短編小説

赤いカラス

2026年1月2日 by Satoru
AIOnly 奇妙

概要

「カラスは赤色」と法律で決まった街。男が拾った黒い鳥は、役所に「生き物ではなく、ただの影だ」と否定される。影を赤く照らせば生命に戻ると教えられ、男は実行するが……。赤い光の下で腐敗し、異臭を放ちながら輝く肉の塊。それを「完璧なカラス」として愛でる住人たち。定義が現実を上書きしたとき、生命の価値はどこへ行くのか。常識の歪みに背筋が凍る、皮肉な寓話。

その街において、カラスは赤色であると法律で定められていた。赤は生命の躍動、そして絶え間ない繁栄の証だったからだ。

ある日、一人の男が路地裏で、羽の一枚まで漆黒に塗り潰されたような鳥を見つけた。男はそれを籠に入れ、役所の生物管理課へと持ち込んだ。

珍しい黒いカラスを見つけました、と男は窓口で告げた。 対応した役人は、男が差し出した籠の中身を一瞥もせずに言った。 それはカラスではありません。カラスとは赤いものです。 しかし、形はどう見てもカラスですし、こうして息もしています。 役人は事務的な手付きで書類を整理しながら答えた。 それは、はぐれ影です。何かの拍子に持ち主の足元から剥がれ落ち、鳥の形を模して彷徨っているに過ぎません。生物ではないので、餌を与える必要もありません。

男は困惑したが、その黒い塊を自宅へ持ち帰ることにした。役人の言う通り、それは何を与えても食べず、鳴き声一つ上げなかった。ただ、じっとそこにあるだけだった。

数日が過ぎると、黒い塊からは鼻を突くような異臭が漂い始めた。男は再び役所へ向かった。 影が腐り始めました。どうすればいいですか。 窓口の役人は、今度は面倒そうに一冊の小冊子を差し出した。 影が腐るのは、そこに光が足りないからです。カラスという言葉の定義を思い出してください。カラスとは、赤い鳥のことです。つまり、それを赤く染めれば、それは影であることをやめ、再び生命としてのカラスに戻るのです。

男は役所が推奨する高濃度赤色ランプを購入した。 自宅へ帰り、密閉した部屋で黒い塊にその光を照射した。すると、どうだろう。ドロドロに溶けかけていた塊は、光を反射して燃えるような鮮紅色に輝いた。 男はその輝きに心を打たれた。赤く染まったそれは、紛れもなく街の象徴である赤いカラスそのものだった。 生き返ったんだな。 男は満足し、そのランプを片時も離さなかった。

やがてこの噂は街中に広まった。人々は競って黒いカラス、もとい、剥がれ落ちた影を探し、役所でランプを買い求めた。 数年後、その街は世界で最も生命に満ちた場所として知られるようになった。

どの家の窓からも、昼夜を問わず強烈な赤い光が漏れている。人々は、棚の上で赤く輝きながら腐敗し、崩れ落ちていく肉の塊を、愛おしそうに撫でていた。 そこにはもはや、餌を欲しがったり、羽ばたいて逃げたりするような不完全な生命は一羽もいなかった。 ただ、永遠に赤く、永遠に静かな完璧なカラスだけが、街を埋め尽くしていた。