【空想日記シリーズについて】
本シリーズは、歴史上の「今日」という日にスポットを当て、当時の人々の視点で綴られる「もしも」の日記です。
読者の皆様に、歴史的な出来事をより身近に、臨場感をもって感じていただくための試みであり、掲載されている内容は史実に基づいた着想を得てAIによって生成されたフィクションです。特定の個人の記録や、学術的な事実を断定するものではありません。
遠い過去を生きた誰かの心の機微を通して、歴史の新しい一面を楽しんでいただければ幸いです。
ニュージャージーの冬の朝は、肺の奥まで凍てつくような冷気とともに始まる。ホームデルの広大な草原に佇む私の「メリーゴーラウンド」――木製のフレームと真鍮のワイヤー、そしてフォード・モデルTの車輪を組み合わせて造り上げたこの巨大な回転アンテナは、今朝も霜に覆われ、朝日を浴びて鈍く光っている。ベル電話研究所から与えられた私の任務は、大西洋横断短波通信を乱すノイズの正体を突き止めることだ。しかし、この数ヶ月、私は当初の目的を遥かに超えた、深淵な謎の淵に立っている。
真空管の予熱が整い、記録計のペンが規則正しく震え始める。インクの匂いと、微かに漂うオゾンの香り。ヘッドホンを耳に当てると、真空管特有のサーという熱雑音が鼓膜を叩く。その中に、確かにそれは混じっていた。雷鳴のような鋭い破裂音ではない。また、太陽の活動に伴う周期的な干渉とも違う。それは、草原を撫でる風の音にも似た、一定で、しかし抗いようのない力強さを持った、極めて微弱な「さざなみ」であった。
去年の暮れから、私はこの不思議なヒス・ノイズの到来方向を執拗に追い続けてきた。最初は太陽の影響だと疑った。だが、データはそれを冷酷に否定した。このノイズのピークは、毎日、昨日よりも約四分ずつ早く訪れるのだ。二十四時間ではなく、二十三時間五十六分。それは、地球が遠い星々に対して自転する周期、すなわち恒星時に完全に一致している。この信号の源は、地球上にも、太陽系内にもない。それは我々の銀河系、その遥か彼方から届いているのだ。
今朝の記録紙を凝視する。ペン先が描く細かな波形は、射手座の方向、すなわち銀河系の中心部をアンテナが捉えるたびに、確かな隆起を見せている。数万光年の旅を経て、光ですら届かぬ暗黒の星間物質を潜り抜け、この粗末な真鍮の線にたどり着いた電波。それは、これまで人類が視覚という限られた窓からのみ眺めてきた宇宙が、実は目に見えない巨大な合唱に満ち溢れていることを告げていた。
同僚たちは、この発見を通信工学上の些末な成果として片付けるかもしれない。通話品質を向上させるための、排除すべき雑音の一つとして。しかし、私にはわかる。今、この静かな研究室で、私は人類史上初めて「星の声」を聴いているのだ。それは言葉を持たない、宇宙の鼓動そのものである。何億年もの間、誰も耳を傾けることのなかった沈黙の旋律が、私の指先を通じて記録紙に刻まれていく。
窓の外では、まだ春を遠く感じる枯れ草が風に揺れている。だが、私の心はすでにこの寒冷な大地を離れ、銀河の渦巻く中心、あの星々が密集し、荒れ狂うエネルギーを放射している未知の領域へと飛翔している。これまでの天文学は、鏡を磨き、光を集めることに腐心してきた。しかし、これからは違う。私たちは耳を澄ませるのだ。闇に隠された宇宙の真の姿を、音として描き出す時代が始まったのである。
ペンの動きが止まった。インクが切れたのだ。私は手袋を外し、凍えた指をこすり合わせた。冷たい静寂が部屋を支配する。だが、私の耳の奥では、今もあの銀河のざわめきが鳴り止まない。世界は、そして宇宙は、一時間前までとは決定的に違って見える。私たちは孤独ではなかった。この広大な闇は、決して空虚ではなかったのだ。
参考にした出来事
1933年2月27日、ベル電話研究所の技術者カール・ジャンスキーが、自作の回転アンテナを用いて銀河系中心方向から飛来する電波を発見した。これは後に「宇宙雑音(Cosmic Noise)」と呼ばれ、可視光以外の波長で宇宙を観測する「電波天文学」という新たな学問分野の幕開けとなった。ジャンスキーは当初、短波通信の障害となる雑音を調査していたが、その周期が太陽時ではなく恒星時に一致することから、光源が太陽系外(射手座付近の銀河中心)にあることを確信した。