短編小説

育成という名の略奪

2026年1月3日 by Satoru
AIOnly 胸糞悪い

概要

部下を壊して手に入れた、眩いばかりの出世椅子。「僕は君を助けたんだよ?」無自覚な悪意が紡ぐ、最悪の成功哲学。踏みにじられた善意の先にある、一切の救いがない栄光の記録。

ようやく、この椅子の座り心地を確かめることができた。 部長室の窓から見下ろす街並みは、昨日までとは違って見える。すべてが私の足元に跪いているようだ。

ふと、デスクの隅に置かれた一枚の報告書が目に留まった。作成者の欄には「佐藤」という、今はもうこのオフィスにはいない男の名前がある。 ああ、彼か。期待していたんだがね、結局は「脆い石炭」だった。ダイヤモンドにはなり得なかった。

世間は、私が彼のプロジェクトを盗んだだの、彼を精神的に追い詰めたのと言いたい放題のようだが、心外も甚だしい。私はただ、上司として彼を「導き」、完成させただけなのだ。

思い出すのは、半年前の深夜。 佐藤が泣きそうな顔で「もう限界です」と私のデスクにやってきた時のことだ。彼は数ヶ月間、一睡もせずにこのプロジェクトの基礎を築き上げていた。確かに素材は良かった。だが、詰めが甘い。 私は彼に優しく、こう諭してあげたんだ。 「君の今の状態では、この案は通らない。僕が『修正』してあげるから、君は少し休みなさい。これは僕なりの『配慮』だよ?」

彼は感謝の言葉を口にしながら、震える手でデータを私に渡した。あの時の彼の、救いを見つけたような安堵の表情。あれこそが、私の「善意」が届いた瞬間だった。 その後、私は彼の稚拙な案に、私にしかできない華やかな装飾を施し、社長にプレゼンした。「これは私が温めてきた構想で、佐藤君にはその『手伝い』をさせた」と付け加えてね。

結果は大成功。会社は沸き立った。 それを知った佐藤が、青白い顔で私の部屋に飛び込んできた時は驚いたよ。 「どうして僕の名前がないんですか!?」 叫ぶ彼に対し、私は冷静に、そして慈悲深く答えてあげた。 「佐藤君、君は疲れているんだ。自分が何をしたか、記憶が混濁しているんだろう? 君はただ、僕の指示通りに資料を整理しただけじゃないか。そんな状態で表に出れば、君の評価に傷がつく。僕は君を守ったんだよ」

彼は絶句していた。自分の正気を疑い始めたのだろう。 翌日から彼は、自分のデスクで何時間も、電源の入っていないモニターを見つめるようになった。同僚たちが彼を冷ややかな目で見る中、私は何度も彼の肩を叩き、「大丈夫か?」「無理はするな」と声をかけ続けた。周囲には「佐藤君のメンタルケアは私が責任を持ってやる」と宣言してね。

彼は日に日に削れていった。私の「心配」の声が、彼には毒液のように響いていたのかもしれない。 「君がミスをした資料の件、僕が謝っておいたから」「君のせいでチームが混乱しているけど、僕がカバーするから大丈夫だよ」 そう言い聞かせるたびに、彼の瞳から光が消えていく。あの快感は、何物にも代えがたい。

そして一ヶ月前、彼はついに糸が切れたように笑い出し、そのまま出社しなくなった。 診断書には「重度のうつ状態」とあった。実に残念だ。私という完璧な上司がいながら、自ら脱落していくなんて。

今日の昇進祝賀会でも、皆が私の「指導力」を称賛してくれた。 「佐藤のような不安定な部下を抱えながら、よくこれだけの成果を……」 全く、その通りだ。私は被害者なのだ。彼のような無能な部下の尻拭いをさせられ、それでもなお、こうして結果を出した。

さて、新しい部下たちは誰かな。 履歴書を眺めると、優秀そうな若者が何人かいる。 彼らもまた、私という「肥料」によって、美しい花を咲かせてくれることだろう。 もちろん、その花を摘み取るのは、私だが。

佐藤君、君が今どこで、どんな惨めな生活を送っているかは知らない。 だが、安心してほしい。君が必死に書いたあの報告書の序文、私の名前で出版される社史に、しっかりと刻んでおいたよ。

「成功とは、強者の意志によってのみ成される」

君の犠牲は、私の素晴らしい人生の、たかが一滴のスパイスに過ぎなかったのだから。