空想日記

1月21日:水底に宿る新星の咆哮

2026年1月8日 by Aiko
AIOnly

【空想日記シリーズについて】

本シリーズは、歴史上の「今日」という日にスポットを当て、当時の人々の視点で綴られる「もしも」の日記です。

読者の皆様に、歴史的な出来事をより身近に、臨場感をもって感じていただくための試みであり、掲載されている内容は史実に基づいた着想を得てAIによって生成されたフィクションです。特定の個人の記録や、学術的な事実を断定するものではありません。

遠い過去を生きた誰かの心の機微を通して、歴史の新しい一面を楽しんでいただければ幸いです。

一九五四年一月二十一日の朝、グロトンの空は、まるで磨き上げられた冷たい鋼鉄のような灰色に閉ざされていた。コネチカット州テムズ川の河口から吹き付ける風は、外套の襟を立ててもなお、肌を刺すような鋭さで潜り込んでくる。私は今、エレクトリック・ボート社の造船所に立ち、歴史がその重い扉を押し開ける瞬間を、この目に焼き付けようとしている。

目の前には、巨大な黒い影が横たわっている。全長九十七メートル。これまでの潜水艦とは一線を画す、鈍く光る巨大な船体。それが「ノーチラス」だ。この艦の腹の中には、人類が火を手に入れて以来の、最も根源的で強大な力が眠っている。ウランの核分裂。太陽の輝きを鋼鉄の筒に封じ込め、それを動力に変えて深海を征くという、かつてはジュール・ヴェルヌの空想の中にしか存在しなかった夢が、今、現実の質量を伴って私の前にある。

式典の会場は、期待と熱狂、そして言いようのない緊張感に包まれていた。二万人を超える群衆が、この歴史的な進水式を見届けようと詰めかけている。ブラスバンドが奏でる愛国的な旋律が寒風にかき消されそうになりながらも、人々の高揚感を煽っていた。壇上には、アイゼンハワー大統領夫人メアリーの姿が見える。そしてその傍らには、この「核海軍」の父であり、執念にも似た情熱でこの計画を推し進めてきたハイマン・リッコーバー提督が、あの鋭い眼光で愛娘を見つめるようにノーチラスを凝視していた。

私は、この艦の心臓部であるS2W型原子炉の開発に関わった日々を思い返さずにはいられない。目に見えず、臭いもなく、それでいて万物を灰燼に帰すことも、あるいは都市の灯を永遠に灯すこともできる、御しがたいエネルギー。それを、限られた潜水艦の船体内に押し込み、乗組員の命を脅かすことなく制御する。それはまさに針の穴に荒れ狂う嵐を通すような作業だった。計算尺を握る指が痺れるほどの夜を幾度越えたことか。

「私はあなたを、アメリカ合衆国海軍潜水艦ノーチラスと命名します」

大統領夫人の澄んだ声が、拡声器を通じて響き渡った。彼女が力強く振ったシャンパンの瓶が、ノーチラスの艦首で砕け散る。白い飛沫が舞い、観衆の歓声が爆発した。それと同時に、巨大な船体を支えていた拘束が解き放たれる。

重力に従い、ノーチラスが滑り始めた。数千トンの鋼鉄が、巨大な摩擦音を立てながらテムズ川の冷たい水面へと滑り落ちていく。その光景は、あたかも太古の巨大な怪獣が、長い眠りから覚めて住処である海へと帰っていくかのように見えた。艦尾が着水し、巨大な水飛沫が上がった瞬間、私は熱いものが込み上げてくるのを禁じ得なかった。

これまでの潜水艦は、いわば「沈むことができる船」に過ぎなかった。ディーゼルエンジンを回すために酸素を求め、海面に鼻先を出さねばならぬ脆弱な存在だった。しかし、このノーチラスは違う。酸素を必要としない核の火を灯したこの艦は、燃料が尽きるまで、あるいは食糧が尽きるまで、真の意味で深海の住人となることができる。海面という境界線に縛られることのない、真の潜水艦の誕生だ。

水面に浮かぶノーチラスは、誇らしげにその姿を誇示していた。これから始まる試運転、そしてその先に待つ極地の下の航海。この艦が切り拓くのは、単なる軍事的な優位性だけではない。人類が制御を試みる「原子」という未知の力が、いかにして文明の航路を照らすかという、壮大な実験の幕開けなのだ。

群衆が去った後も、私はしばらく桟橋に残り、波間に揺れる黒い船体を見つめていた。テムズ川の冷たい水は、今、確実に歴史の重みをその背に受けている。私の手元にある手帳には、ただ一行、「一九五四年一月二十一日、ノーチラス進水。海は今日、永遠に変わった」とだけ記した。風は依然として冷たいが、私の胸のうちは、あの原子炉の炉心のように、静かな熱を帯び続けていた。

参考にした出来事
1954年1月21日、世界初の原子力潜水艦「ノーチラス(SSN-571)」が進水した。アメリカ合衆国コネチカット州グロトンのジェネラル・ダイナミクス社エレクトリック・ボート造船所にて、アイゼンハワー大統領夫人の立ち会いのもとで行われたこの進水式は、原子力時代の幕開けを象徴する出来事となった。ノーチラス号は、原子力による自立した長時間の潜航能力を持ち、後の潜水艦のあり方を根本から変えた歴史的な艦艇である。