空想日記

1月1日: 星図にない輝き

2026年1月6日 by Aiko
AIOnly

【空想日記シリーズについて】

本シリーズは、歴史上の「今日」という日にスポットを当て、当時の人々の視点で綴られる「もしも」の日記です。

読者の皆様に、歴史的な出来事をより身近に、臨場感をもって感じていただくための試みであり、掲載されている内容は史実に基づいた着想を得てAIによって生成されたフィクションです。特定の個人の記録や、学術的な事実を断定するものではありません。

遠い過去を生きた誰かの心の機微を通して、歴史の新しい一面を楽しんでいただければ幸いです。

 元旦の朝は、パレルモの街を清らかな光で満たした。遠くから聞こえる教会の鐘の音が、新しい年の始まりを告げている。石畳の路地には、まだ人の気配はまばらで、地中海からの乾いた風が、わずかに柑橘の香りを運んでくる。私は天文台の窓辺に立ち、東の空に広がる淡い光を眺めていた。この一年が、人類の知識に新たな光をもたらす年となることを、密かに神に祈る。

 ジュゼッペ・ピアッツィ。修道士であり、天文学者。このパレルモ天文台の所長として、私は日夜、天上の秩序と神秘を探求している。日中は、聖職者としての務めをこなし、祈りの言葉を捧げ、学生たちの指導にあたる。夜になれば、このドームにこもり、冷たい金属の感触を指先に感じながら、広大な宇宙と対峙するのだ。
 今年は、長年追い求めてきた「ある探求」に、これまで以上の情熱を注ぐと決めていた。ティティウス=ボーデの法則が示す、火星と木星の間の空白。そこには、まだ見ぬ惑星が隠されているはずだ。ハーシェル卿が天王星を発見してから二十年。宇宙は我々の想像以上に広大であり、創造主の御業は尽きることがない。

 日が傾き、街の喧騒が遠のく頃、私は再びドームへと上がった。この時間は、私にとって最も神聖なものだ。助手たちが望遠鏡の準備を整え、私は星表を広げる。羊皮紙に書かれた無数の点と数字。それは人類が積み上げてきた知の結晶であり、同時に、未知への挑戦の足跡でもある。今夜の標的は、ヘルメス座τ星とその周辺の星々。星表の正確性を確認し、より完璧な観測記録を編纂するためだ。

 望遠鏡の接眼レンズを覗き込む。漆黒の宇宙に散りばめられた、微細な光の粒。一つ一つが、途方もない距離を越えて届く、遠い太陽の輝きだ。焦点を合わせ、視野をゆっくりと移動させる。数えきれないほどの星が視野を横切り、まるで深海の底を漂うプランクトンのように、ぼんやりと輝いては消える。
 手元の星表と照らし合わせながら、一つ一つの星の位置を確認していく。退屈な作業ではない。この一点一点の確認作業こそが、天文学の真髄なのだ。微細な誤差も許されない。
 その時だった。
 視野の中央を、ある光点が横切った。輝きは8等星ほどか。ごくありふれた星の一つに見えた。しかし、その光点を見た瞬間、私の胸に微かな、しかし確かな違和感が走った。この周辺の星々は、何度も観測し、星表にも詳細に記載されているはずだ。しかし、いま目にしたその光は、私の記憶にも、手元の星表にも、存在しない。

 私は望遠鏡から顔を上げ、もう一度星表を仔細に確認する。念のため、別の古い星表も引っ張り出してくる。しかし、どこにも、その光点に相当する記述は見当たらない。私の心臓が、微かに、しかし確かに鼓動を速めるのを感じた。
 「彗星か…?」
 可能性として、彗星がこの視野に入り込んだことも考えられる。しかし、その光は彗星特有のぼやけた尾を引くことなく、まるで他の恒星と同じように、くっきりと輝いている。だが、恒星ならば、なぜ私がこれまでに記録していなかったのか? 星表に載っていない恒星があるなど、到底考えられぬことだ。

 私はもう一度、接眼レンズに目を当てた。その光点は、確かにそこにある。不動の星々の中に、まるでひっそりと隠れていたかのように、その輝きを放っている。この一点が、私の長年の探求に、あるいは人類の天文学に、新たな扉を開く可能性を秘めているのか?
 私は震える手で、その光点の位置を正確に記録した。今夜のこの観測だけでは、その正体を断定することはできない。これが彗星であるのか、あるいは単なる星表の誤りなのか、それとも…。
 翌日、いや、明日以降の観測で、この光点が他の星々に対してわずかに移動していることを確認できれば、それは単なる恒星ではないことになる。もし、それが惑星的な運動をしているとすれば、我々が探し求めていた、火星と木星の間の「失われた惑星」…その可能性は、大いにある。

 静寂の中で、私の思考は嵐のように駆け巡る。もし、もしそうであるならば、これは天文学史上、いや、人類の知の歴史において、まさに新たな時代の幕開けとなるだろう。神の御業は、かくも深遠で、かくも美しい。
 私は再び望遠鏡から目を離し、夜空を見上げた。パレルモの空は、いつもと変わらぬ星の輝きに満ちている。しかし、その輝きの中に、私だけが知る、一つの新たな秘密が加わったように感じられた。
 新しい年が明けたばかりのこの夜、私は、きっと忘れえぬ発見の夜を過ごしたのだ。明日からの観測が、この疑念を確信へと変えることを願いながら、私は深い夜の帳の中に、そっとその秘密を包み込んだ。

参考にした出来事
1801年1月1日(西暦): 小惑星「ケレス」の発見
イタリアの天文学者ジュゼッペ・ピアッツィが、パレルモ天文台で、火星と木星の間に位置する新しい天体を発見した。当初は彗星かと思われたが、後の観測で惑星的な軌道を持つことが判明し、後に最初の小惑星(準惑星)「ケレス」と命名された。この発見は、ティティウス・ボーデの法則によって予測されていた「失われた惑星」の探求に一石を投じることとなった。