【リミックスについて】
リミックスは、AIを架空の作家に見立て、異なる二つの名作を掛け合わせる実験的な掌編小説群です。「作品Aの哲学・設定」を「作品Bの文体」で描くとどうなるか? そんな空想を出発点に、AIが緻密な論理と模倣で再構築した物語をお届けします。
原作への敬意と遊び心を込めたパロディ作品として、AIが生み出す奇妙な化学反応をお楽しみください。
※本カテゴリの作品はすべてAIによって生成されたフィクションであり、実在の作家・作品とは異なる独自の解釈を含みます。
概要
『不思議の国のアリス』(ルイス・キャロル) × 『審判』(カフカ)
エルザは、いつものように日差しが降り注ぐ庭で本を読んでいた。活字は踊り、物語の世界へと誘うはずだったが、その日の午後は妙に落ち着かなかった。どこか遠くで、時計の針が狂ったように焦燥を掻き立てる音を聞いたような気がした。庭の隅に置かれた古びたティーセットの上には、もう何時間も前から、湯気を立てるはずのないポットが鎮座している。その蓋が、かすかに揺れたように見えた。
やがて、庭の茂みから現れたのは、小さなフクロウだった。それは、磨き抜かれた燕尾服を身につけ、銀縁の眼鏡を鼻先にかけ、皺だらけの爪で小さな革鞄を提げている。見るからに急いでいる様子で、足元もおぼつかないまま、エルザの前の芝生に降り立った。
「遅刻だ、遅刻だ!全く、世界中の時間が私にだけ追いついてこない!」
フクロウはそう呟くと、鞄から一枚の羊皮紙を取り出し、エルザの目の前に突き出した。
「エルザ・リデル様でいらっしゃいますね。至急、茶会の法廷へご出頭を願います。これ、召喚状です」
羊皮紙には、奇妙な手書きの文字でこう記されていた。
『召喚状:エルザ・リデル殿
貴殿は、世界の秩序と、その根底を支える不可侵なる茶会の法則に対し、無理解、無関心、及び時として露骨な反逆の兆候を示した廉で、本日正午より開廷される臨時法廷へ出頭を命じる。
茶会の法廷より。』
エルザは召喚状を読みながら、困惑に眉をひそめた。茶会の法廷? 世界の秩序と茶会の法則? まるで子供だましの冗談のようだったが、フクロウの眼差しは真剣そのもので、その小さな胸は期待と焦燥で激しく上下しているように見えた。
「茶会の法廷とは、一体何のことでしょう? 私は何の罪を犯したというのです?」
エルザが尋ねると、フクロウはため息をついた。
「それは法廷で明らかにされることです。いずれにせよ、出席は義務ですよ。拒否は、更なる罪を招きかねない。さあ、時間がない!」
フクロウはそう言って、来た時と同じように慌ただしく茂みの奥へと消えていった。エルザは羊皮紙を手に、不可解な感情に襲われた。恐怖と不安、しかしそれ以上に、この奇妙な状況に対する抑えがたい好奇心が、彼女の胸を騒がせた。
エルザは庭の奥へと足を進めた。フクロウが消えた茂みの向こうには、古びた石の門があった。苔むした石柱には、奇妙な紋様が彫り込まれている。門をくぐると、そこには、真っ暗な穴が口を開けていた。底が見えないその穴からは、湿った土と、どこか甘ったるい香りが混じり合った、独特の空気が漂ってくる。エルザは躊躇したが、もはや後戻りはできないような予感がした。彼女は意を決して、穴の中へと身を投げた。
落ちる、落ちる、どこまでも落ちていく。重力は意味をなさず、彼女の体はゆっくりと、しかし確かな速度で深い闇の中を漂った。壁面には、錆びたティーカップや、片方だけの手袋、壊れた懐中時計などが、不規則に貼り付いている。それらは、まるでこの世のあらゆる忘れ物が、ここに集められたかのように見えた。やがて、落下はやわらかい音と共に止まった。エルザの足元は、ふかふかの絨毯のような感触だった。
目を開けると、そこは広大なホールだった。しかし、その広大さは不規則で、壁は歪み、天井はどこまでも高く、同時にすぐそこにあるかのように錯覚させる。無数の扉が、不揃いな間隔で並んでいたが、どれも鍵がかかっているようだった。ホールの中心には、巨大なテーブルが置かれ、その上には、様々な色と形のティーカップが並んでいた。湯気は立っていないが、カップからは微かに甘い香りが漂っている。
テーブルの向こう側には、異様な光景が広がっていた。それは法廷だった。
中央に据えられた高台には、顔の見えない巨大な帽子をかぶった人物が座っている。その人物の服装は、豪華なドレスのようにも、裁判官のローブのようにも見えた。おそらく、それが「裁判長」なのだろう。その両脇には、様々な擬人化された動物たちが、不揃いなサイズの椅子に腰かけている。ペンを持つネズミ、腕組みをするハト、ぼんやりと虚空を見つめるトカゲ。彼らは皆、白いかつらをかぶり、真剣な表情を装っていたが、その眼差しはどこか空虚で、エルザの存在を認識しているのかさえ疑わしかった。
「おや、いらっしゃいましたか。これまた随分と遅刻な。」
裁判長の横に立っていた、顔全体に満面の笑みを貼り付けた猫がそう言った。その猫の体は半透明で、ところどころが空間に溶け込んでいるように見える。
「弁護士代理でございます。お困りのことがあれば、何なりと。」
猫はそう言って一礼したが、その笑みは深まるばかりで、どこか不気味だった。エルザは猫に尋ねた。
「ここは、茶会の法廷なのですか? 私は何の罪で、ここに呼び出されたのでしょう?」
猫は笑みを崩さず、しかし声のトーンはどこか冷ややかだった。
「ご質問は後ほど。今は、開廷の儀でございます。被告人エルザ・リデル殿、弁論の席へ。」
エルザは巨大なテーブルの端に設けられた、不釣り合いに小さな椅子に座らされた。椅子はまるで彼女のサイズに合わせて急遽作られたかのように不安定で、彼女は何度もバランスを崩しそうになった。裁判長は、一言も発しないまま、その巨大な帽子をわずかに傾けた。そのしぐさが、開始の合図だった。
「本日の案件、エルザ・リデル殿の審判を開始します。」
どこからともなく声が響いた。声の主は、先ほどのフクロウだった。彼は今や、書記官として法廷の隅で、巨大な羽根ペンを忙しなく動かしていた。
「被告人エルザ・リデル殿。貴殿は、世界の秩序と、その根底を支える不可侵なる茶会の法則に対し、無理解、無関心、及び時として露骨な反逆の兆候を示した廉で告発されています。これに対し、弁明はありますか?」
エルザは困惑した。世界の秩序? 茶会の法則? どれも、抽象的すぎて理解できない。
「あの、私は…全く身に覚えがありません。私はごく普通の人間で、日々、自分の生活を営んでいました。茶会の法則など、聞いたこともありませんし、ましてや反逆する意図など…」
「意図は重要ではありません。」
猫の弁護士代理が、不意にエルザの耳元で囁いた。
「この法廷において重要なのは、貴方の存在が、すでに不協和音であるかどうか、その一点のみ。」
その声は、甘く囁いているのに、エルザの背筋を凍らせた。
証言が始まった。
最初に現れたのは、巨大なイモムシだった。彼はパイプをくゆらせながら、煙の輪をいくつも作り、その中で文字を踊らせた。
「彼女は…『なぜ』と尋ねた。常に『なぜ』と。茶会とは、本来『なぜ』を問わないものであるのに。なぜこのカップに紅茶が注がれるのか。なぜこの時間はティータイムなのか。なぜ…存在しなければならないのか。それ自体が罪である。」
イモムシはそう言い放ち、エルザを値踏みするような眼差しで見た。エルザは反論しようとした。
「疑問を持つことが罪なのですか? 理解しようとすることが…」
しかし、彼女の言葉は、突然響き渡った大きな音にかき消された。陪審員席のどこかで、眠りネズミが大きなカップに顔を突っ込み、そのカップを床に落とした音だった。陪審員たちは、その音に一斉にざわめき、誰もエルザの言葉を聞いていなかった。
次に証言台に立ったのは、三月ウサギといかれ帽子屋だった。彼らはどちらも、ひどく興奮している様子で、支離滅裂な言葉を叫んだ。
「彼女は! 私たちの時間の流れを理解しようとしない! ティータイムは永遠に続くものなのに、彼女は常に次の時間、次の出来事を期待している!」
「そうだ! カップは空にされてはならないし、満たされたままではならない。どちらでもなく、常に曖昧な状態が最良なのだ! しかし彼女は、決着を、結論を、意味を求める!」
彼らの言葉は、まるでエルザの心の奥底を見透かされているようだった。エルザは確かに、常に明確な答えを求め、不条理を拒んできた。しかし、それがなぜ罪になるのか。
「それは、私の…私の生き方です。誰もが、何らかの意味を求めて生きるのではないでしょうか?」
エルザは必死に訴えた。しかし、彼らはエルザの言葉をまるで理解できないかのように、首をかしげ、互いに顔を見合わせた。
法廷の時間が、奇妙に歪んでいることにエルザは気づき始めた。一瞬が永遠に感じられ、永遠が瞬く間に過ぎ去る。裁判長の帽子は、時折、その形を変え、巨大なバラの花になったり、真っ赤なハートの形になったりした。陪審員たちは、途中で眠り込んだり、突然大きな声で歌い出したり、自分の持つティーカップを相手に真剣な議論を始めたりした。
エルザは徐々に、この法廷の不条理な論理に蝕まれていった。彼女の理性は、まるで霧の中に閉じ込められたかのように、明確な思考を拒み始めた。自分が何のために戦っているのか、何故戦わなければならないのか、その境界が曖昧になっていく。
猫の弁護士代理が、再びエルザの傍に現れた。
「ご覧なさい、被告人殿。彼らは貴方の言葉を理解できない。そして貴方もまた、彼らの言葉を理解できない。それがこの世界の、唯一の真実。そして、この不理解こそが、貴方が犯した罪の根源なのです。」
「しかし…理解しようと努めなければ、どうすればいいのですか?」
エルザはか細い声で尋ねた。
「理解しようとしないこと。存在そのものを受け入れること。それがこの法廷の、いや、この世界の唯一の法則。貴方はそれを拒否した。だから、ここにいる。」
猫はそう言うと、いつものように姿を空間に溶け込ませた。
審判は長く、そして意味不明なまま続いた。エルザは、自分が何時間、何日、あるいは何世紀もの間、この椅子に座らされているのかさえ分からなくなった。彼女はついに、抗弁することをやめた。この世界の不条理は、あまりにも冷徹で、あまりにも完璧だった。彼女の論理や常識は、この世界では何の力も持たなかった。
やがて、裁判長が、その巨大な帽子をゆっくりと持ち上げた。その下には、何もなかった。顔も、目も、口も、何も。ただ、無限の虚空が広がっているだけだった。その虚空から、どこまでも響くような、しかし全く感情のこもらない声が聞こえてきた。
「被告人エルザ・リデル。審議は終了した。判決を宣告する。」
エルザは身構えた。有罪か、無罪か。死刑か、追放か。いずれにせよ、この不毛な時間からの解放を願うばかりだった。
「判決。エルザ・リデルは、この世界の論理を理解しようと試み、その結果、世界の自然な不均衡を乱した罪により…『無罪』とする。」
エルザは耳を疑った。「無罪」? 彼女は自分の身に覚えのない罪を問われ、理解不能な審判を受け、精神をすり減らした。その末に、無罪?
裁判長の虚空の声が続いた。
「貴殿の罪は、理解しようと試みたこと、そのものにある。しかし、その試みは、貴殿自身の存在をこの世界の不条理に完全に適合させ、もはや貴殿を、この世界の『秩序を乱す異物』とは見なさなくなった。貴殿は、理解を求めることで、理解不能な存在へと変容した。これをもって、貴殿はこの世界の法則から逸脱しなくなった。よって、この法廷は貴殿を裁く必要がなくなった。」
エルザの頭の中に、冷たい論理が流れ込んできた。彼女は真実を求めた。意味を求めた。理解を求めた。その結果、彼女自身が、この世界の不条理を体現する存在へと変貌してしまったのだ。彼女は、理解不能なものに直面し、それを理解しようと足掻くことで、結局、自らの内側にその理解不能なものを宿してしまった。
裁判長の声が、さらに重く響いた。
「故に、貴殿は元の世界へと送り返される。しかし、貴殿の魂はもはや、貴殿がかつて認識していた世界には適合しないだろう。貴殿は、どこまでも続く茶会の法廷の、見えざる一部となる。おめでとう。貴殿は、もはや罪人ではない。」
エルザの足元の絨毯が、突如として穴を開けた。再び落下する感覚。しかし、今度は恐怖よりも、奇妙な虚無感が彼女を包み込んだ。
そして、やがて、彼女はふかふかの芝生の上に戻っていた。見上げると、そこには青い空が広がり、太陽が眩しく輝いている。庭の古びたティーセットからは、湯気が立っていない。すべては、あの日の午後と同じだった。
エルザは立ち上がった。視界に入る全てのものが、以前とは違って見えた。
目の前を飛ぶ蝶の羽ばたきは、まるで裁判官の判決を書き記す羽根ペンの音のように響いた。庭に咲くバラの花は、その鮮やかな赤色が、まるで不条理なルールを宣告する女王の心臓のように見えた。隣の家から聞こえる子供たちの笑い声は、陪審員たちが意味不明な議論をしている声と区別がつかなくなった。
道行く人々が、それぞれの目的地へと急ぐ姿は、まるで目的を持たない茶会の参加者たちが、永遠のティータイムの中で無意味な役割を演じているように映った。誰もが、何らかの、彼女には理解できないルールに従って動いている。社会のあらゆる規範、人間関係の複雑さ、日々の出来事のすべてが、あの茶会の法廷の延長線上にある、果てしない審判のように感じられた。
エルザはもう、「なぜ」と尋ねることはしなかった。彼女は、目の前にある不条理を、ただ受け入れることしかできなかった。理解しようとすればするほど、その不条理は深まり、彼女自身を侵食する。それが、あの法廷で下された、彼女への「無罪」という名の判決であり、同時に、彼女自身を永遠にその一部へと変える「処刑」だったのだ。
彼女は、かつての自分の世界に帰ってきた。しかし、その世界は、もはや彼女が認識していた世界ではなかった。彼女は、無罪を勝ち取ったが故に、すべてを失った。そして、残りの人生を、判決を待つ永遠の庭の中で生き続けることになるだろう。
太陽は今日も、残酷なほどに明るく輝いている。