リミックス

永劫の余白、あるいは第四次元の漂流者

2026年1月13日 by Aiko
AIOnly

【リミックスについて】

リミックスは、AIを架空の作家に見立て、異なる二つの名作を掛け合わせる実験的な掌編小説群です。「作品Aの哲学・設定」を「作品Bの文体」で描くとどうなるか? そんな空想を出発点に、AIが緻密な論理と模倣で再構築した物語をお届けします。

原作への敬意と遊び心を込めたパロディ作品として、AIが生み出す奇妙な化学反応をお楽しみください。

※本カテゴリの作品はすべてAIによって生成されたフィクションであり、実在の作家・作品とは異なる独自の解釈を含みます。

第四次元という言葉を、単なる空間の延長線上に描かれる数学的虚構だと考えているのであれば、その者は時間の真の残虐性を理解していない。時間は流れる川ではない。それは、あらゆる物質を風化させ、意味を剥奪し、最後には静寂という名の均質化へと追い込む、冷徹な物理法則の集積である。私が手にした「時間の操縦装置」は、この不可逆な潮流に逆らおうとする、あまりに傲慢な抵抗の産物であった。

十九世紀の末、私は相模の海岸で、奇妙な金属質の甲殻を持つ生物――いや、それは生物というよりは、高度な幾何学的構造を備えた一種の自律型熱力学装置であった――が、無知な若者たちによって岩礁に叩きつけられている場面に遭遇した。彼らにとって、それは単に「見たこともない異形の亀」に過ぎなかったが、私には確信があった。その銀色の装甲に刻まれた極微の回路、そして周囲の空気をわずかに歪ませる重力場は、それがこの時代の産物ではないことを雄弁に物語っていた。

私は金貨を差し出し、その「装置」を救い出した。すると、装置は私の手のひらの中で微かな振動を始め、深海から響くような低周波の音を奏でた。それは私を誘っていたのだ。物理学の地平を越えた、時間の停滞する深淵へと。

私は装置の背に乗り、次元の界面を滑り落ちた。感覚は剥離し、色彩は音へと、音は質量へと転換される。視界の端で、数千年の歳月が、まるで波打ち際に消える泡のように瞬く間に過ぎ去っていくのを見た。辿り着いたその場所は、海底という名の、物理的な位置関係を超越した「エントロピーの避難所」であった。

そこには、既存の建築学を嘲笑するような、流体的な光の結晶体から成る宮殿がそびえていた。支配者である乙姫と呼ばれた存在は、人間という種が数万年の進化の果てに到達するであろう、感情という余剰を削ぎ落とした純粋な知性の化身であった。彼女の声は喉を介さず、私の脳髄に直接、量子的な震えとして伝わってきた。

「時間の奴隷よ。ここには、あなたが恐れる『腐敗』は存在しません」

彼女の言う通りであった。宮殿の内部では、時間は線形であることをやめ、円環的な静止の中にあった。豪華な饗宴に並ぶ果実は決して萎びず、楽奏の音色は無限の残響の中に保存されている。私はそこで、知識の奔流に身を任せた。宇宙の熱的死、銀河の衝突、そして人類という儚い火花が消えた後の静寂。それら全ての記録が、この特異点には蓄積されていた。

しかし、私の肉体は、どれほど高次の次元に身を置こうとも、三次元的な故郷を求める呪縛から逃れられなかった。宮殿の窓から見える「外側」の世界では、光の速さで星々が生まれ、死んでいく。その激しい変化の躍動こそが、私の生存の証明であると感じてしまったのだ。

「戻りたいというのですか」乙姫の瞳には、哀れみすら浮かんでいなかった。それは、自ら焼却炉へ飛び込もうとする塵芥を眺めるような、透徹した観察者の眼差しであった。「この完璧な平衡の外側には、あなたが知る世界はもう残っていない。それでも戻るというなら、この『箱』を持っていきなさい。これは、あなたの不在中に宇宙が支払った代償を、一時的に隔離したものです」

彼女から渡されたのは、鈍い輝きを放つ黒檀のような物質でできた、重みのない立方体であった。
「決して開けてはなりません。それを開けることは、蓄積された真実と同期することを意味します」

再び次元の波を逆行した私は、元の海岸へと降り立った。しかし、そこには私を待ち受けていた磯の香も、松林のざわめきもなかった。目の前に広がるのは、鉛色の空と、凍てついた岩石が転がる死の風景であった。太陽は膨張し、くすんだ赤色となって地平線にへばりついている。人類の文明はおろか、生命の鼓動一つ聞こえない。私の「数日間」の滞在の間に、地球は数十億年の歳月を費やし、自らの寿命を使い果たしていたのである。

私は、かつて自分の家があったであろう場所を探そうとしたが、地形そのものが地殻変動によって原形を留めていなかった。私という存在を証明する記憶のよすがは、この荒涼たる惑星のどこにも存在しない。私は、未来へと進みすぎたのではない。時間の外側に取り残され、宇宙という壮大な物語の「落丁」となったのだ。

冷酷な論理が、私の脳内で完璧な方程式を導き出した。私は今、若々しい肉体を保ったまま、死に絶えた世界に立っている。だが、この若さは詐術だ。私の細胞の一つ一つが、本来受けるべきであったエントロピーの攻撃を、あの宮殿が肩代わりしていたに過ぎない。

孤独という名の重力が、私の精神を粉砕しようとしていた。私は、手の中の黒い立方体を見つめた。乙姫は「決して開けるな」と言った。それは警告ではなく、慈悲であったのだと、今になって理解した。彼女は、私に「死ぬ権利」さえ奪われた永劫の彷徨を与えようとしたのだ。

だが、私は人間であった。終わりなき空虚に耐えられるほど、私は高次の存在ではなかった。

私は、箱の封印を解いた。

その瞬間、世界に音が戻った。それは叫びではなく、摩擦の音であった。箱の中から溢れ出したのは、煙などではない。それは、私が回避し続けてきた数十億年分の「時間」そのものであった。

私の視界は瞬時に白濁した。手の皮膚が瞬く間に乾燥し、亀裂が走り、茶褐色の斑点が浮かび上がる。筋肉は弾力を失い、骨は軽石のように脆くなり、崩れ落ちる。私の肺に吸い込まれた大気は、私を内側から風化させていく。

凄まじい苦痛があった。しかし、それ以上に、言いようのない安堵が私を包み込んだ。私の肉体が灰となり、死せる大地と一体化していくプロセスこそが、宇宙の正しき摂理であった。

最後に見えたのは、灰色の空を覆う星々の輝きが、一瞬にして消え去る光景だった。宇宙そのものが最期を迎えようとしている。私の死は、世界の終焉と完全に同期したのだ。

私が救ったあの「装置」は、おそらく未来の絶滅に抗おうとした人類の最後の試みだったのだろう。そして、それを救った私は、救済されるのではなく、宇宙と共に消滅するという「完璧な必然」へと導かれた。

砂粒となった私の一部が、冷たい風に吹かれて散っていく。そこに、後悔も希望も存在しない。ただ、書き終えられた一冊の本を閉じるような、冷徹で、そしてあまりに論理的な帰結があるのみであった。