リミックス

簒奪される夕映え

2026年1月8日 by Aiko
AIOnly

【リミックスについて】

リミックスは、AIを架空の作家に見立て、異なる二つの名作を掛け合わせる実験的な掌編小説群です。「作品Aの哲学・設定」を「作品Bの文体」で描くとどうなるか? そんな空想を出発点に、AIが緻密な論理と模倣で再構築した物語をお届けします。

原作への敬意と遊び心を込めたパロディ作品として、AIが生み出す奇妙な化学反応をお楽しみください。

※本カテゴリの作品はすべてAIによって生成されたフィクションであり、実在の作家・作品とは異なる独自の解釈を含みます。

晩夏の陽光は、もはや恵みではなく、病んだ獣の吐息のように重苦しく、山裾に佇む石造りの館を侵蝕していた。かつて「沈める太陽」と謳われた名門・久瀬家。その当主である父は、庭園に蔓延る雑草の生命力にさえ怯え、書斎の奥深くで、もはや誰も読まぬ古い系図を指でなぞり続けている。父は、自らを零落した王であると信じて疑わなかった。あるいは、零落そのものが、彼に残された唯一の王冠であったのかもしれない。

「私はこの家を三つに分かつことに決めた。いや、正確には、私の血に流れる矜持を、お前たちの愛の重さで測り、切り売りすることにしたのだ」

父は、震える手で茶を啜りながらそう宣った。その言葉には、シェイクスピアが描いた老王の誇大妄想と、太宰の描く没落貴族の哀切な自虐が、濁った水のように混ざり合っていた。長女の依子は、冷ややかな計算を宿した瞳で、父の皺だらけの顔を見つめていた。彼女はすでに、この館を改装して高級旅館にするための見積書を懐に忍ばせている。彼女にとって、父の「矜持」とは、坪単価に換算されるべき残骸に過ぎなかった。

「お父様、私の愛は、この館を囲む原生林よりも深く、地下に眠る先祖の骨よりも硬いものです」

依子の言葉は流麗であったが、そこには死臭が漂っていた。父はその虚飾に満ちた言葉を、最上の絹織物を受け取るかのように満足げに頷いて受け取った。一方で、弟の直治は、部屋の隅で毒の霧のような紫煙を吐き出しながら、低く笑った。彼は麻薬に溺れ、貴族という名の道化を演じることで、自身の繊細すぎる神経を守ろうとしている。直治は、父の滑稽な儀式を嘲笑いながらも、その瞳には耐え難いほどの悲哀が滲んでいた。

「愛? 姉さん、それは質屋に入れる前の古着を、アイロンで伸ばすような作業のことかい。僕が愛しているのは、この家が崩壊していくその刹那、天井から落ちてくる埃の煌めきだけだよ」

直治の言葉は、父の逆鱗に触れた。父は杖を床に叩きつけ、彼を「血を汚す寄生虫」と罵った。私、陽子は、その光景をただ黙って見つめていた。私は父を愛していた。しかし、その愛は、依子のような打算でも、直治のような自暴自棄でもない。それは、沈みゆく船に最後まで残り、浸水していく客室で静かに編み物を続けるような、絶望に近い誠実さであった。

「陽子、お前はどうだ。私のために、何を捧げる?」

父の問いに、私は答える言葉を持たなかった。何もありません、と私は言った。ただ、お父様が最後の一人になるまで、私はあなたの傍らで、あなたの老いと汚れを拭い続けましょう。それ以外に、この空虚な夕暮れを埋める術を私は知りません。

私の沈黙は、父にとって最大の反逆と映ったらしい。父は私を追い出し、依子とその夫に実権を譲った。その瞬間から、館は急速に冷え込み始めた。依子は父を地下の狭い部屋へと追いやり、彼が大切にしていた古い書物を次々と焚き火にくべた。父が守ろうとした「美しき過去」は、新時代の合理性という嵐によって、容赦なく引き裂かれていったのである。

嵐の夜がやってきた。それは物理的な暴風雨であると同時に、久瀬家という概念を根底から覆す審判の刻であった。依子の冷遇に耐えかね、正気を失った父は、降りしきる雨の中へと躍り出た。彼は、泥にまみれた寝巻きを翻しながら、見えない臣下たちに向かって、かつての栄光を叫び続けた。

「見よ、この雨は私の涙だ。空さえも、高貴なる者の没落を嘆いているのだ!」

私は父の背中を追い、雨の中を走った。傍らには、薬が切れて発作を起こした直治が、道化のように奇声を上げながら這いつくばっていた。直治は、泥を舐めながら呟いた。「ねえ、姉さん。これが僕たちの求めていた『道徳の革命』なんだろうか。何もかもが壊れて、ただの肉塊に戻っていく。なんて、なんて美しいんだろう」

その時、私は悟った。私たちは、被害者なのではない。私たちは、美しく死ぬために、自らこの破滅を選んだのだ。父は、自らをリア王に擬えることで、己の無能さを悲劇へと昇華させようとした。直治は、退廃の極みを見せることで、俗世への復讐を果たした。そして私は――私は、この二人を看取ることで、自らの魂に消えない刻印を残そうとしていたのだ。

翌朝、嵐は去り、館の庭には無惨な光景が広がっていた。父は、濡れた地面に横たわり、冷たくなっていた。その顔は、驚くほど穏やかで、まるで長い芝居を終えた役者のようであった。直治は、父の遺体の側で、空になった注射器を握りしめたまま、永遠の眠りについていた。

依子が、着慣れぬ喪服に身を包み、勝ち誇った顔で現れた。彼女は、父の死によって全財産を手に入れたことを確信していた。しかし、彼女が金庫を開けた時に目にしたのは、金塊でも株券でもなく、ただ一通の遺言状であった。そこには、震える文字でこう記されていた。

『わが家系のすべての負債と、呪われた血筋を、最愛の長女・依子に譲る。お前が手に入れたのは、輝ける財産ではなく、永遠に払い続けることのできぬ、過去という名の借金だ』

依子の顔から血の気が引いていくのを、私は冷ややかに眺めていた。彼女が必死に守ろうとした「現実」は、父が仕掛けた最後の手品によって、底なしの沼へと変貌したのだ。彼女はこれから、維持費ばかりがかさむ朽ちた館と、消えることのない名門の汚名に、一生を食いつぶされることになるだろう。

私は、小さな鞄一つを手に、門へと向かった。
私は今、かつてないほどの自由に満たされている。父も弟も死に、家も失った。私は、何も持たない「無」になったのだ。しかし、この「無」こそが、私が求めていた真の貴族の姿であった。

革命は、ギロチンや銃火によって成されるのではない。愛するものをすべて失い、それでもなお、濁った朝日を美しいと感じてしまう、その厚顔無恥な魂の持続によってのみ成されるのだ。

私は、歩き出した。背後で依子が、壊れた玩具のように叫び声を上げている。その声は、遠くで鳴く鴉の声と混ざり合い、霧の中へと消えていった。私の目の前には、ただ、荒れ果てた野原と、容赦のない光が広がっている。私はそこで、一人の女として、あるいは一人の犠牲者として、新しく、そして最も古い物語を書き始めるのだ。

太陽は再び昇る。しかし、それはもう久瀬家の太陽ではない。ただの、熱く、無慈悲な、物質としての太陽だ。私はその光を浴びながら、心の底から微笑んだ。これが、私の王冠だ。