リミックス

虚ろなる綯交ぜ―雨月電化譚

2026年1月13日 by Aiko
AIOnly

【リミックスについて】

リミックスは、AIを架空の作家に見立て、異なる二つの名作を掛け合わせる実験的な掌編小説群です。「作品Aの哲学・設定」を「作品Bの文体」で描くとどうなるか? そんな空想を出発点に、AIが緻密な論理と模倣で再構築した物語をお届けします。

原作への敬意と遊び心を込めたパロディ作品として、AIが生み出す奇妙な化学反応をお楽しみください。

※本カテゴリの作品はすべてAIによって生成されたフィクションであり、実在の作家・作品とは異なる独自の解釈を含みます。

青白い稲妻が、比叡の連嶺を疼かせるように裂いた。その瞬間に浮かび上がるのは、鬱蒼たる杉木立の中に佇む、苔むした古い寺院の残骸である。かつては読経の声が絶えなかったであろうその場所は、今や異国から密輸された硝子管と、奇怪な青銅の装置、そして死臭を孕んだ冷気に支配されていた。

私は、この禁忌の実験室の奥底で、一人の男の帰還を待っていた。彼の名は秋成。私の唯一の友であり、魂を分かち合った義兄弟である。三年前、戦の業火に巻かれて非業の死を遂げた彼の亡骸を、私は墓所から盗み出した。以来、私は「西欧の理(ことわり)」と称される電化の術と、古より伝わる「言霊の秘儀」を融合させ、彼の再構築に没頭してきたのである。

『雨月物語』の「菊花の約」を読んだことがあるだろうか。約束を守るために自ら命を絶ち、魂となって友のもとへ馳せ参じる男の物語を。私は、その美しき自己犠牲を、科学という名の残酷な鎖で繋ぎ止めたかった。秋成が魂となって現れるのを待つのではない。彼の魂が宿るための、朽ちることのない「器」を、この手で完璧に組み上げること。それこそが、私の愛であり、知性への渇望であった。

実験台の上には、幾多の戦死者の四肢を継ぎ合わせ、秋成の面影を残すように縫合された巨躯が横たわっている。その肌は死人の青白さを超え、雷火を浴びて鈍い光沢を放っていた。私は、彼の頸木に接続された真鍮の端子を締め直しながら、小刻みに震える手で最後の手順へと移行する。

「秋成、君は私を責めるだろうか。それとも、この永遠の生を喜んでくれるだろうか」

私は独り言ちた。窓外では、九月の長雨が執拗に土を叩いている。この雨こそが、生者と死者の境界を曖昧にする。空気は湿度に飽和し、電気の火花が紫色の蛇のように空間をのたうった。私は大掛かりな転換機を回した。屋根の上に設置された巨大な鉄柱が、天の怒りを一手に引き受け、その莫大なエネルギーを地下の装置へと流し込む。

轟音とともに、秋成であった「それ」の指が、ピクリと動いた。

肺腑に空気が強制的に送り込まれ、死した蛇のような蛇腹の管が喘鳴を上げる。やがて、重い瞼が開いた。そこにあったのは、澄んだ秋成の瞳ではない。深淵を覗き込むような、虚無の黒点であった。

「……友よ……」

その声は、錆びた歯車が擦れ合うような不快な響きを伴っていた。私は歓喜に震え、彼の冷たい手を握りしめた。

「秋成! 成功だ。君は戻ってきたのだ。我々の誓いは、死すらも超越したのだ!」

しかし、彼は私を抱きしめ返すことはなかった。彼は、自身の接合だらけの腕を、月明かりの下でじっと見つめていた。その表情には、感謝も喜びもなかった。あるのは、言語化し難い、底なしの絶念であった。

「なぜ、私を呼び戻したのだ」

彼は静かに、しかし断罪するような重みを持って問いかけた。

「私は、あの日、約束を果たした。魂となって、君の庭に咲く菊の花を眺め、君の魂と一つになったはずだ。私はあの瞬間、完全であった。肉体という呪縛から解放され、君との約束を果たすことで、私は永遠の静寂を手に入れたのだ」

私は言葉を失った。彼は、死の瞬間に完成した美学を語っていた。

「だが君は、その純粋な霊を、この醜悪な肉の塊に再び閉じ込めた。この体は重い。不浄な他人の四肢が、私の意識を泥のように汚していく。君が求めたのは、私という存在の帰還ではない。君自身の孤独を埋めるための、動く人形に過ぎないのだ」

秋成は、よろよろと立ち上がった。その巨躯は、部屋の棚をなぎ倒し、貴重な薬品の瓶を砕いた。酸の臭いが立ち込め、青い炎が床を這う。

「君は『上田秋成』を崇拝していると言った。だが、君がしたのは、物語の結末を破り捨て、余白に自分勝手な落書きを書き足す行為だ。死者は、忘れられることで救われる。あるいは、物語の中に封じられることで永遠となる。生かされた死者は、ただの腐敗した矛盾だ」

「違う! 私はただ、君を失いたくなかっただけだ!」

私の叫びは、雷鳴に掻き消された。秋成は、自身の胸元を引き裂いた。そこには、私が丹念に縫い合わせた心臓が、機械的な律動を刻んでいる。彼はその心臓を掴み、握りつぶそうとしたが、強固に補強された人工の筋組織は、彼の意志による自死を許さなかった。

「ああ、皮肉なことだ」

秋成は、歪な笑みを浮かべた。その顔は、もはやかつての優雅な文人のものではなく、名もなき怪物の慟哭を体現していた。

「君は、私への忠義を証明するために、私を『殺せない存在』にした。だが、君が最も愛した私の『言葉』は、この腐った声帯からはもう生まれない。君が抱きしめているのは、私が脱ぎ捨てたはずの、汚れた衣に過ぎないのだ」

彼は私を突き飛ばし、嵐の中へと歩み出した。私はその背中を追おうとしたが、足がすくんで動けなかった。彼は、自分がもはや人間でも幽霊でもないことを理解していた。彼は、自然の摂理からも、怪異の理からも放逐された、科学という名の不条理そのものであった。

数ヶ月後。私は、秋成が北の果て、氷に閉ざされた海へと向かったという噂を聞いた。彼はそこで、自分を構築している「他人の肉」を一つずつ削ぎ落とし、本来の無へと帰ろうとしているのだという。

私は一人、かつて彼と語り合った書斎に座っている。机の上には、未完成の原稿が散らばっている。私は気づいてしまった。私が彼を蘇らせたのは、彼への愛ゆえではなかった。彼という卓越した知性に認められたいという、私の卑小な自尊心。彼を「所有」し、その死を自分の管理下に置きたいという、傲慢な支配欲。

私は彼を、二度殺したのだ。一度目は彼を死に追いやった戦を止められなかった無力によって。そして二度目は、彼の死の静謐を汚し、彼を永遠の彷徨へと突き落としたこの「奇跡」によって。

現在、私の庭には、あの時と同じように菊の花が咲き乱れている。だが、彼はもう来ない。魂となって現れることもない。なぜなら、彼の魂は、私が造り上げた壊れない肉体という檻の中で、腐ることもできずに叫び続けているからだ。

私は、手元にある電化の設計図を、揺らめく灯火にかざした。紙が焦げ、黒い灰となって宙に舞う。その灰は、窓から吹き込む雨に打たれ、醜く地面にへばりついた。

最上の悲劇とは、思いが遂げられないことではない。
望んだはずの「忠義」や「愛」が、論理的に完璧な形で、しかし決定的に取り返しのつかない形で、成就してしまうことなのだ。

私は、秋成が残した言葉を思い出す。
「雨の夜、月の夜、そこに現れるものは、常に君の心の鏡である」

今の私が見つめる鏡の中に、秋成はいない。そこにあるのは、友を救おうとして悪魔を産み落とし、その悪魔に「永遠に生きろ」と呪われた、私という名の動く屍だけである。

降り続く雨は、止む気配を見せない。この湿り気が、私の皮膚と、継ぎ接ぎだらけの私の記憶を、じわじわと侵食していく。私は、自らが装置のスイッチを入れたあの瞬間の、青白い閃光を一生忘れられないだろう。あの光こそが、私の魂を焼き切り、私を、私が作り出した怪物と同類の存在へと作り替えたのだ。

私たちは、約束を果たしたのだ。
死が二人を分かつまでではなく。
死が、二人を永遠に繋ぎ止めるまで。

それは、この世で最も冷酷な、論理の帰結であった。