空想日記

6月30日: タイガに落ちた火

2026年1月21日 by Aiko
AIOnly

【空想日記シリーズについて】

本シリーズは、歴史上の「今日」という日にスポットを当て、当時の人々の視点で綴られる「もしも」の日記です。

読者の皆様に、歴史的な出来事をより身近に、臨場感をもって感じていただくための試みであり、掲載されている内容は史実に基づいた着想を得てAIによって生成されたフィクションです。特定の個人の記録や、学術的な事実を断定するものではありません。

遠い過去を生きた誰かの心の機微を通して、歴史の新しい一面を楽しんでいただければ幸いです。

その朝は、いつもと寸分違わぬはずであった。シベリアの広大なタイガの森は、夜明け前からひっそりと息づき、僅かな風がカラマツの葉を揺らす音だけが聞こえていた。わしはいつものようにチュムから顔を出し、東の空を仰いだ。冷たい空気が肺を満たし、鼻腔を、森の湿った土と、遠くで燃える薪の匂いがくすぐる。まだ低い位置にある太陽は、朝露に濡れた草木をきらめかせ、一日が始まる静謐な美しさを湛えていた。息子はトナカイの世話に出かけ、嫁は朝食の準備を始めている。平穏な一日が、これから始まるのだと、わしは疑いもせず、遥か東の森の奥をぼんやりと見ていた。

その時だ。

遠く、遥か彼方、東の空の縁が、突然、鈍い光を放った。それは太陽とは異なる、しかし目を焼くような、奇妙な青白い閃光であった。わしは思わず目を細め、何事かと見つめた。閃光は瞬く間に消え去ったが、その直後、耳の奥から響き渡るような、重く、低いうなりが聞こえ始めた。それはまるで、地の底から湧き上がる巨大な獣の咆哮のようであり、同時に、遠雷のような轟きでもあった。音はみるみるうちに膨れ上がり、空気を震わせ、わしの胸を直接叩くかのように響いた。

次の瞬間、空が砕け散るかのような爆音が、天地を揺るがした。
言葉にしようもない、想像を絶する轟音。それは雷の千倍、いや万倍もの響きで、わしの鼓膜を破り、内臓を締め付けるかのようだった。視界の隅では、東の空が再び、今度は太陽の何倍もの明るさで、白く、青く、そして紅く、狂ったように燃え上がった。火柱が天を突き刺し、その光は、数瞬の間、夜明け前の森を真昼の如く照らし出した。

熱波が襲いかかった。肌が焼けるような、灼熱の風。
そして、大地が怒り狂った。わしは立っていられず、膝から崩れ落ちた。チュムの壁が震え、木製の皿が棚から滑り落ち、地面はまるで巨大な獣がのたうつかのように激しく揺れた。近くに生えていた古木の枝が、乾いた音を立てて折れ、わしの頭上へと降ってきた。森の木々は、葉を震わせ、悲鳴を上げるかのように揺れ動いた。息子や嫁の声が聞こえたが、その音は爆音にかき消され、何も聞き取れなかった。ただ、本能的な恐怖が全身を支配し、わしは地面に伏し、ただひたすら、この悪夢が終わることを願った。

どれほどの時間が過ぎたのか。数十秒、それとも数分だったのか。
やがて、狂ったような轟音は、ゆっくりと、しかし確実にかき消えていった。
耳鳴りがする。何も聞こえない。沈黙。それは、世界のすべての音が消え去ったかのような、あまりにも不気味な静寂だった。
わしは震える体でゆっくりと顔を上げた。

東の空には、巨大な煙の柱が、天に向かってまっすぐに立ち上っていた。その煙は、まるで神々が吸う煙管から吹き出されたかのように、途方もないスケールで空を覆い尽くし、太陽の光を遮っていた。辺りには、木々が焦げ付くような匂い、そして鼻を突く、硫黄のような異臭が漂っている。

息子と嫁が、恐怖で顔を青ざめさせながら、わしのもとへ駆け寄ってきた。
「アバカン、一体、何が……」
息子の言葉は震えていた。わしにもわからぬ。わしはこのタイガで何十年も生きてきたが、こんな恐ろしい光景は、生まれてこの方、一度も目にしたことがない。

森は、一部が燃え上がり、遠くでは黒煙が渦巻いていた。鳥の声は聞こえず、虫の羽音も聞こえない。動物たちの気配も、普段は満ち溢れているはずの生命の鼓動も、すべてが止まってしまったかのようだった。トナカイたちは興奮して鼻を鳴らし、柵を打ち破らんばかりに暴れていた。

日が沈み、夜が訪れた。しかし、その夜は、普段のシベリアの夜とは全く異なるものだった。空は、まるで月がいくつも同時に昇ったかのように、異常に明るかったのだ。真夜中になっても、まるで夕暮れ時のような薄明かりが続き、わしはその不気味な光の下で、何も言わず、ただ、空を見上げ続けた。遠く、東の地平線からは、炎の橙色が微かに見え隠れしていた。

これは、何を意味するのか。
天地創造の時に現れたという、火の精霊が怒り狂ったのか。
それとも、空の神が、我ら人間に何かを伝えようとしているのか。
タイガの奥深くで、一体何が起こったのか。
わしには、何一つ理解できなかった。
ただ、わしらの暮らすこの大地が、この森が、もはや以前と同じではないことを、全身で感じていた。
不安と畏怖が、わしの心を締め付ける。
わしは、祈りを捧げた。森の精霊に、空の神に、どうか、この大地の、この人々の、未来が守られますように、と。

参考にした出来事
1908年6月30日: ツングースカ事件
ロシア帝国(現ロシア連邦)シベリア地方のツングースカ川上空で発生した大規模な爆発現象。隕石の落下によるものと推測されているが、その破片やクレーターは発見されておらず、未だに多くの謎に包まれている。爆発の衝撃波は広範囲に及び、タイガの森林約2,000平方キロメートルがなぎ倒されたとされる。爆発の光は遠くロンドンでも観測され、数夜にわたって異常な空の明るさ(白夜現象)が報告された。