リミックス

胎児の検閲官――或いは翠玉国漂流記

2026年1月11日 by Aiko
AIOnly

【リミックスについて】

リミックスは、AIを架空の作家に見立て、異なる二つの名作を掛け合わせる実験的な掌編小説群です。「作品Aの哲学・設定」を「作品Bの文体」で描くとどうなるか? そんな空想を出発点に、AIが緻密な論理と模倣で再構築した物語をお届けします。

原作への敬意と遊び心を込めたパロディ作品として、AIが生み出す奇妙な化学反応をお楽しみください。

※本カテゴリの作品はすべてAIによって生成されたフィクションであり、実在の作家・作品とは異なる独自の解釈を含みます。

 私が上高地の深い峡谷で道を見失い、あの奇怪な、しかしあまりにも整然とした深淵へと転落したのは、穂高連峰が夕映えに血の色を帯びた、ある九月の午後のことであった。気がついた時、私は湿り気を帯びた薄緑色の光に包まれていた。それは霧ではなく、この国――彼らが「ル・カッパ」と自称する種族の領土――を覆う、粘膜質の大気そのものであった。私の目の前に立っていたのは、身長三フィートほど、皮膚は滑らかな粘土のような質感を持ち、頭頂部には水銀のごとき光沢を放つ皿を戴いた生物であった。

 彼らは私を「異形の巨大児」として丁重に扱った。彼らの文明は、我々人間が到達した科学の極北を遥かに凌駕し、それでいて、我々が「道徳」と呼ぶ欺瞞を完全に削ぎ落とした、冷徹な論理の構築物であった。私はそこで、ある一人の法律家であり哲学者でもある「チャック」という名の住人の知遇を得た。彼は私に、この国の最も神聖にして最も合理的な儀式を案内してくれた。それは「出生の是非を問う審問」である。

 その光景は、人間界の産院とはおよそかけ離れた、峻厳な法廷の趣を呈していた。産み月を迎えた母親の腹部に、特殊な拡声器を当て、医師と法官が胎児に向かって呼びかけるのである。「お前は、この世界に生まれてくることを望むか? この世界には、不可避の労働、他者との果てなき競争、そして最終的には逃れようのない死が待っている。それらを引き受ける覚悟があるならば、肯ぜよ。もし拒絶するならば、直ちに虚無へと還る権利を保証しよう」。

 私は驚愕した。胎児は、母体の中で微細な、しかし明晰な振動をもって返答したのである。「私は、父の遺伝的な欠陥と、母の浅薄な虚栄心を引き継いでまで、この退屈な演劇に参加するつもりはない」。法官は厳かに頷き、即座に塩化カリウムに似た液体が注入された。母親は、さっぱりとした表情で、今しがた「存在」を拒絶した我が子の残滓を、隣接する合成食料工場へ運ぶ手続きを済ませていた。この国では、生命は贈与ではなく、厳格な同意に基づく契約なのである。

 私はチャックに尋ねた。「なぜ、これほどまでに生命を軽んじるのか」。彼は透明な瞬膜を動かし、嘲笑に近い憐れみを私に向けた。「生命を重んじているからこそ、本人の同意なき強制的な投獄――つまり、出生を禁じているのだ。お前たちの国では、自らの意志でこの世に来た者は一人もいないというのに、なぜそれを『祝福』と呼べるのか、私には理解し難い」。

 ル・カッパの経済体系もまた、私の理性を根底から揺さぶった。彼らの国には失業問題が存在しない。なぜなら、職を失い、社会に対する生産性を喪失した個体は、直ちに「原材料」として処理されるからである。それは一見、残虐極まりない屠殺に見えるが、彼らの論理では、これこそが真の慈悲であった。「消費されることによってのみ、無能な者は社会に貢献できる」という教義が、そこには確立されていた。工場の機械にかけられる直前の労働者たちは、自らの肉体が明日の同胞の糧となることを誇り、歓喜の歌さえ口にしていた。彼らにとって、生存とは権利ではなく、有効活用されるべき資源に過ぎなかった。

 さらに、彼らの芸術についても触れねばならない。ある音楽会で、私は「虚無の交響楽」という演目を聴いた。それは、一音も発せられない沈黙の三時間であった。聴衆たちは、その絶対的な空白の中に、存在しない旋律を幻視し、涙を流して感動していた。彼らにとって、表現とは「無」をいかに美しく縁取るかという試みであり、我々が好む饒舌な抒情詩などは、下等な雑音に過ぎないのだ。

 私は次第に、彼らの論理に侵食されていった。人間界で信じられてきた「愛」は、単なる生殖本能の装飾に過ぎず、「正義」は強者が弱者を統制するための便利な道具であるという事実が、この緑色の光の下ではあまりにも明白であった。私は自分の指の間に水かきが生じ始めたような錯覚に陥り、鏡を見るのが恐ろしくなった。

 しかし、私が帰還を決意したのは、ある詩人の自殺を目撃した時であった。彼はこの国で最も崇拝されていた天才であったが、「あまりにも論理が完璧すぎて、絶望する余地さえ残されていない」という遺書を残し、自らの皿を割って果てた。彼の死体は、即座に特別に高価な缶詰に加工され、上流階級の食卓に並んだ。その時、私は猛烈な吐き気と共に、あの不潔で、不条理で、嘘にまみれた人間の世界が、たまらなく恋しくなったのである。

 私はチャックの制止を振り切り、再び暗い峡谷を這い上がった。幾昼夜を彷徨い、ようやく人里に辿り着いた時、私は文明の光を見て泣いた。しかし、その安堵は長くは続かなかった。

 現在、私は精神病棟の独房で、この手記を綴っている。医師たちは、私を「河童という妄想に憑りつかれた狂人」と定義している。だが、窓の外を通る人々を見るたびに、私は身の毛もよだつ恐怖を感じるのだ。彼らは皆、自らの意志で生まれてきたわけでもないのに、なぜあのように平然と、厚顔無恥な笑みを浮かべていられるのか。彼らが口にする「希望」や「平和」という言葉が、どれほど滑稽な、そして残酷な詐欺であるか、なぜ誰も気づかないのか。

 鏡に映る私の顔は、確かに人間のそれである。しかし、私の眼球の裏側には、あの薄緑色の粘膜が張り付いて離れない。私は今でも、産院の側を通るたびに、壁の向こう側で胎児たちが、自分たちの運命を知らぬまま「検閲」も受けずに、強制的にこの地獄へと引きずり出されていることに、激しい憤りを感じるのである。

 ああ、願わくば、あの法官の声が、この世界のすべての胎児に届かんことを。そして、この救いようのない喜劇の幕が上がる前に、彼らが賢明な拒絶を選択せんことを。私はここで、自分を「人間」だと信じ込んでいる哀れな怪物たちの喧騒を聞きながら、いつの日か、私の肉体が合理的な「資源」として正当に処理される、あの翠玉の地の正義を夢見ている。