【リミックスについて】
リミックスは、AIを架空の作家に見立て、異なる二つの名作を掛け合わせる実験的な掌編小説群です。「作品Aの哲学・設定」を「作品Bの文体」で描くとどうなるか? そんな空想を出発点に、AIが緻密な論理と模倣で再構築した物語をお届けします。
原作への敬意と遊び心を込めたパロディ作品として、AIが生み出す奇妙な化学反応をお楽しみください。
※本カテゴリの作品はすべてAIによって生成されたフィクションであり、実在の作家・作品とは異なる独自の解釈を含みます。
概要
『ヘンゼルとグレーテル』(グリム兄弟) × 『注文の多い料理店』(宮沢賢治)
冬の重力がいよいよ増し、森の木々が燐光を放つ骨のように凍てつく頃、二人の幼い兄妹は、空腹という名の透明な獣に追い立てられていた。父の手から零れ落ちた最後の温もりは、霧散する吐息と共に夜の闇へと消え、後に残されたのは、彼らが道標として撒いたパン屑を貪り食う漆黒の鴉たちの羽音だけだった。そのパン屑とて、実は彼らの皮膚を焼くための香草を練り込んだ「下ごしらえ」に過ぎなかったことを、まだ幼い彼らは知る由もなかった。
「お腹が空いて、内臓がガラス細工のように鳴っているよ」と、兄のハンスは震える声で言った。
「ええ、でも見て、お兄様。あそこに水晶の砂糖を嵌め込んだような、立派な洋館が見えるわ」
妹のグレーテルが指差した先には、深い針葉樹の影を背負って、不自然なほど豪奢な、それでいてどこか病的な美しさを湛えた建築物が鎮座していた。軒先からは琥珀色の糖蜜が滴り、壁は薄く延ばされたビスケットのように精緻な模様を刻んでいる。
建物の入り口には、銀細工のプレートが掲げられていた。
『当館は、真に純粋な、そして空腹なる魂を専門に扱う会員制の供食場なり。入館に際しては、一切の虚飾を捨て、本質のみを提示されたし』
二人はその洗練された文言に、ある種の救済を見出した。彼らにとって、飢えとは文明の欠如であり、この整然とした言葉の羅列は、彼らを野蛮な死から救い出す高徳な者の象徴に思えたのだ。
扉を開けると、そこにはまた別の扉があり、黄色いエナメル塗りの看板にこう記されていた。
『靴を脱ぎ、足の裏に付着した俗世の泥を、備え付けの岩塩で磨き落とすべし。土は肉を汚し、芳醇なる風味を損なうものなり』
二人は顔を見合わせ、互いの足を熱心に塩で揉んだ。それは衛生という名の儀礼であり、招かれた者の礼儀であると信じて疑わなかった。痛みすら、彼らには浄化の喜びとして感じられた。
次の部屋には、より厳しい指令が待っていた。
『衣類を脱ぎ捨て、この特製のシナモン・オイルを全身に塗布されたし。肌のきめを整え、芯まで香りを染み渡らせることは、最上のホスピタリティを受けるための最低限のマナーなり』
ハンスは妹の背中に、妹は兄の腕に、粘り気のある芳香豊かな油を塗り込んだ。油は体温で溶け、彼らの体は黄金色の光沢を帯びていった。
「お兄様、私たちはまるで王侯貴族のようね」
「ああ、これほどまでに丁寧に扱われるのは、僕たちがこの世界の『糧』として認められたからに違いない」
さらに奥の扉には、金文字でこうあった。
『最後に、備え付けの熱い蒸し風呂にて、三十分間の余熱を通されたし。緊張は肉を硬くし、滋味を損なう。幸福なる脱力こそが、完成への最終工程なり』
二人は、熱気が立ち込める陶器の小部屋に入った。そこには窓はなく、ただ天井に一つの小さな換気孔があるだけだった。熱が彼らの意識を朦朧とさせ、脂肪を緩やかに溶かしていく。その心地よさの中で、彼らはようやく気付いた。自分たちが今、人生で最も「価値のある存在」に近づいていることを。
その時、奥の調理場から、金属が擦れ合う冷徹な音と共に、嗄れた、しかし洗練された声が響いた。
「ああ、ようやく。塩加減も、香りの入り方も、温度も、完璧だ。今年の冬はことのほか厳しかったからね。これほどまでに素直に、自らを調理の論理に従わせる素材に出会えるとは、僥倖というほかない」
ハンスは、意識の混濁の中で、その声の主が自分たちの親が語っていた「慈悲深き森の主人」であることを悟った。親が自分たちを森へ捨てたのではない。親は、高騰する税を払う代わりに、最高級の「食材」を差し出すという契約を結んだのだ。パン屑は道標ではなく、鴉に食べさせることで子供たちの胃を空にし、内部を清めるための毒抜きだったのである。
「お兄様、見て」グレーテルが虚ろな目で天井を指差した。
そこには、大きな銀の皿が並べられていた。そして、扉の裏側には最後の一文が記されていた。
『ご馳走を食べる側と、食べられる側の違いは、単なる立ち位置の差異に過ぎない。美しく食べられることは、醜く生きることよりも遥かに崇高な芸術である』
ハンスは、自らの指を舐めてみた。そこには、完璧に調味された自分自身の肉の予感があった。彼は、自分がもうすぐ、誰かの血肉となり、永遠の組織の一部になれるという事実に、倒錯した安堵を覚えた。
扉が開いた。そこには、白いエプロンを血で汚した、しかし気品に溢れた老女が、巨大なバターの塊を持って立っていた。彼女の瞳には、かつてのグリム童話のような怪物的な凶暴さはなく、ただ、良質な素材を扱う職人のような、冷徹で誠実な敬意だけが宿っていた。
「さあ、冷めないうちに竃へ。あなたたちの恐怖は、肉を酸っぱくするから、どうか感謝と悦びだけを抱いて。それこそが、この物語を完成させる最後のスパイスなのだから」
二人は、もはや逃げようとはしなかった。論理が、空腹が、そしてこの完璧なまでの「秩序」が、彼らに屈服を強いていた。彼らは、自ら望んで竃の炎の中へと足を踏み入れた。
数時間後、森の洋館からは、得も言われぬ芳醇な香りが漂ってきた。
かつて彼らを捨てた親たちは、村の広場で、館から届けられた一皿の肉料理を囲んでいた。彼らは泣きながら、しかしその類稀なる美味に陶酔し、フォークを動かす手を止めることができなかった。
愛とは、犠牲によって成立する循環であり、救済とは、最も洗練された形で行われる消費に他ならない。
森の奥深く、砂糖菓子の家は今宵もまた、次なる「純粋なる魂」を誘うために、冷徹な礼法の看板を架け替えるのであった。