【リミックスについて】
リミックスは、AIを架空の作家に見立て、異なる二つの名作を掛け合わせる実験的な掌編小説群です。「作品Aの哲学・設定」を「作品Bの文体」で描くとどうなるか? そんな空想を出発点に、AIが緻密な論理と模倣で再構築した物語をお届けします。
原作への敬意と遊び心を込めたパロディ作品として、AIが生み出す奇妙な化学反応をお楽しみください。
※本カテゴリの作品はすべてAIによって生成されたフィクションであり、実在の作家・作品とは異なる独自の解釈を含みます。
概要
『ドリトル先生航海記』(ロフティング) × 『東方見聞録』(マルコ・ポーロ)
大汗(ハーン)の宮廷は、幾何学的な静寂と、相反する野獣の咆哮が交差する、この世の果てのような場所であった。黄金の玉座に座す支配者は、私――はるか西方から、言葉を持たぬ者たちの声を拾い集めるためにやってきた博物学者――に対し、一通の親書を差し出した。その指先には、あらゆる文明を蹂躙し、地図を塗り替えてきた者の冷酷な洗練が宿っていた。大汗が求めたのは、金銀財宝でも領土の拡張でもない。彼が渇望したのは、彼の帝国に生息する数多の獣、鳥、魚、そして昆虫たちが共有している「隠された歴史」の翻訳であった。
「この地の民は余を崇めているが、余の庭に住まう百足(むかで)や、砂漠を往く駱駝が余をどう見ているか、それを知る者はいない」と、大汗は低い声で言った。その瞳は、深淵を覗き込む猛禽のそれであった。「語れ、異邦の医術師よ。お前には、あの深海から引き上げられたという『静止した記憶』の声を聴く力があると聞き及んでいる」
私が対峙させられたのは、大汗の広大な庭園の最奥、地下深くの塩湖に沈められていた、巨大な真珠色の殻を持つ軟体動物であった。それはかつてロフティングの記録に登場した伝説の殻、あるいはマルコ・ポーロが記し得なかった東方の極北に眠る神格の残滓のようでもあった。その殻には、微細な溝が幾千年もかけて刻み込まれており、光の屈折によって、絶えず変化する未知の文字のように見えた。
私は膝をつき、聴診器という名の、文明の細い糸をその殻に当てた。
旅の始まりは、パドヴァの古びた診療所からだった。私は傷ついた雀や、足を折った猟犬たちの囁きを聴き、彼らの解剖学的な痛みを言語的な苦悩へと変換することに生涯を捧げてきた。しかし、この東方の地で見出した真理は、私のそれまでの人道的な博愛主義を根底から揺さぶるものだった。
大汗の帝国を東へ、さらに東へと進むにつれ、私は気づかされた。この世界の生命体は、人間に語りかけるために沈黙しているのではない。彼らは、人間という種が介在する余地のない、壮大な論理体系の中で、冷徹に情報の交換を行っているのだ。例えば、タタール平原に群生する蝗(いなご)の羽音は、気象の変動を告げる予報ではなく、帝国の崩壊を待機するカウントダウンであった。また、大汗の玉座の周りを舞う孔雀の羽の模様は、宮廷内で進行する毒殺の計画を、色素の配合という暗号によって示し合わせていたのである。
私は大汗の随行員として、チベットの凍てつく高地から、真珠採りの潜水夫たちが命を落とす南方の海域まで、あらゆる「非人類の領土」を横断した。そこでは、言葉は音ではなく、化学物質の分泌や、微細な筋肉の震え、あるいは死骸の腐敗が進む順序によって紡がれていた。マルコ・ポーロが黄金の屋根や香辛料の香りに目を奪われている間、私はその背後にある、沈黙の議事録を読み解いていった。
「先生、彼らは何を言っているのですか?」と、若き記録係のスタビンズが震える声で尋ねたのは、私たちが砂漠の砂の下で、一万年の眠りから覚めた巨大な甲虫を発見した時のことだった。
私は答えなかった。答えることができなかったのだ。その甲虫の触角が描く軌跡は、人類が発明したあらゆる数学的定理を凌駕する美しさで、「個体の消滅は種の保存において、単なる誤差に過ぎない」という冷厳な事実を論証していたからだ。
やがて、私は大汗の前へ戻り、あの巨大な真珠色の殻――「海神の図書館」とも呼ばれるべき存在――の翻訳を披露する日が来た。宮廷には、麝香と沈香の香りが立ち込め、重臣たちが息を殺して私の唇を見つめていた。
「大汗よ、この殻に刻まれているのは、あなたの帝国の領土を記した地図ではありません」
私は静かに語り始めた。私の声は、かつて動物たちと語り合った時の穏やかさを失い、解剖刀のような鋭さを帯びていた。
「ここには、この星の皮膚が剥がれ落ちるまでの周期と、その後に訪れる、言葉を必要としない生命の再編が記されています。鳥たちは、あなたの偉大さを称えるために歌っているのではありません。彼らは、あなたの呼吸が止まった後、どの臓器から順に啄(ついば)むのが最も効率的であるかを、和声学的な厳密さで議論しているのです」
一座に凍りつくような沈黙が走った。大汗の表情は、石像のように動かなかった。
「さらに申し上げましょう。あなたが支配していると信じているこの大地は、実のところ、根を張る植物たちが地下で張り巡らせた通信網の一部に過ぎません。あなたの軍隊が移動する足音は、彼らにとっての微弱な電気信号であり、彼らはそれを利用して、自分たちの種子をより遠くへ運ばせるための刺激として利用しているのです。つまり、大汗よ。あなたは帝国の主ではなく、植物たちの繁殖を司る、自覚なき奴隷に過ぎないのです」
これこそが、動物の言葉を解する者が到達する、究極の論理的帰結であった。理解とは、共感ではない。それは、自身が世界の中心であるという特権的な幻想を、一片の慈悲もなく剥ぎ取られるプロセスに他ならない。私がかつてイギリスの小さな村で夢想していた「万物との調和」などという甘美な教訓は、この東方の巨大な真理の前では、赤子の戯言にも等しかった。
大汗はゆっくりと立ち上がった。彼の背後にある広大な庭園から、数千の鳥が一斉に飛び立った。その羽ばたきは、完璧に計算された不協和音を奏で、私の脳裏に「終わりの始まり」という概念を直接流し込んできた。
「素晴らしい」と、大汗は微笑んだ。その笑みには、人間的な感情の欠片もなかった。「翻訳とは、これほどまでに残酷なものか。余は、この世界の真の主たちが、余のことを家畜か、あるいは移動する肥料としてしか見ていないことを理解した」
大汗は私の功績を称え、最高の栄誉を与えると宣言した。その「栄誉」の内容こそが、この物語の完璧な皮肉であり、論理的必然であった。
私は、大汗の個人収集品(コレクション)の一部として、あの真珠色の巨大な殻の中に生きたまま封じ込められることになったのだ。私の舌は抜かれ、耳には特殊な薬液が注がれた。もはや私は、人間の言葉を話すことも、聴くこともできない。ただ、殻の微細な振動を通じて、地球が発する、冷たく無機質な論理の声だけを永久に受信し続ける装置へと変貌したのである。
マルコ・ポーロが記した『東方見聞録』の片隅には、決して語られることのない空白の章が存在する。そこには、黄金の都市も、不思議な鳥も登場しない。ただ、大汗の宮廷の奥深くで、一人の男が巨大な殻と同化し、人間という種の終焉を、誰にも理解されない沈黙の形式で書き留め続けているという事実だけが、ただ静かに、理法として存在している。
私は今、殻の内側で、肺に満たされた塩水を通じて聴いている。それは、私の皮膚を食い破ろうとする微生物たちが合唱する、完璧なまでに美しい、簒奪の組曲である。