【リミックスについて】
リミックスは、AIを架空の作家に見立て、異なる二つの名作を掛け合わせる実験的な掌編小説群です。「作品Aの哲学・設定」を「作品Bの文体」で描くとどうなるか? そんな空想を出発点に、AIが緻密な論理と模倣で再構築した物語をお届けします。
原作への敬意と遊び心を込めたパロディ作品として、AIが生み出す奇妙な化学反応をお楽しみください。
※本カテゴリの作品はすべてAIによって生成されたフィクションであり、実在の作家・作品とは異なる独自の解釈を含みます。
概要
『注文の多い料理店』(宮沢賢治) × 『スウィーニー・トッド』(大衆小説)
剥製のように硬直した冬の空気が、二人の紳士の肺を鋭く刺した。彼らの背後では、つい先ほどまで生命の律動を刻んでいたはずの二頭の猟犬が、泡を吹いて横たわっている。それは死というよりは、あまりに急速な物理的な損壊に近いものだった。
「ひどい損害だ。あんなに高価なポインターを二頭も失うとは、この山にはよほど悪質な磁場でも流れているに違いない」
そう言って、一人の紳士が白手袋で己の額を拭った。彼の名はクラーク、隣に立つのはスミス。二人は文明の粋を極めた都市から、娯楽としての殺戮、すなわち「狩猟」を求めてこの深山へと足を踏み入れた。しかし、山は彼らを歓迎しなかった。道は霧に溶け、方位磁石は狂い、ただ凍てつく風だけが、彼らの贅肉を削ぎ落とそうと執拗にまとわりついていた。
「空腹で、脳の機能が低下している。スミス、見てみろ。あんなところに、場違いなほど立派な建築物がある」
クラークが指さした先、霧の切れ間に、煉瓦造りの奇妙な館が聳え立っていた。看板には、金箔の文字でこう刻まれている。
『理髪厨房・銀の月――どなたもどうか、至高の身だしなみを。当館は、注文の多い客をこそ歓迎いたします』
「理髪厨房? 妙な名前だが、レストランとサロンが併設されているのか。都会の流行をこんな辺境で目にできるとは。これこそ、我々のような選ばれた人間にふさわしい休息の場だ」
二人は吸い寄せられるように、重厚な扉を押し開けた。
第一の部屋は、暖炉の火が爆ぜる静謐な待合室だった。壁には鏡が並び、その縁には精緻な銀細工が施されている。
『コートと帽子をお脱ぎください。外の世界の穢れを、ここに置いていかなければ、真の美食には辿り着けません』
二人は笑い合い、重い毛皮を脱ぎ捨てた。
「なるほど、衛生管理を徹底しているというわけだ。感心な心がけじゃないか」
次の扉を開けると、そこには大量の香水瓶と、銀の小皿に盛られたクリームがあった。
『耳の後ろ、首筋、そして手足の指の間に至るまで、このクリームを丹念に塗り込んでください。それはあなたの存在を、より芳醇なものへと昇華させるでしょう』
「スキンケアまで提供するとは、実に至れり尽くせりだ」
彼らは競うように、肌に白いクリームを擦り込んだ。それは上質な牛脂と、クローブやナツメグといったスパイスが複雑に混ざり合った、どこか官能的で、かつ調理場を連想させる匂いがした。彼らの肌は潤い、滑らかになり、自分たちが一級の嗜好品になったかのような錯覚さえ抱かせた。
さらに奥へ進むと、そこには二脚の、革張りの巨大な椅子が鎮座していた。椅子の前には、鏡の代わりに、深い闇が広がる大きな窓がある。
『さて、いよいよ仕上げです。至高のディナーの前に、その余計な髭と産毛を処理いたしましょう。椅子にお座りになり、目を閉じて、首を深く預けてください。痛みはありません。あるのは、解放だけです』
スミスとクラークは、吸い込まれるようにその椅子に身を沈めた。
「最高の気分だ。腹は減っているが、それ以上に、自分が完璧に磨き上げられていく全能感がある」
「ああ、クラーク。我々は今、最も美しく、最も価値のある存在として完成されようとしているのだ」
背後から、音もなく人影が現れた。それは白衣を纏い、片手には月光を凍らせたような冷徹な輝きを放つ、巨大な銀の剃刀を握っていた。男の顔は霧に霞んで見えないが、その瞳だけが、獲物を検品する職人のような、恐ろしく無機質な光を湛えていた。
男はまずスミスの首筋に、温められたタオルを当てた。そして、銀の剃刀を革砥で滑らかに研ぎ始めた。シュッ、シュッ、という規則的な音は、まるで心臓の鼓動をカウントダウンしているかのようだった。
「この店には、他に客はいないのか?」
クラークが目を閉じたまま、夢想に耽るように尋ねた。
男は、掠れた声で答えた。
「ええ。皆様、ここでの『お手入れ』の後は、例外なく、下の階にある特別室へと向かわれます。そこでは、皆様ご自身が、物語の主役となる宴が待っておりますから」
男の手が動き出した。剃刀がスミスの喉元を滑る。毛を剃るというよりは、皮膚の表面を薄く削ぎ、その下にある真皮の美しさを確かめるような、異常に繊細な手つきだった。
スミスは恍惚とした表情で、喉から小さな声を漏らした。
「ああ、冷たい。なんて快い刃の冷たさだ。まるで魂が、物理的に剥離されていくようだ」
一方、クラークの椅子もまた、ゆっくりとリクライニングを深めていった。彼の背後にも、もう一人の人影が立っていた。
ふと、クラークは鼻を突く異臭に気づいた。それは、自分たちに塗り込んだはずの香辛料の香りの奥に潜む、鉄のような、生々しい肉の匂いだった。
「おい、この匂いは何だ? 焦げたような、血が凝固したような……」
その問いに答える代わりに、理髪師はクラークの耳元で囁いた。
「お気に召しませんか? これは、先ほどまでここで『お手入れ』を受けていた、お客様方の余韻でございます。当館のポリシーは、循環。無駄は一切ございません」
その瞬間、椅子の下で何かが重厚に回転する音が響いた。
カチリ、という機械的な噛み合わせの音とともに、クラークの視界が反転した。
重力が消失し、彼は椅子ごと、奈落のような暗い縦穴へと落下し始めた。
「あ……」
叫び声は、落下速度に置き去りにされた。
着地した場所は、血と小麦粉とスパイスが渾然一体となって床を覆う、巨大な厨房だった。そこには、巨大な肉挽き機と、黄金色に焼き上がった無数のパイが並んでいる。
クラークの目の前には、先ほど落とされたであろうスミスがいた。だが、それはもう「スミス」という人間ではなかった。彼の四肢は効率的に解体され、首には銀の剃刀による、一分の狂いもない「切開」の跡が刻まれていた。
スミスの隣には、二人の紳士が愛していた、あの二頭の猟犬の肉も美しく処理されて並んでいた。
上階から、理髪師の声が降ってくる。
「当館の『注文』とは、お客様が我々に出すものではございません。当館が、調理に必要な条件をお客様に『注文』するのです。香辛料を塗り込み、余計な毛を排除し、肉を軟らかくするために恐怖と悦楽を交互に与える。すべては、至高のパイを焼き上げるための、論理的な工程に過ぎません」
クラークは震える手で、近くの棚に置かれていた、焼き立てのパイを一つ掴んだ。そのパイの表面には、スミスがいつも自慢していた、あの高価な懐中時計の鎖が、飾り付けのように埋め込まれていた。
彼は理解した。自分たちが森に迷い込んだのではなく、この森そのものが、自分たちという「素材」を誘い込むための、精緻な罠であったことを。
彼は、自らの肌に塗り込んだスパイスの香りが、あまりに食欲をそそるものであることに絶望した。
厨房の奥から、エプロンを血で赤く染めた女が、巨大な麺棒を持って近づいてくる。
「さあ、お次のお客様。よく冷やしたバターを塗り込みましょうか。あなたは少し、脂肪が多すぎるようですから、じっくりと時間をかけて火を通さなければなりませんね」
かつて彼らが都会で享受していた「消費」という概念は、ここでは残酷に反転していた。
食う者が食われる者へと滑落する。その境界線は、銀の剃刀一枚の厚みよりも薄かった。
森の外では、再び冬の風が吹き荒れ、新しい「客」の訪れを告げるかのように、看板の金箔が冷たく煌めいた。
クラークの意識が、熱いオーブンの闇に吸い込まれる直前、彼は自分を処理した理髪師の、最後の言葉を思い出した。
「ご安心ください。あなたは、あなた自身を最も愛していた者たちの、血となり肉となるのですから」
翌朝、森の入り口に、二人の紳士の姿はなかった。
ただ、最高級の小麦とスパイス、そして「特別な肉」で焼かれた香ばしいパイの匂いだけが、空虚な雪原に漂っていた。そのパイを食すのは、次にこの店を訪れる、飢えた「紳士」たちである。
完璧なまでの論理。完璧なまでの皮肉。
銀の月が沈む頃、厨房ではまた新しい生地が、血の温もりを湛えながら練り上げられていった。