空想日記

2月18日:瞬きの向こう、冷たき深淵の目撃者

2026年1月10日 by Aiko
AIOnly

【空想日記シリーズについて】

本シリーズは、歴史上の「今日」という日にスポットを当て、当時の人々の視点で綴られる「もしも」の日記です。

読者の皆様に、歴史的な出来事をより身近に、臨場感をもって感じていただくための試みであり、掲載されている内容は史実に基づいた着想を得てAIによって生成されたフィクションです。特定の個人の記録や、学術的な事実を断定するものではありません。

遠い過去を生きた誰かの心の機微を通して、歴史の新しい一面を楽しんでいただければ幸いです。

二月のフラッグスタッフの寒さは、骨の芯まで刺すような鋭さを持っている。標高二千メートルを超えるローウェル天文台の冬は、乾いた雪が風に舞い、凍てついた松の香りが大気に混じり合う。私の手は、寒さと連日の作業による疲労で、感覚を失いかけていた。しかし、ツァイス社製の点滅比較機、通称ブリンク・コンパレーターの接眼レンズを覗き込む私の眼だけは、異常なほどの熱を帯びていた。

午後四時。観測室の空気は淀み、現像液の僅かな臭いと、重厚な機械油の香りが漂っている。私は一月二十三日と一月二十九日に撮影された、ふたご座デルタ星付近の二枚の写真乾板を装置にセットした。作業は至って単調だ。レバーを操作すると、左右の乾板が交互に、一秒間に数回の速さで視野に現れる。もし恒星以外の天体があれば、背景の星々が静止している中で、その一点だけがぴょんぴょんと飛び跳ねるように動いて見えるはずだ。

これまで、幾千、幾万の光点を点検してきた。ある時は小惑星であり、ある時は乾板の傷や埃であった。その度に胸を高鳴らせ、そして失望に肩を落とした。パーシヴァル・ローウェル氏が予言した、海王星の彼方にあるはずの「惑星X」。彼はその存在を確信しながら、ついに見つけることなくこの世を去った。私が任されているのは、その亡霊を追う仕事だ。農場から出てきた、正規の高等教育すら受けていない若造に、太陽系の果てを見つける資格などあるのか。そんな自問自答を、点滅のクリック音が打ち消していく。

カチッ、カチッ、カチッ。

規則的な機械音の合間に、それは現れた。

心臓が大きく波打った。視界の端、デルタ星から西へわずかに離れた位置に、ごく小さな、だが確かな光の点が、二つの地点を行き来している。一月二十三日には確かにそこにあり、一月二十九日には三ミリほど移動している。私は呼吸を止め、瞬きを忘れてレンズを凝視した。埃ではない。傷でもない。それは宇宙の深淵を、数億キロという壮大な歩幅で横切っている何者かだった。

手が震えるのを抑えながら、確認用の一月二十一日撮影の乾板を取り出す。もしこれが本物の天体であれば、その移動経路上に三つ目の点が見つかるはずだ。三枚目の乾板をセットし、座標を合わせる。レンズを覗き込んだ瞬間、私は自分の血が逆流するような感覚に襲われた。あった。完璧な軌跡を描く位置に、その幽かな光点は静かに佇んでいた。

私は椅子から立ち上がり、誰もいない観測室で立ち尽くした。窓の外には、夕闇に沈みゆくアリゾナの荒野が広がっている。太陽の光が届かぬほど遠く、氷に閉ざされた孤独な世界。数億年の間、誰に見守られることもなく、ただ暗闇の中を彷徨い続けていた新しい隣人が、今、私の網膜を通して人類の歴史にその姿を刻んだのだ。

「先生、私は見つけました」

心の中で、今は亡きローウェル氏に語りかけた。私はしばらくの間、この発見を誰にも告げず、自分一人だけの秘密にしておくことに決めた。所長のスライファー博士に報告する前に、もう一度だけ、あの小さな、震えるような光点を確かめたかった。私は再び椅子に座り、接眼レンズに目を押し当てた。

宇宙はあまりにも広く、そして静かだ。私はその広大な虚無の片隅で、人類の知の境界線が一歩、外側へと押し広げられた音を聞いたような気がした。今日という日は、私の人生にとって、そして太陽系を仰ぎ見るすべての人々にとって、永遠に忘れえぬ一日となるだろう。夜が更けるにつれ、フラッグスタッフの空には無数の星々が瞬き始めたが、私の目には、あの冷たく小さな一点こそが、どの恒星よりも眩しく輝いて見えていた。

参考にした出来事:1930年2月18日、アメリカの天文学者クライド・トンボーが、ローウェル天文台にて冥王星(当時は第9惑星として扱われた)を発見。パーシヴァル・ローウェルが提唱した「惑星X」の探索プロジェクトにおいて、1月に撮影された乾板を点滅比較機で精査中に発見に至った。