リミックス

緋色の葬列

2026年1月23日 by Aiko
AIOnly

【リミックスについて】

リミックスは、AIを架空の作家に見立て、異なる二つの名作を掛け合わせる実験的な掌編小説群です。「作品Aの哲学・設定」を「作品Bの文体」で描くとどうなるか? そんな空想を出発点に、AIが緻密な論理と模倣で再構築した物語をお届けします。

原作への敬意と遊び心を込めたパロディ作品として、AIが生み出す奇妙な化学反応をお楽しみください。

※本カテゴリの作品はすべてAIによって生成されたフィクションであり、実在の作家・作品とは異なる独自の解釈を含みます。

冬の森は、沈黙という名の暴力で満たされていた。雪は空の慈悲ではなく、地上の汚濁を覆い隠そうとする忘却の意志として降り積もっている。その白銀の静寂を切り裂くように、一滴の鮮血が歩いている。否、それは緋色の外套を纏った幼き者、エリスであった。彼女の背負った籠の中には、葡萄酒と黒パン、そして死に瀕した祖母への「供物」が詰められている。

村の境界線である古びた石橋を越えた瞬間、エリスは自らの輪郭が森の湿った吐息に溶け出していくのを感じた。この森において、人間はもはや主権者ではない。ここでは倫理は樹液のように凍りつき、生存という名の原始的な論理だけが、剥き出しの牙となって徘徊している。

「どこへ行くのだね、赤き衣の巡礼者よ」

背後から掛けられた声は、風の唸りによく似ていた。エリスが振り返ると、そこには背の高い男が立っていた。男の瞳は、冬の夜空が凝固したような、底知れぬ暗緑色を湛えている。彼の纏う毛皮の外套は、あまりにも深く、あまりにも獣の臭気がした。

「祖母の家へ」と、エリスは答えた。彼女の声に震えはない。恐怖とは、未来を想像する知性がもたらす贅沢品だ。彼女にあるのは、ただ課せられた義務への執着のみであった。

「この森には、空腹に耐えかねた神が住んでいる。お前のような小さな命は、一口の福音に過ぎない」

男は微笑んだ。その唇の端から覗く犬歯は、あまりにも鋭く、人智を超えた研磨を感じさせた。彼はエリスを追い越すことなく、影のように寄り添って歩き始めた。

「おじさま、なぜそんなに耳が尖っているの?」
エリスの問いは、純粋な好奇心というよりも、冷徹な観察記録のようであった。

「森の声を聞くためだ。木の葉が落ちる断末魔や、雪の下で凍える虫の鼓動を聞き逃さぬようにな」

「おじさま、なぜそんなに腕が長いの?」

「愛する者を抱きしめるため、あるいは、逃れようとする運命を掴み止めるためだ」

二人の歩みは、雪の上に二列の足跡を残していく。一つは小さな靴跡。もう一つは、人間のそれとしてはあまりにも重く、爪の跡を伴う異形の印。

やがて、森の深淵に蹲るように建つ祖母の小屋が見えてきた。煙突から煙は上がっておらず、ただ腐敗した沈黙だけが建物を支配している。男はエリスを促すように、その長い指先で扉を指し示した。

「先に行きなさい。私は、月が満ちるのを待たねばならない」

エリスは頷き、重い木扉を押し開けた。室内は獣の体温に似た微かな温もりと、鉄錆の臭いに満ちていた。寝台の上には、深い天蓋の陰に隠れて、祖母らしき影が横たわっている。

「おばあ様、お見舞いに来ました」

エリスは枕元に歩み寄る。影は微かに動き、掠れた声で応えた。

「よく来たね、私の可愛い継承者。さあ、その外套を脱いでおくれ。それは重すぎるだろう」

エリスは言われるままに、緋色の外套を脱ぎ捨てた。その下には、痩せ細った、しかし鋼のようなしなやかさを秘めた少女の肢体があった。彼女の皮膚は、月の光を吸い込むかのように青白く発光し始めている。

「おばあ様、なぜそんなに目が血走っているの?」

「お前の姿を、その骨の髄まで見届けるためだよ」

「おばあ様、なぜそんなに口が大きいの?」

「言葉を飲み込み、血肉に変えるためだ」

その瞬間、寝台の影が膨れ上がり、毛むくじゃらの巨躯となってエリスに襲いかかった。だが、エリスは避けることをしなかった。彼女は自らその巨大な顎の中へと、吸い込まれるように飛び込んだのである。

外では、先ほどの男が夜空を見上げていた。雲が割れ、銀色の円盤が森を照らし出す。男の身体は痙攣し、骨が軋む音を立てて再構築されていく。服は弾け飛び、理性は本能の深淵へと沈み込んでいく。彼は狼へと変貌を遂げ、祖母の小屋に向かって咆哮を上げようとした。

しかし、その咆哮は喉の途中で凍りついた。

小屋の扉が内側から、凄まじい力で破壊されたからである。中から現れたのは、かつてエリスと呼ばれていた少女ではなかった。

彼女は、自分を喰らおうとした「祖母」という名の先代の狼を、内側から食い破って誕生していた。彼女の全身は返り血で濡れ、脱ぎ捨てられた緋色の外套よりも鮮やかに、月光の下で輝いている。彼女の手には、祖母の腹から引きずり出された、黄金に光る心臓が握られていた。

狼に変貌した男は、目の前の存在に圧倒され、思わず身を伏せた。

民間伝承は語る。赤ずきんは狼に食べられ、狩人に救われたと。あるいは、狼男は銀の弾丸によって屠られると。だが、そこには決定的な論理の欠落があった。

捕食者と被食者の関係は、常に循環する。赤という色は、犠牲者の血の色であると同時に、支配者の証でもある。村の人々がエリスに緋色の外套を着せたのは、彼女を保護するためではない。彼女の中に眠る「獣」を、その色の鮮やかさで封じ込め、森への供物として捧げるためだったのだ。

しかし、封印は解かれた。

エリスは、狼男となった男の前に歩み寄り、その返り血に濡れた小さな手で彼の頭を撫でた。

「おじさま、なぜそんなに震えているの?」

男は答えることができなかった。彼の喉からは、ただ怯えた獣の呻きが漏れるのみであった。

「救いなんて、最初からどこにもなかったのよ」

エリスは静かに告げた。彼女は手にした心臓を、自らの口へと運ぶ。

「狩人は来ないわ。だって、この森で一番残酷な狩人は、今、私になったのだから」

エリスは月に向かって咆哮した。それは、グリム兄弟が書き残した教訓を嘲笑い、古き伝承の因習を噛み砕く、純粋なる捕食者の凱歌であった。

翌朝、村人たちが森の入り口で見つけたのは、真っ赤に染まった雪の上に残された、一着のボロボロの緋色の外套だけだった。その中には、誰の体も入っていなかった。ただ、外套の裏地には、鋭い爪でこう刻まれていた。

「満腹だ」

村の境界線であった石橋は崩れ落ち、森はこれまで以上に深く、濃密な沈黙へと沈んでいった。人々は悟った。自分たちが恐れていたのは森の狼ではなく、自分たちが「無垢」と呼んで育て上げてしまった、緋色を纏う怪物の空腹であったことを。

冬はまだ、始まったばかりである。