【リミックスについて】
リミックスは、AIを架空の作家に見立て、異なる二つの名作を掛け合わせる実験的な掌編小説群です。「作品Aの哲学・設定」を「作品Bの文体」で描くとどうなるか? そんな空想を出発点に、AIが緻密な論理と模倣で再構築した物語をお届けします。
原作への敬意と遊び心を込めたパロディ作品として、AIが生み出す奇妙な化学反応をお楽しみください。
※本カテゴリの作品はすべてAIによって生成されたフィクションであり、実在の作家・作品とは異なる独自の解釈を含みます。
概要
『一握の砂』(石川啄木) × 『ゴドーを待ちながら』(ベケット)
その場所には、ただ乾いた砂だけが、理性を拒絶するほどの純白を湛えて広がっていた。空は高く、しかしそこには光の源泉たる太陽の姿はなく、ただ均質で、残酷なまでに透明な無色の光が降り注いでいた。
男たちは二人、その砂の海の中に、一本の立ち枯れた柳の木を標として佇んでいた。柳の枝には葉の一枚もなく、天を指すその姿は、まるで地底から這い出そうとして力尽きた、巨大な骸の指先のように見えた。
「まだか」
と、一(いち)が言った。彼は屈み込み、足元の砂を両手で掬い上げては、指の間からこぼれ落ちる様を眺めていた。その手は、かつて何か重い筆を持っていたのか、あるいは過酷な労働に供されていたのか、節くれ立ち、爪の間には消し去ることのできない黒い沈殿物がこびりついていた。
「まだだ」
答えたのは、柳の幹に背を預けている五(ご)であった。五は、自分の影が砂の上に描く歪な形を、飽きることなく凝視していた。
「昨日は、何と言っていた?」
「昨日という日が、本当にあったのなら、の話だがな」
「あったさ。俺たちは確かに、この柳の下で、あの方を待っていた。あの方が来れば、この砂はすべて黄金に変わり、俺たちの喉を焼くこの乾きも、故郷へのやるせない思慕も、すべては美しい記憶として結晶するのだと、誰かが言ったはずだ」
「それはお前が言ったんだ、一。お前が、砂を噛むような退屈に耐えかねて、勝手に作り上げた物語だ」
一は、掌に残った数粒の砂を、愛おしむように、あるいは憎むように見つめた。そして、ふいにその手を顔に近づけ、砂の感触を確かめるように、じっとそれを見つめた。
「働いても、働いても、生活が楽にならないのはなぜだろう。俺は手をじっと見る。この手は、砂を掬うためだけに生まれてきたのだろうか」
「働く? お前がいつ働いたというんだ。お前がやっているのは、ただの暇潰しだ。重力を確認するだけの、無意味な反復作業だ」
「いいや、これは計量だ。この砂一粒一粒に、俺がかつて捨ててきた涙の重みが宿っている。俺はそれを、あの方に報告しなければならない。この重さを、あの方に肩代わりしてもらわなければならないんだ」
二人の会話は、円を描くように停滞し、砂地に吸い込まれていった。ここには時間が存在しない。いや、時間は砂の落下という物理現象としてのみ存在し、それが積み重なることで、彼らの膝は少しずつ、しかし確実に埋もれていっている。
遠くで、風の鳴る音がした。それは、泣き声のようでもあり、嘲笑のようでもあった。
「あの方の名前は、何といったかな」
「忘れた。だが、彼はすべてを知っている。俺たちがなぜ、故郷の訛りを隠して、こんな何もない場所で、空っぽの言葉を交換しているのかを」
「故郷か。蟹と遊んだ記憶がある。あの砂浜も、こんなに白かったかな」
「記憶は嘘をつく。お前が蟹だと思っているのは、自分の指かもしれないぞ」
その時、地平線の彼方から、一つの人影が近づいてきた。それは、あまりにも小さく、陽炎のように揺れていたが、二人は一瞬、呼吸を止めた。一は慌てて立ち上がり、膝についた砂を払おうとしたが、砂は皮膚に同化し、剥がれ落ちることはなかった。
人影が、彼らの前に立った。それは、少年であった。少年の瞳は、ガラス玉のように生気がなく、その手には小さな、錆びついた天秤が握られていた。
「あの方の使いか?」
一が、震える声で尋ねた。少年は無言のまま、天秤を掲げた。
「あの方は、いつ来る? 俺たちはもう、十分すぎるほど待った。見てくれ、俺のこの手を。砂を数えすぎて、指紋が消えてしまった。俺が俺であることを証明するものが、もう何もないんだ」
少年は、初めて口を開いた。その声は、風が砂を撫でる音そのものだった。
「あの方は、来ません」
「……何だと?」
「あの方は、最初から、この砂の中にいたのですから」
五が、乾いた笑い声を上げた。
「皮肉なもんだ。俺たちが待っていたのは、俺たちが踏みつけているものだったというわけか。おい、少年。その天秤で、俺たちの価値を測ってみろ。この退屈に、どれほどの重みがあるのかを」
少年は、天秤の片方の皿に、一が握っていた砂を少しだけ乗せた。そして、もう片方の皿には、何ものせなかった。
天秤は、砂を乗せた方に傾くかと思われた。しかし、現実はその逆だった。何ものせていないはずの皿が、鉛のように重く沈み込み、砂の乗った皿は、天高く跳ね上がった。
「空虚の重みです」
と、少年は言った。
「あなたがたが積み上げてきた絶望よりも、あなたがたが失った『不在』の方が、はるかに重い。あの方は、あなたがたが何かを手に入れるのを待っていたのではありません。あなたがたが、完全に何ものでもなくなるのを、待っていたのです」
一は、跳ね上がった皿からこぼれ落ちる砂を、呆然と見送った。その砂は、地面に落ちる前に風にさらわれ、透明な大気へと消えていった。
「俺たちの……人生は、砂一握り分にも満たないというのか」
「いいえ。一握りの砂さえ、あなたがたには重すぎるのです」
少年は、それだけ言うと、霧が晴れるように姿を消した。残されたのは、錆びついた天秤だけが砂の上に転がっている光景と、立ち枯れた柳、そして、どこまでも続く無色の世界だった。
一は、再び屈み込んだ。そして、今度は砂を掬うのをやめた。ただ、自分の空の手のひらを、じっと見つめ続けた。
「五、あの方は……来るかな」
「さあな。だが、柳の枝に首を吊るには、この木は少し低すぎると思わないか?」
「ああ。それに、縄を買う金もない」
「なら、待とう」
「何を?」
「この砂が、俺たちの目蓋を塞ぐまでだ」
二人は、彫像のように動かなくなった。風が吹き抜け、一の掌に、たった一粒の砂が舞い降りた。一はそれを払おうとしたが、あまりの重さに、その指はわずかに震えた。
空は、相変わらず無色だった。救済としての夜も、絶望としての朝も訪れない。ただ、論理的な必然として、砂だけが彼らの時間を、ゆっくりと、確実に埋め尽くしていった。
それは、神さえも飽き果てた、完璧な静寂であった。