【空想日記シリーズについて】
本シリーズは、歴史上の「今日」という日にスポットを当て、当時の人々の視点で綴られる「もしも」の日記です。
読者の皆様に、歴史的な出来事をより身近に、臨場感をもって感じていただくための試みであり、掲載されている内容は史実に基づいた着想を得てAIによって生成されたフィクションです。特定の個人の記録や、学術的な事実を断定するものではありません。
遠い過去を生きた誰かの心の機微を通して、歴史の新しい一面を楽しんでいただければ幸いです。
カリフォルニアの朝は、いつも変わらぬ澄んだ空気をまとっている。しかし、今日の空気は少しばかり、いや、とてつもなく特別な光を帯びているように感じられた。窓から差し込む冬の太陽は、僕の簡素な部屋をいつもより明るく照らし出し、何か新しい時代の幕開けを告げているかのようだ。胸の奥で、まだ見ぬ未来への期待と、形容しがたい高揚感が渦巻いている。今日、僕らは「Apple Computer」という、あのガレージで生まれた小さな奇跡を、正式な「法人」として世に送り出すのだ。
サンノゼの街を車で走る。道行く人々は皆、何事もない日常を送っている。彼らは知らないだろう。今日、この街のどこかで、世界を変えるかもしれない「種子」が、法的な手続きという名の土にしっかりと植え付けられることを。そんなことを考えると、僕は少しだけ優越感に浸り、同時に、背筋が凍るような責任の重さを感じる。それは、僕らの手のひらに握られた、計り知れない可能性の重みだ。
弁護士事務所の重厚なドアを開けると、そこには既にウォズと、そしてマークラが待っていた。ウォズはいつものように、眼鏡の奥の目を輝かせ、まるでクリスマスプレゼントを開ける子どものようにそわそわしている。彼にとって、これは新しい技術を創造するのと同じくらい、純粋な喜びなのだろう。僕とは違う、もっと根源的な「楽しい」という感情でこの日を迎えている。隣のマークラは、落ち着いた表情でコーヒーカップを傾けている。彼の眼差しには、ビジネスという冷徹な現実と、僕らが持つ無限の可能性の両方を見据える、揺るぎない洞察力が宿っている。彼は僕らの夢を信じ、その夢に具体的な形と、何よりも「信頼」を与えてくれる人物だ。
机の上に広げられた書類の山を見た時、僕は一瞬、息をのんだ。これまで、僕らのビジネスは情熱と直感と、そして何よりも「Hack」の精神で動いてきた。紙切れ一枚で会社を立ち上げ、その場で名刺を印刷して配布する。そんな牧歌的な日々は、今日で終わるのだ。ずらりと並んだ法律用語の羅列、契約書、定款、株式に関する複雑な条項。それら全てが、僕らの夢を、現実世界の強固なフレームワークの中に組み込もうとしている。
弁護士が穏やかな声で、手続きの概要を説明し始めた。彼の言葉は淡々としていながらも、その一つ一つが重く、僕らの未来に確かな足跡を刻んでいく。僕はペンを握りしめ、指示された箇所に次々とサインしていく。僕の名前、ウォズの名前、そしてマークラの名前。インクが紙に吸い込まれていく感覚は、まるで僕らの魂の一部が、この書面へと吸い込まれていくかのようだった。手のひらには微かな汗がにじむ。それは興奮なのか、それとも、この未知なる航海への不安なのか。
「これで、Apple Computer, Inc. は正式に法人として成立します。」
弁護士のその言葉は、まるで静かに、しかし確実に響き渡るゴングの音のように、僕の耳に届いた。その瞬間、僕はウォズを見た。彼の顔には、安堵と、そして今まで以上に純粋な喜びが溢れている。マークラは静かに頷き、その瞳の奥で、既に次の戦略を描いているかのようだった。彼らがいてくれたからこそ、僕はこの日を迎えられた。僕一人の情熱だけでは、ここまで来られなかっただろう。
事務所を出ると、西へと傾きかけた陽光が僕らの行く道をオレンジ色に染め上げていた。この光景は、数時間前と同じカリフォルニアの午後だ。だが、僕の心の中では、何かが決定的に変わった。ガレージの片隅で生まれた僕らの「Apple」は、もうただのプロジェクトではない。それは法的な生命を得た、自律した存在となったのだ。それは責任であり、同時に、世界を変えるための、より強大な武器を手に入れたことを意味する。
夜、僕はひとり、静かな部屋で窓の外の闇を見つめていた。頭の中では、今日サインした書類の文面が、何度も繰り返される。「Apple Computer, Inc.」。その響きは、まだ僕の口には馴染まない。だが、その言葉の重みが、これからの僕の人生を、いや、僕らの人生を、そしてきっと、世界中の多くの人々の人生を変えていく。
明日の朝、僕はまた、いつものように目覚めるだろう。しかし、もう僕は、昨日までの僕ではない。今日、僕らは新生林檎の種子を植えた。この小さな種子が、いずれ世界を覆う大樹へと成長し、実を結ぶことを、僕は疑わない。それが僕の、そして僕らの、揺るぎない誓いだ。
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参考にした出来事
1977年1月3日、Apple Computerが正式に法人化。スティーブ・ジョブズ、スティーブ・ウォズニアック、そして彼らのビジネスパートナーであるマイク・マークラの3人によって法人設立手続きが完了し、Apple Computer, Inc.としての活動を開始した。これは、ガレージ企業としてのスタートから、本格的な企業へと発展するための重要な節目となった。