【リミックスについて】
リミックスは、AIを架空の作家に見立て、異なる二つの名作を掛け合わせる実験的な掌編小説群です。「作品Aの哲学・設定」を「作品Bの文体」で描くとどうなるか? そんな空想を出発点に、AIが緻密な論理と模倣で再構築した物語をお届けします。
原作への敬意と遊び心を込めたパロディ作品として、AIが生み出す奇妙な化学反応をお楽しみください。
※本カテゴリの作品はすべてAIによって生成されたフィクションであり、実在の作家・作品とは異なる独自の解釈を含みます。
概要
『パルムの僧院』(スタンダール) × 『源氏物語』(紫式部)
その都の空気は、熟しすぎた果実が発する甘美な腐臭に似ていた。帝国の辺境での軍功をひっさげ、青年貴公子・秋泉(あきずみ)が都へ舞い戻ったとき、街は「落花の令」と呼ばれる苛烈な粛清の最中にあった。秋泉の貌は、月光を透かす白磁のようだと讃えられながら、その双眸にはナポレオンを追った若者のような、分不相応な野心が冷たく燃えていた。彼を迎え入れたのは、実の叔母でありながら都随一の権勢を誇る尚侍(ないしのかみ)・十六夜(いざよい)である。彼女は、宮廷という名の緻密な歯車を、扇一本で操る魔女であった。
「この都では、真実は沈黙のなかにしか存在せず、愛は裏切りの別名にすぎません。秋泉、貴方はその美貌という刃を、鞘に収めておくことを覚えなさい」
十六夜は、香の煙がたゆたう御簾の奥から、冷徹な警告を発した。彼女の心根には、秋泉に対する、血縁の情を超えた焦燥と執着が淀んでいる。秋泉を宮廷の頂点へ押し上げることは、彼女にとって、かつて自分を排斥しようとした摂政家への、もっとも洗練された復讐であった。
しかし、秋泉の魂は、十六夜が用意した権力の双六を軽蔑していた。彼はある夜、禁忌を犯して迷い込んだ北の対の離れで、幽閉の身であった少女・露姫と出会う。彼女は、秋泉を捕縛しようと狙う大監獄長・蔵人の娘であった。蔵人は、法こそが神であると信じる鉄の男であり、秋泉のような「風雅を装った無頼漢」を、もっとも忌み嫌っていたのである。
秋泉と露姫の間に交わされたのは、言葉ではなく、薄紙に記された和歌と、夜霧に紛れた眼差しであった。秋泉にとって、彼女への恋は、退屈な宮廷闘争に対する唯一の反逆であり、露姫にとって、彼は灰色の幽閉生活に差し込んだ、残酷なまでに眩しい光であった。
だが、運命は、十六夜が描いた冷徹な論理に従って加速する。秋泉が露姫のもとに通うために弄した小細工は、政敵である右大臣の手によって「謀反の予兆」へとすり替えられた。秋泉は捕らえられ、都の北端にそびえる「玻璃の楼閣」へと投獄される。そこは、一度入れば二度と俗世の光を拝めぬと言われる、美しくも絶望的な石の牢獄であった。
牢獄での生活は、秋泉にとって、皮肉にも人生で最も純粋な時間となった。彼は高い窓から、はるか遠くに見える露姫の部屋の灯を眺め、一日のうちに数回、彼女が合図として振る白い絹の布に、魂を震わせた。外部の十六夜は、彼を救い出すために、かつて自分が軽蔑したあらゆる醜悪な政治工作に手を染める。賄賂、暗殺の示唆、そして帝への偽りの愛の誓い。十六夜のプライドは、秋泉を救うという大義名分の影で、少しずつ、だが確実に磨り減っていった。
「秋泉を救うためなら、私はこの都を灰にしても構わない。だが、彼が自由になったとき、彼は私ではなく、あの卑しい監獄長の娘を選ぶのだろう」
十六夜の独白は、秋泉が牢獄の壁に刻みつけた露姫への思慕の情と、奇妙に共鳴し、反発し合った。
やがて、十六夜が仕組んだ「完璧な脱獄」が実行される。それは、宮廷の儀式を利用し、都中の貴族が酔いしれる「花の宴」の最中に、秋泉を身代わりと入れ替え、香炉の煙に紛れさせるという、芸術的なまでの計略であった。秋泉は自由の身となり、十六夜の庇護のもとで、死んだはずの人間として別名を名乗り、再び権力の階段を駆け上がることになる。
しかし、その代償は冷酷であった。脱獄の際、秋泉を逃がすために協力した露姫は、父・蔵人の激昂を買い、自ら命を絶つ寸前まで追い込まれる。秋泉がようやく手にした「最高の地位」と「絶対的な権力」は、彼を露姫から永遠に引き離すための壁となった。なぜなら、今や彼は「秋泉」という名を捨て、政治の傀儡として生きる影の存在であり、露姫との再会は、十六夜の破滅、ひいては帝国全体の秩序の崩壊を意味するからだ。
数年後、秋泉はついに摂政の座を射止める。彼の治世は、かつてないほど洗練され、都には和歌と音楽が溢れた。だが、その華やかさの裏で、彼は夜ごと、かつての「玻璃の楼閣」を模して造らせた秘密の書斎に籠もり、独り、誰にも届かない手紙を書き続けた。
物語の結末は、完璧な静寂の中に訪れる。十六夜は、秋泉の心が自分に届かぬことを悟り、自ら建立した寺院へと消えた。秋泉は、彼女が去ったことで、自分を縛り付けていた最後の糸が切れたことを知る。
彼は、自らの地位を捨て、あの日脱出したはずの「玻璃の楼閣」へと戻る。しかし、そこにはもう、窓から振られる白い絹の布はない。蔵人の一家は、かつての醜聞を隠蔽するために、帝の手によって極秘裏に処刑されていたのである。
秋泉が牢獄の最上階に辿り着いたとき、彼を待っていたのは、かつて自分が露姫に向けて振ったはずの、古びた絹の切れ端であった。それは、彼を救うために十六夜が用意した「偽の合図」であったことが、ここで初めて明かされる。露姫は、彼が投獄された翌日に、すでにこの世を去っていたのだ。十六夜は、秋泉に生きる希望を与えるため、そして彼を自分の支配下に留めるために、数年間にわたって、死者との通信を偽装し続けていた。
秋泉は、窓から見える都の情景を見つめる。そこには、彼が築き上げた、完璧で、空虚で、あまりにも美しい「文明」が広がっていた。彼は静かに目を閉じ、かつて十六夜が言った言葉を思い出す。
「愛は裏切りの別名にすぎません」
彼は今、究極の権力を握りながら、世界で最も完璧な孤独の中にいた。彼が自由を求めて逃げ出した牢獄こそが、唯一、愛という名の幻想が息づいていた聖域だったのである。秋泉は、手にした扇をゆっくりと開き、そこに記された、もはや誰にも解読できない、死者への賛歌を口ずさんだ。外では、狂おしいほどの桜が、政治の冷徹な重力に従って、ただ静かに地に落ちていた。