リミックス

狂骨の棲む嶺

2026年1月15日 by Aiko
AIOnly

【リミックスについて】

リミックスは、AIを架空の作家に見立て、異なる二つの名作を掛け合わせる実験的な掌編小説群です。「作品Aの哲学・設定」を「作品Bの文体」で描くとどうなるか? そんな空想を出発点に、AIが緻密な論理と模倣で再構築した物語をお届けします。

原作への敬意と遊び心を込めたパロディ作品として、AIが生み出す奇妙な化学反応をお楽しみください。

※本カテゴリの作品はすべてAIによって生成されたフィクションであり、実在の作家・作品とは異なる独自の解釈を含みます。

 その嶺の名を「鴉ヶ森(からすがもり)」という。四方を切り立った断崖と、年中晴れることのない鈍色の霧に閉ざされたその地には、古びた洋館「月蝕館(げっしょくかん)」が、まるで大地に突き立てられた腐った楔のように鎮座していた。
 この館の主、能登原(のとはら)家は、かつてこの地方の鉱山を支配し、富を築き上げた一族であったが、その血脈には代々、一種の狂気と、外部の者には理解し難い執着が流れていると囁かれていた。
 物語は、その不吉な門を叩いた、一人の黒ずんだ肌の少年から始まる。

 少年の名は、誰も知らなかった。先代の当主、能登原源一郎が、視察先の貧民街から「魂の重さが私と同じだ」という不可解な理由で連れ帰ったその孤児は、便宜上「蓮(れん)」と名付けられた。蓮は、言葉を解さぬ獣のような眼光を放ち、屋敷の者たちから忌み嫌われた。だが、ただ一人、源一郎の娘である紗代(さよ)だけは、その漆黒の瞳の中に、鏡合わせの己を見出したのである。

「蓮、あなたは私。私はあなた。この鴉ヶ森の霧が私たちの肺を満たし、心臓を腐らせるまで、私たちは一つなのよ」

 少女時代の紗代が、蓮の首筋に白い指を這わせながら囁いたその言葉は、祈りではなく呪詛であった。二人は嵐の夜ごとに、荒れ果てた嶺の頂にある岩場に立ち、吹き荒れる風に身を任せた。文明の洗礼を拒絶した魂の交感は、やがて歪な愛着へと変質していく。それは、横溝正史が描くような、湿り気を帯びた執拗な執念——暗い土蔵の中で密かに育まれる毒花のような、倒錯したエロティシズムを孕んでいた。

 しかし、運命は冷酷な論理によって彼らを分断する。源一郎が急逝し、能登原家の実権が紗代の兄、道長へと移ると、蓮は家畜以下の扱いに甘んじることとなった。さらに、近隣の由緒ある名家、一ノ瀬家の放蕩息子である守(まもる)が、紗代の美しさに目を付けた。
 守は、都会的な洗練を装いながら、その実、内面は空虚な男であった。紗代は、蓮を救うための地位と富を得るという、自己欺瞞に満ちた論理を盾に、守との結婚を承諾する。

 蓮が月蝕館を去ったのは、その婚約が決まった夜のことだった。彼は、鴉ヶ森の崖から身を投げたとも、霧に溶けて消えたとも噂された。
 それから三年。
 能登原家と一ノ瀬家が結ばれ、表向きの平穏が保たれていた鴉ヶ森に、一人の紳士が帰還する。漆黒の外套に身を包み、冷徹な理知と、底知れぬ富を携えたその男——それは、異国での過酷な略奪と投機によって魂を磨り潰し、悪魔のような変貌を遂げた蓮であった。

 蓮の復讐は、暴力的ではなく、むしろ建築的で論理的な「解体」であった。彼は、借財に喘いでいた能登原家の土地を次々と買い叩き、一ノ瀬家の醜聞を裏で操って、守を酒と阿片の淵へと沈めていった。
 かつての「月蝕館」は、今や蓮の所有物となった。彼は、かつて自分を虐げた者たちを、一間に閉じ込めるような真似はしない。むしろ、広大な屋敷の中で、彼らが「自由」を享受しながらも、一歩ずつ自滅へと向かうよう、緻密な罠を配置したのである。

 紗代は、変わり果てた蓮の中に、かつての野生の輝きではなく、凍てつくような虚無を見た。
「蓮、私を殺しに来たのね」
「殺す? そんな慈悲深いことはしない。紗代、君は僕が味わったあの夜の霧を、死ぬまで吐き出し続けるんだ。君が選んだこの『文明的』な生活の果てに、何が残るかを見届けてやる」

 蓮の復讐が完成に近づくにつれ、物語は横溝的な怪奇の色彩を強めていく。
 守は精神を病み、屋敷の地下室で、自らの皮膚を削ぎ落として「美しい肖像画」を完成させようとする狂気に取り憑かれた。道長は、蓮から与えられた莫大な偽造紙幣によって破滅し、森の中で鴉に目玉を突かれながら憤死した。
 そして紗代もまた、蓮への愛憎に身を焼き、重い熱病に冒されていく。

 ある嵐の夜、死の床にあった紗代は、蓮を枕元に呼んだ。
「蓮……私は、あなたが憎かった。でも、それ以上に、あなたを失った後の、この静かな地獄が恐ろしかった。……あなたは、私を手に入れたと思っているでしょう? でも、あなたは結局、私の抜け殻を愛しているだけなのよ」

 紗代が絶命した瞬間、蓮は悟った。
 彼の復讐は、完璧な「論理的必然」に基づいていた。敵を破滅させ、愛した女を自らの足元に跪かせ、支配する。その筋書きに一点の曇りもなかった。
 だが、その論理の極致において、彼は最大の皮肉に直面する。
 紗代を死に追いやったのは、他ならぬ蓮が構築した「完璧な復讐の仕組み」そのものだった。彼女が死ねば、この鴉ヶ森において、蓮の存在を証明する鏡は永遠に失われる。

 蓮は、紗代の遺体を埋葬することを拒んだ。彼は、月蝕館の最も深い奥座敷、かつて源一郎が禁忌とした「開かずの間」に彼女を据えた。そこには、大量のホルマリンと、異国の剥製技術によって加工された、生けるが如き紗代の姿があった。
 彼は毎夜、その物言わぬ肉体の傍らで、かつての荒野の物語を語り聞かせた。
 しかし、月日が流れるにつれ、防腐処理の施された彼女の皮膚は、不自然な光沢を放ち、やがて内側から発酵するような奇妙な「熱」を帯び始めた。

 ある霧の深い夜、村の猟師が、鴉ヶ森の頂で奇妙な光景を目撃した。
 月蝕館の窓から、青白い火が揺らめきながら飛び出し、荒野を彷徨っていたという。それは科学的には、腐敗した有機物から発生する燐光、いわゆる「鬼火」に過ぎない。
 だが、その鬼火は二つあった。
 一つは館から、もう一つは、誰もいないはずの岩場から立ち昇り、空中で縺れ合うようにして、消えていった。

 翌朝、月蝕館を訪れた役人が見たものは、完璧に整えられた無人の屋敷であった。
 蓮の姿も、紗代の遺体も、影も形もない。ただ、奥座敷の中央に、一組の贅を尽くした衣服が、まるで中身が蒸発してしまったかのように、形を保ったまま置かれていた。
 机の上には、蓮の筆跡で、たった一行の書き置きが残されていた。

『所有とは、喪失の完成である』

 皮肉なことに、蓮がその執念を懸けて守り抜こうとした「紗代の形」は、彼が彼女を完全に支配し、固定しようとした瞬間に、論理的な限界を迎えて崩壊したのだ。
 魂は、固定されることを拒絶し、肉体という檻を、腐敗という名の最後の自由によって突き破った。
 蓮は、自らの知性が作り上げた完璧な牢獄の中で、自分自身をも消去せざるを得なかった。それが、彼が愛した「荒野の自由」に対する、唯一の論理的な帰結だったからである。

 鴉ヶ森には今も、激しい嵐の夜にだけ、獣の咆哮のような風の音が響き渡る。
 それは、文明の皮を剥ぎ取られた二つの魂が、今なお重なり合い、傷つけ合いながら、終わりのない荒野を駆け抜けている証左なのだと、麓の村人は怯えながら語り継いでいる。
 だが、その声を聞く者はもう、この呪われた嶺には一人も残っていない。