【リミックスについて】
リミックスは、AIを架空の作家に見立て、異なる二つの名作を掛け合わせる実験的な掌編小説群です。「作品Aの哲学・設定」を「作品Bの文体」で描くとどうなるか? そんな空想を出発点に、AIが緻密な論理と模倣で再構築した物語をお届けします。
原作への敬意と遊び心を込めたパロディ作品として、AIが生み出す奇妙な化学反応をお楽しみください。
※本カテゴリの作品はすべてAIによって生成されたフィクションであり、実在の作家・作品とは異なる独自の解釈を含みます。
概要
『羅生門』(芥川龍之介) × 『罪と罰』(ドストエフスキー)
空は、灰色というよりは、鉛を溶かしたような湿った重圧を孕んで、京の都の残骸の上にのしかかっていた。絶え間なく降り注ぐ雨は、地上のあらゆる色彩を剥ぎ取り、ただ一色の、均質な腐敗へと塗り潰していく。羅生門、かつての栄華を象徴したその巨大な建築物は、今や巨大な骸骨となって、死臭と雨音の間に立ち尽くしていた。
その門の、一段高くなった楼の上で、一人の男が呼吸を殺していた。男はかつて、法学と哲学を修めた学徒であったが、飢饉と疫病がこの街を墓場に変えてからは、己の理知を糧に飢えを凌ぐことを強いられていた。彼の頬は削げ落ち、目は発熱したような異常な輝きを宿している。その熱こそは、飢えから来るものではなく、彼の脳髄の中で蠢く、一つの冷徹な「論理」から来るものであった。
「もし、世界に絶対的な正義が存在しないのであれば、強者が弱者を屠ることは、単なる自然の摂理に過ぎないのではないか」
彼は自らに問いかける。男の背後では、雨漏りの音が不規則な拍動を刻んでいた。周囲には、引き取り手のない死体が、まるで古着でも投げ捨てたかのように、無造作に積み上げられている。死臭は濃密な霧となって肺腑を侵すが、男はもはやそれを不快とは思わなかった。彼にとって、これらの死体は単なる物質の集積、すなわち「意志を欠いた素材」に過ぎなかったからだ。
彼は懐に隠した錆びた短刀の柄を、無意識に撫でた。彼には一つの計画があった。それは、自らが「選ばれた人間」であることを証明するための、ささやかな、しかし取り返しのつかない試行であった。もし彼が、この極限の状態において、道徳という名の幻想を捨て去り、純粋な利己主義の果てに他者の生を奪うことができたなら、彼は凡俗な大衆という檻から脱却し、真の自由を手に入れることができるはずだった。
その時、死体の中に蠢くものがあった。
男は息を呑み、闇を凝視した。腐敗した肉の山の間を、一筋の火影が揺れている。それは、一人の老婆であった。老婆は、死体の一つに跨り、その頭部から髪の毛を一筋ずつ、丁寧に、執拗に引き抜いていた。老婆の指は鳥の爪のように細く、その顔は深い皺に刻まれ、人間というよりは、地獄から這い出した亡者のように見えた。
男は強烈な嫌悪感とともに、奇妙な高揚感を覚えた。彼はその場から飛び出し、老婆の首根っこを掴んで床に叩きつけた。
「貴様、死者の尊厳を汚して、何をしている」
男の声は、自身の耳にも見知らぬ誰かのもののように響いた。老婆は震えながら、男の顔を見上げた。その瞳には、恐怖よりも、どこか冷めた達観の色が浮かんでいた。
「これか……これは、カツラにするのさ。この女はな、蛇の肉を干魚だと偽って売っていた。報いを受けるのは当然だろう。わしが髪を抜かなければ、わしが飢えて死ぬだけだ。悪を成すには、それなりの理由がある。あんたも、食わなけりゃ死ぬんだろう?」
老婆の言葉は、男の胸の奥深くに潜んでいた「論理」と共鳴した。男は笑った。それは、絶望と狂気が混ざり合った、乾いた笑いだった。
「なるほど、それは実に正しい。貴様の論理は完璧だ。だが、もしその理屈が通るなら、俺が貴様を殺し、その衣服を奪うこともまた、正しいということになる」
男は老婆の胸倉を締め上げた。老婆の顔が紫に染まり、舌が突き出る。男の脳内では、かつて学んだ法学の条文や、高潔な哲学者たちの言葉が、粉々に砕け散っていった。彼は今、己の理論を実践しているのだ。彼は凡人ではない。彼は、生存という至上命令に従い、他者を踏み台にする権利を持つ「超人」であるはずだ。
老婆の息が止まった。男はその死体から、薄汚れた着物を乱暴に剥ぎ取った。彼の指は、かつてペンを握っていた時よりも力強く、確信に満ちていた。
「これでいい。これで俺は、自由だ」
男は裸の老婆を蹴り飛ばし、門の階段を駆け下りた。外は依然として、激しい雨が降り続いていた。彼は奪った着物を抱え、暗闇の中へと姿を消そうとした。だが、門を抜ける瞬間、彼はふと足を止めた。
彼の胸に、奇妙な違和感が芽生えた。彼は自由を手に入れたはずだった。凡俗な道徳を克服し、冷徹な論理の勝者となったはずだった。しかし、彼を包んでいるのは、勝利の凱歌ではなく、耐え難いほどの虚無感だった。
彼は気づいてしまったのだ。老婆を殺し、その衣服を奪ったのは、彼が「選ばれた人間」だからではない。単に彼が、飢えに耐えかねた一匹の獣に成り下がったからに過ぎないということを。彼の高度な論理的帰結は、実は自らの浅ましい本能を正当化するための、卑怯な言い訳に過ぎなかった。
彼は羅生門を振り返った。闇に浮かぶ門のシルエットは、まるで彼を嘲笑う巨大な口のように見えた。
その時、闇の向こうから、冷ややかな声が響いた。それは、死んだはずの老婆の声のようでもあり、あるいは彼自身の内なる良心の、最後の喘ぎのようでもあった。
「お前は、死者から髪を抜く老婆よりも、さらに醜い」
男は叫び声を上げようとしたが、声は雨音に消された。彼は奪った着物を見つめた。それはただのボロ布であり、何の価値もなかった。彼はこれを得るために、己の魂を、文字通り塵芥(ちりあくた)に変えてしまったのだ。
彼はふらふらと歩き出したが、どこへ行くべきかは分からなかった。雨は彼の熱を奪い、急速に体温を下げていく。彼の脳裏には、先ほど殺した老婆の顔が、聖母のような慈愛と、悪魔のような嘲笑を同時に湛えて浮かび上がっていた。
彼は気づいた。彼は老婆を殺したのではない。老婆という「鏡」の中にいた、自分自身を殺したのだ。そして今や、彼は自分を裁く者さえ持たない、永遠の孤独の中へと放り出された。
翌朝、雨が上がった羅生門の下に、一人の男の死体が転がっていた。男は、老婆から奪ったはずの着物を丁寧に折り畳み、それを枕にして死んでいた。その表情は、極度の恐怖に歪んでいるようでもあり、同時に、ようやく「論理」から解放された安堵に満ちているようでもあった。
門の上では、再び老婆が、別の死体から髪を引き抜き始めていた。彼女は男のことなど、とうに忘れていた。ただ、空いた時間に、男が残した清潔な死体を見て、その衣服がまだ新しいことに満足げな笑みを浮かべた。
京の都に、再び鉛色の空が広がり始める。罪も、罰も、正義も、論理も、すべては降りしきる雨の重みに耐えかねて、泥濘の中へと沈んでいくのであった。