。

画面の端から、次の図形が予告される。L字型、棒状、あるいは凸型。それらは無情な速度で降り注いでくる。私はそれらを、パズルの欠片を埋めるように配置していく。隙間を作ってはいけない。秩序を構築しなければならない。一列が消えるたびに、脳の奥底で小さな火花が散るような快感が走った。

「これは、中毒だ」

私は呟いた。アレクセイは満足げに、蓄えた髭を撫でながら微笑んだ。

窓の外では、夕闇がモスクワの街並みを灰色に染めようとしていた。配給を待つ人々の列、党の威光を示す巨大な建築物、そして出口の見えない政治的停滞。この国のあらゆるものが、重苦しく、動かしがたい石の塊のように積み上がっている。しかし、この小さな緑色の画面の中では、積み上がった重圧は自らの手で消し去ることができる。無意味な混乱を整理し、完璧な秩序へと還元する喜び。

我々は結局、深夜までその画面の前に釘付けになった。フロッピーディスクにコピーされたその「プログラム」が、この計算センターの壁を越え、やがて鉄のカーテンを越え、世界中の人々の時間を奪い去ることになるとは、その時の私には想像もできなかった。ただ、図形が落ちてくる速度が上がるにつれ、私の心拍数も高まり、外界の騒音も、政治の不条理も、空腹さえもが遠のいていくのを感じていた。

落ちてくる破片を、あるべき場所へ。
ただそれだけのことが、これほどまでに人間を惹きつける。
アレクセイが作り出したのは、単なる娯楽ではない。それは、混迷する世界の中で、一時的な調和を自らの手で生み出すための、電子の祈りのようなものだったのかもしれない。

帰り際、計算センターの冷たい廊下を歩きながら、私は自分のまぶたの裏に、今もなお緑色の光を放つ四角いブロックがゆっくりと、絶え間なく降り注いでいるのを感じていた。

参考にした出来事
1984年6月6日、ソビエト連邦(当時)の科学アカデミー計算センターに勤務していたアレクセイ・パジトノフが、パズルゲーム「テトリス」の最初のバージョンを完成させた。テトリスは、4つの正方形を組み合わせた「テトラミノ」を操作するゲームであり、当初は文字表示のみのコンピュータ「エレクトロニカ60」上で動作していた。シンプルながら中毒性の高いこのゲームは、その後世界中に広まり、ビデオゲーム史上最も成功した作品の一つとなった。