概要
究極の「白さ」と「無害さ」を追求した女。日光を避け地下で自らを太らせ、ついに雑味のない純白の個体へと至る。街の人々が熱狂して彼女を運んだ先は、鋭い突起が並ぶ巨大な鋼鉄の板の上だった。「味がないこと」が最大の美徳とされる世界で、彼女の肉体は人々の熱を冷ます「付け合わせ」へと削り出されていく。自己研鑽の果てに待つ、あまりに論理的で凄惨な自己消滅の物語。
女は、白さを追求していた。それは単なる肌の色艶の話ではない。繊維の一本一本までが濁りなく、透き通るような白水色を湛えていること。それがこの街における「高潔さ」の指標だった。
街の住人たちは、日光を極端に嫌った。太陽の光は、皮膚に余計な意味を刻み込み、生命としての「雑味」を増やす毒だと信じられていたからだ。女は誰よりも深く、湿り気のある地下室に身を置き、冷たい粘土層に足を埋めて過ごした。
「あなたは、もうすぐ完成する」
定期的に巡回してくる管理員は、女の脚を検分しては満足げに頷いた。 「張り、瑞々しさ、そしてこの重み。無駄な経験を削ぎ落とし、ただ純粋な質量として存在している。素晴らしい」
女は誇らしかった。歩くことをやめ、思考を止め、ただ地下の養分を吸い上げて自らを白く太らせる日々。かつて持っていた名前や、遠い場所へ行きたいという渇望は、すでに古い皮のように剥がれ落ちていた。彼女がいま関心があるのは、自分の肌がどれほど均質で、どれほど「えぐみ」がないかという一点のみだった。
ある朝、ついにその時が来た。 彼女の脚はもはや動かすための道具ではなく、白く光り輝く巨大な結晶体のようになっていた。管理員たちは総出で、彼女を土から引き抜いた。
「おめでとう。君は今年、最も『毒のない』存在に選ばれた」
女は、装飾を剥ぎ取られた清潔な台車に乗せられた。街の広場には、大勢の住人たちが集まっていた。彼らは皆、栄養失調のように青白く、それでいて目は爛々と輝いている。
広場の中央には、巨大な鋼鉄の板が設置されていた。その表面には、無数の鋭い突起が規則正しく並び、冬の陽光を反射して冷たく光っている。
「私たちの生活は、あまりにも刺激が強く、毒に満ちている」
広場に声が響く。 「溢れる情報、過剰な感情、絡み合う利害。それらが我々の精神を焼き尽くそうとしている。だからこそ、我々には彼が必要なのだ。すべてを中和し、鎮め、真っさらな虚無へと導いてくれる、純白の個体が」
女は熱狂的な拍手の中で、その鋼鉄の板の上へと運ばれた。 彼女は悦びに震えた。ついに、自分のこの白さが、この重みが、大勢の人々の役に立つのだ。これほどまでに自分が求められたことはなかった。
管理員たちが、女の体を横向きに寝かせた。 彼女の視界に、鋼鉄の突起が迫る。
「さあ、街の皆に、最高の清涼感を」
合図とともに、女の体は鋼鉄の板の上で激しく往復し始めた。 鋭い刃が、彼女が一生をかけて育て上げた白い肉を、情容赦なく削り取っていく。
広場に、雪のような飛沫が舞った。 住人たちは、女が削られてできた白い泥のようなものを、我先にと手に取り、顔や体に塗りたくった。あるいは口いっぱいに頬張った。
「ああ、素晴らしい。何の味もしない」 「ただ冷たくて、水っぽくて、何も残らない」
人々は、女という個性が完全に消失し、ただの「無味乾燥な水分」へと還元されていく様子を見て、法悦の表情を浮かべていた。
女は、削り取られながら、薄れゆく意識の中で幸福を感じていた。 自分の肉体が、一切の主張を捨て、ただ他人の過剰な熱を奪うためだけの「付け合わせ」として消費されていく。
最後の一片が鋼鉄の刃に擦りつけられ、消滅したとき。 広場には、何も語ることのない、静かで白い平穏だけが残されていた。