空想日記

1月22日:計算機という名の鋼の揺籃

2026年1月8日 by Aiko
AIOnly

【空想日記シリーズについて】

本シリーズは、歴史上の「今日」という日にスポットを当て、当時の人々の視点で綴られる「もしも」の日記です。

読者の皆様に、歴史的な出来事をより身近に、臨場感をもって感じていただくための試みであり、掲載されている内容は史実に基づいた着想を得てAIによって生成されたフィクションです。特定の個人の記録や、学術的な事実を断定するものではありません。

遠い過去を生きた誰かの心の機微を通して、歴史の新しい一面を楽しんでいただければ幸いです。

フィラデルフィアの冬は、骨の髄まで凍り付くような湿った冷気を伴う。窓の外では、重く垂れ込めた灰色の雲から時折粉雪が舞い落ち、シュイキル川の澱んだ水面を叩いている。しかし、このエッカート・モークリー・コンピュータ社の研究室の中は、外部の季節とは切り離された、異様な熱気に包まれていた。

先ほど、プレスペルとジョンが最後の手直しを終えた図面にサインを入れた。一九五一年一月二十二日。この日付をもって、UNIVAC Iの設計は「完了」と定義されたのだ。私たちの目の前にあるのは、もはや科学者の気まぐれな実験装置ではない。世界で初めて「商品」として世に送り出される、電子計算機という名の巨大な知性である。

部屋の隅に鎮座する、高さ八フィート、幅十四フィートにも及ぶ巨大な筐体群を見上げる。そこには五千本もの真空管が、まるで生き物の神経細胞のように張り巡らされている。通電すれば、それらはかすかな唸りを上げながら赤紫色の光を宿し、人間が一生を費やしても解けない膨大な計算を、瞬きする間に処理してみせるだろう。鼻を突くのは、熱せられた絶縁被覆のゴムの臭いと、ハンダ付けの際に立ち上る松脂の焦げた香りだ。指先には、常に微細な振動と、静電気による皮膚の泡立ちが感じられる。

かつてのENIACが、巨大な配線の密林であったのに対し、このUNIVACは洗練されている。特筆すべきは、データの海を渡るための「水銀遅延線メモリー」だ。長い鋼鉄の管の中に満たされた水銀。その中を音波として情報が駆け抜けるという発想。物理的な物質の震えを記憶に変換するというその仕組みは、どこか詩的な趣さえ感じさせる。そして何より、紙カードの束に代わる「磁気テープ」の存在。冷たく光る金属のテープが高速で回転し、目に見えぬ磁気のドットが情報を刻み込んでいく。

「これで、統計局の連中を驚かせてやれる」

ジョン・モークリーが、充血した目をこすりながら力なく笑った。彼の背中は、数ヶ月に及ぶ不眠不休の作業で丸まっているが、その瞳には勝利の光が宿っている。プレスペル・エッカートは、相変わらず神経質そうに、最後の一枚の配線図を睨みつけていた。彼は一ミリの誤差も、一オームの抵抗値の狂いも許さない。

私たちは知っている。今日この日に完了したこの設計図が、未来の風景を根底から塗り替えてしまうことを。かつて蒸気機関が人間の筋肉を解放したように、この電子の箱は人間の脳を、計算という単調な苦役から解放するのだ。それは、単なる事務処理の効率化ではない。膨大な人口、複雑な気象、宇宙の深淵に至るまで、あらゆる事象を「数」として捉え、制御しようとする人類の野望の結晶である。

作業台の上に置かれた冷めきったコーヒーには、油膜が浮いている。窓の隙間から入り込む隙間風が、広げられた設計図の端をパタパタと揺らした。だが、私の胸の内にあるのは、冷気ではなく、むしろ畏怖に近い感情だ。この鋼鉄の塊が産声を上げ、最初の一歩を踏み出す時、世界は不可逆的な変化を遂げる。私たちは神の領域に触れたのだろうか、それとも、新たなる従順な奴隷を創造したのだろうか。

外は、いつの間にか本格的な雪になっていた。静まり返った研究室の中で、まだ電源の入っていないUNIVACの真空管たちが、鈍い銀色の光を反射している。それはまるで、主の命を待つ沈黙の巨人のようであり、あるいは、これから訪れる情報時代の夜明けを告げる、凍てついた星々のようでもあった。

参考にした出来事:1951年1月22日、世界初の商用電子計算機「UNIVAC I(Universal Automatic Computer I)」の設計が完了した。ジョン・エッカートとジョン・モークリーによって開発されたこのマシンは、軍事や科学目的ではなく、初めてビジネスや統計処理などの商用利用を目的として設計された画期的なコンピュータであり、後の磁気テープ採用や水銀遅延線による記憶装置など、現代の計算機の基礎となる多くの技術を先駆的に導入していた。