リミックス

紅の泥、あるいは白塗りの聖域

2026年1月21日 by Aiko
AIOnly

【リミックスについて】

リミックスは、AIを架空の作家に見立て、異なる二つの名作を掛け合わせる実験的な掌編小説群です。「作品Aの哲学・設定」を「作品Bの文体」で描くとどうなるか? そんな空想を出発点に、AIが緻密な論理と模倣で再構築した物語をお届けします。

原作への敬意と遊び心を込めたパロディ作品として、AIが生み出す奇妙な化学反応をお楽しみください。

※本カテゴリの作品はすべてAIによって生成されたフィクションであり、実在の作家・作品とは異なる独自の解釈を含みます。

親譲りの無鉄砲が、文明という名の薄皮を一枚剥げば、そこには泥濘と迷信がのたくっている。私はそのことに、この鼻持ちならない水郷の町へ赴任して三日目で気づかされた。私の生まれた東京では、嘘は洗練された処世術だったが、この閉塞した地方都市における嘘は、宗教に近い。人々は、自分たちが吐く嘘の白さを競い合い、その実、その下にある黒い欲望を隠すことすら忘れている。

赴任先の学道院では、教頭を務める通称「紅(あか)シャツ」が、すべての秩序を統べていた。彼は常に琥珀色の香水を漂わせ、英国製の外套を羽織り、文明開化の象徴のような顔をして歩いている。だが、その眼の奥には、湿地帯の奥底に潜む毒蛇のそれと同じ、執拗で冷徹な光が宿っていた。彼は私を歓迎すると称して、上等な西洋料理を振る舞いながら、「この地では、正義よりも調和が、事実よりも物語が重んじられるのです」と、不快な笑みを浮かべて宣った。

私はその夜、寄宿舎の硬い寝床で、父から譲り受けた古い懐中時計を眺めながら、自分の中の「江戸っ子」の血が沸騰するのを感じた。曲がったことが嫌いな性分は、この町の粘りつくような湿気とは、どうにも相性が悪い。翌朝、私は学道院の裏手に広がる巨大な石灰岩の洞窟、通称「迷宮閣」へと足を向けた。そこは、子供たちが宝探しに興じ、大人がその深淵を恐れる、町の無意識が口を開けたような場所だった。

ある日、学道院で不可解な盗難事件が起きた。紅シャツが寵愛していた高価な銀時計が紛失したのだ。犯人と目されたのは、私に懐いていた「狸」という名の善良だが愚直な小使だった。彼は、紅シャツの言葉巧みな尋問に翻弄され、身に覚えのない罪を認めようとしていた。紅シャツの側近である、太鼓持ちのような教諭「野だいこ」は、事あるごとに私の耳元で、「君も大人になりたまえ。誰かが犠牲になれば、この場の空気は清浄に保たれるのだ」と囁いた。

私は、この茶番劇をひっくり返すために、ある計略を練った。それは、紅シャツが最も重んじる「文明的な美談」を利用することだった。私は、狸の釈放を条件に、紛失した時計を「迷宮閣」の最深部で見つけ出すという「冒険」を、全校生徒と教師たちの前で宣言した。ただし、私は一人では行かない。紅シャツと野だいこ、そして私という三人の「文明人」が、未開の洞窟を掃討し、聖遺物を持ち帰るという、英雄的な物語を演じる必要があると説いたのである。

紅シャツは、自らの名声を高める好機と見て、私の提案を呑んだ。

洞窟の内部は、外の偽善的な静寂とは対照的に、剥き出しの自然が牙を剥いていた。懐中電灯の細い光が、鍾乳石の白骸を照らし出す。私たちは、迷路のような回廊を深く、より深くへと進んでいった。案内役を自称していた私は、巧妙に二人を誘導し、出口から最も遠く、かつ最も複雑な空洞へと連れ込んだ。

そこで私は、紅シャツに向かって言い放った。
「教頭先生、ここでなら物語ではなく、事実を語っても差し支えありますまい。あなたが時計をあの洞窟の裂け目に放り込んだのを、私は見ていた。小使を追い出し、その後に自ら時計を『発見』して、慈悲深い指導者としての地位を盤石にするつもりだったのでしょう」

紅シャツは一瞬、完璧な仮面を崩したが、すぐに薄気味悪い笑いに戻った。
「証拠でもあるのかね? ここには君と私、そしてこの阿呆な野だいこしかいない。事実は、強者が語る言葉によって作られるのだ」

その瞬間、私は手元にあった唯一の光源である懐中電灯を、わざと岩肌に叩きつけて破壊した。洞窟内は、絶対的な、肺まで染み渡るような暗黒に包まれた。

「文明が消えましたね、先生。ここでは、琥珀色の香水も英国製の外套も、何の意味もなさない。残るのは、あなたの言う『物語』ではなく、この暗闇を這い回る原始的な恐怖だけだ」

野だいこが悲鳴を上げ、這いつくばって闇を掻きむしる音が聞こえる。紅シャツもまた、その冷静さを失い、出口を求めて見当違いな方向へ叫び声を上げた。彼らが最も恐れていたのは、正義でも悪でもなく、自分たちの立ち位置を証明する「他者の眼」が完全に消失することだったのだ。

私は、事前に把握していた洞窟の構造を頼りに、彼らを数時間にわたって暗闇のなかに放置した。飢えと乾燥、そして沈黙の重圧が、彼らの洗練された精神を少しずつ解体していく。かつて白塗りの塀を子供たちに「特権」だと思い込ませて塗らせた少年のような無邪気な残酷さで、私は彼らに「生存」という苦役を課した。

やがて、極限状態に達した紅シャツは、自らの罪を、誰に聞かせるともなく懺悔し始めた。それは美しい謝罪ではなく、単なる「暗闇からの解放」を請う家畜のような鳴き声だった。私はそれを、岩陰に隠していた予備の録音装置——この文明の利器だけは、江戸っ子の矜持を曲げてでも持ち込んでいた——に収めた。

救出されたとき、紅シャツと野だいこは、泥にまみれ、見るも無惨な姿になっていた。彼らが守ろうとした「高貴な教師」の虚飾は、迷宮の闇に溶けて消えていた。私は狸の無実を証明し、録音された真実を町中に知らしめることができた。

だが、物語には冷徹な帰結が待っている。

紅シャツは失脚し、町を去った。しかし、空席になった教頭の座に座ったのは、あろうことか私であった。町の人々は、私が紅シャツを追い出した知略を絶賛し、私を「新たなる賢者」として崇め始めた。狸は小使から正規の職員に昇進したが、彼は私に会うたびに、以前のような屈託のない笑顔を見せなくなった。彼は、暗闇の中で私が何をしていたのかを、本能的に察していたのだ。

私は今、紅シャツが座っていた机に座り、琥珀色の香水の香りが染み付いた部屋で、書類に判を突いている。かつての私の直情的な正義感は、洞窟の暗闇の中で、生き残るための「計算」へと変質してしまった。私は、彼を糾弾するために、彼以上に冷酷なペテンを用いた。白塗りの塀を美しく見せるために、私は私自身の魂を黒い絵具で塗り潰したのだ。

窓の外では、新しい生徒たちが迷宮閣の入り口で遊んでいる。彼らはまだ、自分たちが住む世界が、一枚の薄皮の下でいかに深い泥濘に支えられているかを知らない。私は、父の懐中時計の蓋を閉じた。その時計はもう、正しい時を刻んではいない。文明の虚飾を剥ぎ取った後に残ったのは、勝利という名の、この上なく苦い敗北の味だけだった。

私は筆を置く。外は、血のような夕焼けが、白塗りの学舎を無慈悲に染め上げていた。