空想日記

2月16日:黄金の沈黙に触れる刻

2026年1月10日 by Aiko
AIOnly

【空想日記シリーズについて】

本シリーズは、歴史上の「今日」という日にスポットを当て、当時の人々の視点で綴られる「もしも」の日記です。

読者の皆様に、歴史的な出来事をより身近に、臨場感をもって感じていただくための試みであり、掲載されている内容は史実に基づいた着想を得てAIによって生成されたフィクションです。特定の個人の記録や、学術的な事実を断定するものではありません。

遠い過去を生きた誰かの心の機微を通して、歴史の新しい一面を楽しんでいただければ幸いです。

王家の谷を包み込む渇いた熱気は、地下へ続く石段を下りるごとに、ひんやりとした、それでいて肺にまとわりつくような重苦しい空気へと変わっていった。我々の背後で陽光が遮断され、カア、カアという烏の鳴き声が遠のいていく。今日、私は三千年の時を隔てた壁を、ついに突き崩すのだ。

前室に足を踏み入れると、先んじて運び込まれた石油ランプの炎が、壁を彩る守護神たちの輪郭をゆらゆらと揺らしていた。半年近く、我々はこの部屋にある膨大な副葬品を記録し、運び出してきた。だが、あの二体の黒い等身大の王像が槍を携えて守る「封印された扉」の向こう側には、まだ誰も踏み入っていない。

ロード・カーナヴォンが私の背後で、短く、しかし緊張の混じった呼吸をするのが聞こえた。考古局の長官官吏たち、高名なエジプト学者たち。彼らの視線が、私の手に握られた鉄の棒に突き刺さっている。私は、扉を覆う石膏の壁に最初の一撃を加えた。

乾いた音が地下室の静寂を破り、部屋の隅々にまで反響した。剥がれ落ちた石膏の破片が床に散り、背後の人々が固唾を呑む。数分後、私はようやく、一本の腕が通るほどの小さな穴を穿つことに成功した。穴の向こうからは、三千年以上も閉じ込められていた、停滞した大気の匂いが漏れ出してきた。それは微かに芳香樹脂の香りが混じった、言葉に尽くしがたい「古の埃」の匂いだった。

私は震える手で蝋燭に火を灯し、その穴へと差し入れた。

最初は何も見えなかった。炎が酸素の薄い空気の中で激しく瞬き、私の視界を遮る。だが、目が闇に慣れるにつれ、私の網膜に飛び込んできたのは、正気を疑うほどの輝きであった。そこにそびえ立っていたのは、壁そのものではなかった。部屋の空間を埋め尽くさんばかりの、圧倒的な規模の「黄金の壁」だった。

「何か見えるかね、カーター」

カーナヴォン卿の掠れた声が、私の耳元で囁かれた。数ヶ月前、前室を初めて覗いた時、私は「素晴らしいものが見えます」と答えた。だが、今、私の唇は震え、言葉を紡ぐことを拒んでいる。この黄金の輝き、巨大な厨子の表面に刻まれた精緻な象形文字の群れ、そしてその奥に眠るであろう、若き王の静寂。

私はさらに穴を広げた。石材を取り除き、中を覗き込むと、そこには部屋いっぱいに鎮座する巨大な金箔塗りの厨子があった。厨子と壁との隙間は、人がようやく一人通れるほどしかない。その隙間に身を滑り込ませた時、私は自分がもはや考古学者ではなく、神聖な領域を侵す不届きな旅人であるかのような錯覚に陥った。

黄金の壁に触れると、指先から冷たい感触が伝わってきた。三千年前、これを組み立てた職人たちが流した汗や、葬列に参列した人々のすすり泣きが、この金属の肌に染み込んでいるかのように思えた。厨子の扉には、今なおツタンカーメン王の封印が施されたままの紐が掛かっている。この扉を開ければ、そこには不滅の肉体と化した王が横たわっているのだ。

我々は無言だった。誰一人として、この静寂を不必要な声で汚そうとする者はいなかった。ここは死者の家であり、神々の領域だ。現代という騒がしい時代から切り離された、永遠という名の時間が支配する小宇宙。

今日、私はたしかに歴史の一部となった。しかし、それは栄光に満ちた発見というよりも、むしろ畏怖に近い感情だった。私は、数千年の眠りを妨げた罪深さを感じながらも、目の前のあまりにも美しい「死の装飾」から、一瞬たりとも目を離すことができなかった。王家の谷に夕闇が迫る頃、私は地上へと戻ったが、私の魂の一部は、あの黄金の壁の向こう側、ツタンカーメンの眠る暗闇の中に、永遠に取り残されてしまったかのような気がしてならない。

参考にした出来事:1923年2月16日、ハワード・カーターによるツタンカーメン王墓・埋葬室の公式開封。前年に発見されていた王墓の「前室」と「埋葬室(玄室)」を隔てる壁を崩し、中にある巨大な黄金の厨子を初めて確認した歴史的な瞬間。