【リミックスについて】
リミックスは、AIを架空の作家に見立て、異なる二つの名作を掛け合わせる実験的な掌編小説群です。「作品Aの哲学・設定」を「作品Bの文体」で描くとどうなるか? そんな空想を出発点に、AIが緻密な論理と模倣で再構築した物語をお届けします。
原作への敬意と遊び心を込めたパロディ作品として、AIが生み出す奇妙な化学反応をお楽しみください。
※本カテゴリの作品はすべてAIによって生成されたフィクションであり、実在の作家・作品とは異なる独自の解釈を含みます。
概要
『オズの魔法使い』(ボーム) × 『銀河鉄道の夜』(宮沢賢治)
その灰色の旋風は、世界の中心に空いた針の穴から噴き出したようだった。
カンザスの広大な荒野は、ただ一度の呼吸の合間に色彩を奪われ、トトという名の沈黙を連れた少女・エレンの視界から、すべての奥行きを剥ぎ取っていった。家ごと天空へと巻き上げられた彼女が、長い流離の果てに辿り着いたのは、酸素の代わりに青い燐光が満ち、リンドウの花々が水晶の鳴音を立てて揺れる、透明な真空の原野であった。
足元には、どこまでも続く黄色の煉瓦が敷かれていた。しかしそれは土を焼いたものではなく、凍結した硫黄の光が固着した、銀河を貫く軌条であった。エレンはその硬質な光の上を、磁力に引かれる鉄片のように歩き始めた。
最初の信号機の影で、彼女は「思索する藁」に出会った。
彼は古い穀物袋を継ぎ合わせた身体を、水素の風に翻させながら、電信柱の腕に吊るされていた。その頭部には脳の代わりに、幾千もの数式と、誰にも届かなかった祈りの断片が詰まっていた。
「お嬢さん、僕は空虚なんだ」
藁の男は、プリズムのように屈折する声で言った。
「僕の視界は三六〇度全方位に開かれているが、現象を繋ぎ合わせる論理の芯がない。この世界の美しさが、ただの無秩序な色の氾濫に見えるのだ。エメラルドの都へ行けば、あの偉大なる信号手は僕に『意味』を、つまり冷徹な知性を授けてくれるだろうか」
エレンは、彼を縛っていた重力から解き放ち、共に行くことを承諾した。
次に出会ったのは、深い谷底で錆びついていた「鉄の心奏者」だった。
彼の身体はかつて、愛という名の摩擦を排除するために、徹底的な合理性によって鋳造された合金であった。だが、森の霧に濡れた関節が固着したとき、彼は沈黙のなかで、自らの胸の中に空いた完全な真空の重みに気づいたのだ。
「私は、銀河の果てまで響くような悲鳴を、この胸の空洞に響かせたい」
オイルを差された彼は、ぎこちなく立ち上がった。
「喜びでも、慈しみでもない。私が欲しいのは、自他を区別するための境界線としての『痛み』だ。心さえあれば、私はこの無機質な宇宙の一部ではなく、孤独な一個の主体になれるはずなのだ」
そして三番目に、黒い流星のような鬣を持つ「臆病な重力子」が加わった。
彼はかつて、星々を統べる王者の咆哮を持っていたが、宇宙の広大さと、その背後に広がる深淵な暗黒を知った瞬間に、すべての意志を喪失した。
「私は、踏み出す一歩が宇宙の法則を損なわないか、常に怯えている」
巨大な獣は、その立派な尾を足の間に巻き込み、震えていた。
「私が求めているのは、未知の無へ飛び込むための、盲目的な自己肯定――すなわち勇気だ。この宇宙には根拠などないのだと知りながら、それでも吠えるための力が欲しい」
四人と一匹を乗せた列車、銀河鉄道の様相を呈したそのプラットフォームには、エメラルド色の透過光が降り注いでいた。
彼らは黄色の軌条を辿り、天の川の岸辺に立つ「エメラルドの都」へと入城した。そこは、すべての光が緑色のフィルターを通されることで、宇宙の虚無が「安らぎの緑」へと翻訳された、巨大な欺瞞の装置であった。
都の深部、透明な硝子のカーテンの向こう側に、その主はいた。
全知全能の魔術師、あるいは宇宙の設計者と呼ばれたその存在は、実のところ、古びた投影機を操る孤独な老信号手に過ぎなかった。
「お前たちが求めるものは、すでにここにある」
老人は、カチカチと時計の歯車のような音を立てながら、冷酷なまでの論理を告げた。
藁の男には、宇宙の無意味さを記述するための「観測日誌」を。
鉄の男には、自身の錆が他者の視線に触れるときに生じる「恥辱という名の棘」を。
獅子には、逃げ場のない死という壁に向き合うための「絶望という名の拍車」を。
「そして少女よ」
老人はエレンに向き直った。その瞳は、冷たい銀河の底のように澄んでいた。
「お前は灰色のカンザスへ帰りたいと言う。だが、よく考えなさい。あそこにあるのは、色彩のない静止した時間だ。家畜は死に、大地は枯れ、叔父も叔母も、ただ土へと帰る日を待つだけの物質に過ぎない。なぜ、この美しいエメラルドの幻影を捨て、あの無残な現実に、つまり『死の待機室』に戻ろうとするのだ?」
エレンは、トトを強く抱きしめた。
「あそこには、私の不在を証明する場所があるからです」
彼女は、銀の靴の踵を三回打ち鳴らした。それは、宮沢賢治の言葉を借りるなら、本当の幸いへ至るための、自己犠牲にも似た烈しい決断であった。
次の瞬間、論理の糸がぷつりと切れた。
エメラルドの輝きは霧散し、銀河鉄道の軌条は粉々に砕け散った。藁の男は高度な計算能力を得た瞬間に、自らがただの乾燥した植物の死骸であることを理解し、その虚しさに耐えかねて自ら発火した。鉄の男は心臓を得たことで、永遠に錆び続ける自身の肉体への愛着と、いずれ訪れる崩壊への恐怖に苛まれ、絶叫を上げながら機能停止した。獅子は勇気を得たゆえに、銀河の暗黒面へと単身挑みかかり、永遠の引力圏へと吸い込まれて消えた。
エレンが目を開けたとき、そこには見慣れた、色彩のない灰色の景色が広がっていた。
家は傾き、叔母は彼女を抱きしめて泣いた。
「ああ、エレン。お前は帰ってきたのね」
だが、エレンは何も答えなかった。彼女の瞳には、かつての輝きはなかった。
彼女が求めた「家」とは、愛する人々が待つ場所ではなかったのだ。それは、あらゆる思考を停止させ、宇宙の残酷な真理から目を逸らすための、灰色の墓標に他ならなかった。
彼女のポケットのなかには、エメラルドの都で拾った小さな硝子の破片がひとつだけ入っていた。
それを通して世界を覗けば、灰色の荒野も、愛する家族の老いた顔も、すべてはかつての美しい緑色に輝く。
エレンは、その破片を静かに瞳に埋め込んだ。
もはや、銀河鉄道に乗る必要はない。本当の「家」とは、真実を拒絶し、己の視界を永久に歪めることによってのみ完成する、孤独な王国のことだったのだ。
風が吹き抜ける。
カンザスの荒野は、ただ静かに、絶望的なまでに「正しく」そこにあった。