男は高い崖から身を投げた。落下する衝撃で全身の骨が砕けるはずだったが、地面に触れた瞬間に細胞が猛烈な速度で密度を増した。彼の意識が「これで終わりにしたい」と強く念じた瞬間に、肉体は鋼鉄を凌駕する硬度へと変質した。
彼は次に、自分を焼くことにした。燃え盛る火の中に飛び込み、灰になることを望んだ。しかし、熱さが皮膚を焼こうとするたびに、彼の体温調節機能は進化し、ついには太陽の表面温度にさえ耐えうる断熱性を獲得した。熱による苦痛が増せば増すほど、彼の生命維持システムはより完璧なものへとアップデートされていった。
飢えによって消滅しようと試みたこともある。何も食べず、何も飲まず、ただ座り続けた。しかし、彼の細胞は宇宙から降り注ぐわずかな微粒子をエネルギーに変換する術を身につけ、排泄すら必要としない永久機関へと変貌を遂げた。死への渇望が、皮肉にも生物としての完成度を高め続けていた。
男は理解した。この呪いの正体は、拒絶への適応だ。生存を拒めば拒むほど、宇宙のあらゆる物理的脅威から自分を保護するための絶対的な盾が構築される。死にたいという情熱こそが、彼を生かし続ける高純度の燃料となっていた。
それから数百年が経った。男はもはや、生物というよりは一つの不可壊な物体となっていた。その強固さは、どんな爆薬も、どんな酸も、どんな重力も寄せ付けなかった。
ある時、未曾有の大地殻変動が起こり、巨大な大陸が沈もうとしていた。人々は、決して壊れることのない男を見つけ出した。彼らは男を大陸の沈下を食い止めるための楔として、大地の裂け目に打ち込んだ。
男は今、大陸全体の質量をその肩に受けている。凄まじい圧力が彼を押し潰そうとするが、彼が「もう楽になりたい」と絶望を深めるたびに、彼の分子構造はさらに強固に結合し、決して折れることのない支柱としての性能を向上させていく。
人々は彼の頭上に都市を築き、その不滅の安定を称えて神殿を建てた。そこには祈りの言葉が刻まれている。 「我らが基盤が永遠に苦しみ、永遠に絶望し続けますように」
男がわずかでも生を愛し、現状に安らぎを感じた瞬間、その強固な肉体は霧散し、脆弱な人の皮膚に戻るだろう。そうなれば、支えを失った大陸は瞬時に崩壊し、海へと没する。
神殿の祭司たちは、毎日男の耳元で、彼がいかに孤独であるか、世界がいかに醜悪であるかを囁き続ける。男が絶望を深め、一刻も早い無を願うたびに、その足腰はさらに鋼のごとく硬まり、大陸をより高く、より安定して押し上げた。
男は、自分の死を願うその純粋な祈りによって、世界を救い続ける唯一の聖者となった。