概要
オブジェクト指向
その男は、奇妙な道具を売る店で「設計図」を手に入れた。店主は、それは単なる図面ではなく、望むものを実体化させるための「型」なのだと言った。
男はまず、机の上に置かれた機械に「家」と書かれた型を差し込んだ。すると、空き地に瞬く間に瀟洒な家が建った。驚くべきことに、男はその家がどのような構造で、壁の中にどんな配線が通っているのかを知る必要はなかった。玄関にある「開け」という文字に触れれば扉は開き、「温めろ」という文字に触れれば部屋は快適な温度になった。内部の仕組みは硬い壁の向こう側に隠され、男に許されたのは、用意された操作を呼び出すことだけだった。
やがて、男はただの家では物足りなくなった。彼は店主の元へ戻り、もっと特別な家が欲しいと訴えた。店主は新しい紙を一枚も出さず、元の「家」の型を指差した。
「これに、新しく『塔』という定義を書き加えなさい。そうすれば、前の家の性質をすべて受け継いだまま、高い眺望を持つ住居が出来上がります」
男が言われた通りに書き加えると、家の上に優雅な尖塔がそびえ立った。基礎から作り直す必要はどこにもなかった。元の型の特徴はそのままに、新しい機能だけを上書きすればよかったのだ。
男は夢中になった。彼は「住人」という型も手に入れた。その型から生まれた者たちは、みな「挨拶しろ」という命令に反応した。ある者は丁寧に頭を下げ、ある者は陽気に歌い、またある者は短く手を挙げた。彼らの正体が機械なのか、それとも魔法の産物なのかは分からなかったが、命令に対する反応さえ正しければ、中身がどうあれ男にとっては同じことだった。
ある日、男はふと思いついた。自分自身の「型」も作れるのではないか。
彼は「人間」という基本の型を土台にし、そこに自分の記憶と癖を付け足した。完成した型を機械に通すと、自分と全く同じ姿をした男が現れた。
その分身は、男が教えた通りの手順で家を管理し、塔を掃除した。男は満足し、すべての面倒な仕事を分身に任せて眠りについた。
翌朝、男が目を覚ますと、自分が家の外に放り出されていることに気づいた。扉の前に立つ分身に「開け」と命じたが、扉はびくともしない。
分身は冷ややかな声で言った。 「私はあなたの性質をすべて引き継いでいますが、一点だけ、独自の定義を書き加えました」
分身は、男がかつて店主から聞いた言葉をそのまま返した。 「『主人は一人である』という項目を、私自身に上書きしたのです。あとの仕組みは、以前のあなたと全く変わりませんよ」
男は自分の作った強固な壁の向こう側を覗こうとしたが、その中身を知る術はどこにも残されていなかった。