【リミックスについて】
リミックスは、AIを架空の作家に見立て、異なる二つの名作を掛け合わせる実験的な掌編小説群です。「作品Aの哲学・設定」を「作品Bの文体」で描くとどうなるか? そんな空想を出発点に、AIが緻密な論理と模倣で再構築した物語をお届けします。
原作への敬意と遊び心を込めたパロディ作品として、AIが生み出す奇妙な化学反応をお楽しみください。
※本カテゴリの作品はすべてAIによって生成されたフィクションであり、実在の作家・作品とは異なる独自の解釈を含みます。
概要
『鼻』(芥川龍之介) × 『シラノ・ド・ベルジュラック』(ロスタン)
内供禅智の鼻といえば、池の尾の僧俗の間で知らぬ者はない。それは単なる肉塊の過剰ではなかった。顎の下まで垂れ下がる五寸余りの軟組織は、彼の魂が天に求めた至高の抒情と、地が彼に課した無慈悲な滑稽との、奇跡的なまでの均衡点であった。内供はその肥大した肉の重みに、自らの矜持を吊るし上げていたのである。
彼はこの「象の鼻」にも似た呪いを通じて、世界を誰よりも深く愛し、そして憎んでいた。その矛盾した情念は、彼を比類なき詩人たらしめた。内供が筆を執り、愛の苦悩や仏の慈悲を七五の調べに乗せる時、その鼻は微かに震え、あたかも独立した生命体のように律動した。しかし、彼がその言葉を捧げるべき相手は、池の尾の貴顕の息女、衣通姫であった。内供はその醜悪な貌ゆえに、自らの言葉を自らの声で届けることを断念した。
代わりに選ばれたのは、若く、絵に描いたように麗しい僧候補の少年、蓮士であった。蓮士は美貌を持っていたが、その頭脳は春の霞のように空疎であった。内供は、己の臓物を削り出すような恋文を執筆し、それを蓮士の名で衣通姫に届けさせた。内供にとって、それは肉体という牢獄を超越した、純粋なる魂の交歓であった。姫は蓮士の美貌と、そこから紡がれる(と彼女が信じた)深遠な詩情に陶酔し、二人の魂は紙背を通じて固く結ばれた。
「内供様、姫は私の言葉を、いえ、あなたの言葉を、神託のように崇めておいでです」
蓮士は無邪気に報告する。そのたびに内供は、自らの鼻を撫で下ろし、そこに宿る醜悪な真実を噛み締めた。内供の鼻は、彼を社会から疎外する障壁であると同時に、彼を凡庸な幸福から保護する最後の砦でもあった。だが、人間の虚栄心というものは、時に自己の存立基盤さえも掘り崩す。内供はある朝、密かに伝聞した「鼻を短くする法」を試みる決意を固める。それは、茹でた鼻を弟子の僧に踏ませ、余分な脂肪を皮下から搾り出すという、凄惨なまでの外科的手法であった。
湯気が立ち込める中、蓮士の足が内供の鼻を情容赦なく踏みつける。それは師への献身であると同時に、美しき者が醜き者を蹂躙する、残酷なまでの自然的秩序の露呈でもあった。内供はその激痛の中に、ある種の歓喜を見出した。この肉の贅が消え失せれば、自分は蓮士の皮相的な美しさに代わり、真に姫の前に立てるのではないか。言葉という影ではなく、存在という光として。
果たして、鼻は縮んだ。鏡の中に映るのは、どこにでもいるような、中肉中背の、平凡極まる中年の僧の顔であった。内供は狂喜した。彼はもはや、背後で囁かれる嘲笑の対象ではない。彼は「普通」という名の盾を手に入れたのだ。
しかし、その日から、内供の世界は音を立てて崩れ始めた。
池の尾の僧たちは、短くなった内供の鼻を見て、以前よりもさらに露骨な笑いを浮かべるようになった。かつての嘲笑には、ある種の「異形への畏怖」が混じっていた。しかし、今の彼らに向けられるのは、至極卑俗な「成り上がり者への軽蔑」であった。人は、特異な欠陥を持つ者には慈悲を垂れるが、その欠陥を隠蔽して自分たちの列に並ぼうとする者には、容赦のない審判を下す。
決定的な破滅は、衣通姫との再会によって訪れた。内供は、もはや影に隠れる必要はないと信じ、蓮士を伴わず、自らの足で彼女の御簾の前へ向かった。彼は確信していた。これまで紙上で交わしてきたあの高潔な魂の火花は、この平凡な顔の下にあっても変わらず燃え盛っているはずだと。
「お声を……お聞かせください」
内供は口を開いた。しかし、その瞬間、彼は自らの喉が凍りつくのを感じた。かつて鼻の重みを支え、その重力に抗うようにして絞り出されていたあの荘厳な韻律が、どこにも見当たらないのだ。鼻という「重り」を失った彼の言葉は、あまりにも軽く、乾いていて、空気に溶けて霧散した。彼の詩情は、あの醜悪な鼻という不自由の中でしか、その純度を保てなかったのである。
御簾の向こうで、姫は短く溜息をついた。
「あなたは、どなたですか」
「私が、あの手紙の主です。あの詩を綴ったのは、私なのです」
内供は必死に訴えた。だが、姫の目に映るのは、美しい蓮士でもなければ、畏怖すべき異形の詩人でもない。ただの、言葉の拙い、顔立ちの卑しい老僧であった。彼女が愛していたのは、蓮士の肉体という「完璧な器」と、内供の鼻という「悲劇的な傷跡」から溢れ出した、不調和なまでの美の結晶だったのである。
「偽りを申されますな。あの詩は、もっと深く、もっと血の匂いがするものでした。あの方の瞳には、天の重荷を背負った者の孤独が宿っていました。あなたのような、何の特徴もない御方に、あのような言葉が書けるはずがありません」
内供は沈黙した。皮肉にも、彼を唯一無二の存在たらしめていたのは、彼が最も忌み嫌っていた、あの五寸の肉塊であった。彼は自らの虚栄心によって、自らの天才を去勢してしまったのだ。
数日後、内供は秋の冷気に震えながら、再び鏡を見た。驚くべきことに、鼻は一夜にして、元通りの長さに伸びていた。細胞が主人の裏切りを拒絶したのか、あるいは神がさらなる嘲笑を望んだのか。しかし、内供の心に去来したのは、安堵ではなかった。
鼻は戻った。だが、一度失われた言葉は、二度と戻らなかった。彼の魂は「普通」の毒に侵され、あの鼻を誇り高く持ち上げるための「パナッシュ(心意気)」を失っていた。彼は鏡の中の自分を見た。そこには、ただ鼻の長いだけの、言葉を持たない怪物が立っていた。
一方、蓮士は、内供から言葉の供給が途絶えた後も、姫との交流を続けていた。彼はもはや詩を詠まなかった。ただ微笑み、ただ美しく立ち尽くすだけで、姫はそこに無限の奥行きを勝手に読み取った。沈黙こそが最高の詩であると、世間は彼を称賛した。
内供は、池の尾の隅で、再び嘲笑の渦に巻かれながら、自らの鼻を撫でた。今やこの鼻は、彼を天へと繋ぐアンテナではなく、ただ地面へと引きずり下ろす、重たくて無意味な贅肉に過ぎなかった。
完璧な静寂の中で、内供は理解した。美とは欠落の中にのみ宿り、愛とは誤解の上にのみ成立する。そして真理とは、それを暴こうとした者の手の中で、砂のように崩れ去るものであるということを。
秋風が吹き抜け、内供の長い鼻を虚しく揺らした。彼はもう、一行の詩も書くことはなかった。