空想日記

6月8日:環を戴く王者の随伴者

2026年1月19日 by Aiko
AIOnly

【空想日記シリーズについて】

本シリーズは、歴史上の「今日」という日にスポットを当て、当時の人々の視点で綴られる「もしも」の日記です。

読者の皆様に、歴史的な出来事をより身近に、臨場感をもって感じていただくための試みであり、掲載されている内容は史実に基づいた着想を得てAIによって生成されたフィクションです。特定の個人の記録や、学術的な事実を断定するものではありません。

遠い過去を生きた誰かの心の機微を通して、歴史の新しい一面を楽しんでいただければ幸いです。

パリの王立天文台の回廊は、日が沈んでもなお昼間の熱気を孕んでいる。だが、厚い石壁の奥深く、私の書斎に漂うのは、古びた羊皮紙の乾いた匂いと、観測に用いる油灯が放つ僅かな煤の残り香だ。窓の外では、太陽王ルイ十四世が慈しむこの麗しき都が、静かな眠りにつこうとしている。しかし、私、ジョヴァンニ・ドメニコ・カッシーニに休息の時はまだ早い。天球の調和を司る主なる神が、今夜、私にどのような啓示を下されるか、それを確かめぬうちは。

長い鏡筒を持つ望遠鏡の前に立つと、背筋が微かに震えるのを感じる。去る五月、私はこの巨大な「眼」を、天の王者サトゥルヌス(土星)へと向け続けていた。かつて、あの偉大なるガリレオ師が奇妙な「耳」あるいは「腕」と呼んだ環を持つ惑星。そして、クリスティアーン・ホイヘンス殿が発見した衛星テュポン(タイタン)、さらに私が昨年の秋に見出した、明滅する奇妙な衛星(イアペトゥス)に続く、新たな光を求めて。

夜気が肌を刺し始める。望遠鏡の接眼レンズに片目を押し当て、呼吸を整える。視界の向こうに、冷徹なまでの美しさを湛えたサトゥルヌスが浮かび上がる。真珠のような光沢を放つ本体を、薄い氷の薄片のような環が優雅に縁取っている。その静寂に満ちた姿を見つめていると、地上の喧騒がいかに空虚なものであるかを痛感せずにはいられない。

昨日までの観測で、私はある確信を抱きつつあった。サトゥルヌスのごく近く、既存の衛星とは異なる位置に、極めて微かな、しかし毅然とした輝きを放つ「点」が存在している。それは恒星ではない。背景の星々との相対的な位置を数夜にわたって追ってきたが、その「点」は確かにサトゥルヌスの重力の檻に繋ぎ止められ、主星の周りを忠実に巡っている。

今夜、その光は予測した位置に現れた。私は震える指でペンを握り、観測台帳の端に小さな点を記す。

それは幻影ではない。レンズに付着した埃でもない。サトゥルヌスの環のすぐ外側に、新たな衛星が確かに存在している。私はこの発見を、我が偉大なる庇護者ルイ十四世に捧げるべく、「ルイスの星々(シデラ・ロドイケア)」の一つとして列することを決意した。王の栄光が天の果てまで及んでいることの証左として。

眼が眩む。この小さな光の粒が、実は月と同じように巨大な質量を持ち、想像も及ばない高みで永遠の旋回を続けているという事実に。我ら人間は、泥濘に足を取られながら、ただ天空の運行を記述することしかできない。だが、この瞬間、私の意識は重力から解き放たれ、冷たい真空を越えて、あの新しい星の傍らへと飛翔する。

後世の天文学者たちは、この衛星にどのような名を冠するのだろうか。古代の巨神の娘、レアの名を呼ぶだろうか。それとも全く別の、私が思いも寄らない呼び名を与えるのだろうか。どのような名になろうとも、1672年のこの夜、パリの静寂の中で、私が最初にその姿を捉えたという事実は、この台帳に刻まれた墨の色とともに永遠に残るだろう。

夜が明ける前に、私はもう一度望遠鏡を覗き込んだ。新しき星は、王者の随伴者としての責務を果たすべく、深い闇の中を静かに移動していた。私は窓を開け、夜明け前の冷気を吸い込む。東の空が微かに白み始め、パリの屋根が輪郭を取り戻していく。神が創りたまいし宇宙の秩序は、今夜、また一段とその深淵を私に垣間見せてくれたのだ。

参考にした出来事:1672年6月8日、天文学者ジョヴァンニ・ドメニコ・カッシーニが、土星の第5衛星「レア」を発見した。これは、カッシーニが1671年に発見したイアペトゥスに続く、彼にとって2つ目の土星衛星の発見であった。カッシーニは自ら発見した土星の衛星(イアペトゥス、レア、テティス、ディオネ)を、当時のフランス国王ルイ14世を讃えて「シデラ・ロドイケア(ルイの星々)」と名付けた。後にジョン・ハーシェルによって、ギリシャ神話のタイタンの一人である「レア」と命名された。