空想日記

3月18日:無限の深淵に刻む足跡

2026年1月13日 by Aiko
AIOnly

【空想日記シリーズについて】

本シリーズは、歴史上の「今日」という日にスポットを当て、当時の人々の視点で綴られる「もしも」の日記です。

読者の皆様に、歴史的な出来事をより身近に、臨場感をもって感じていただくための試みであり、掲載されている内容は史実に基づいた着想を得てAIによって生成されたフィクションです。特定の個人の記録や、学術的な事実を断定するものではありません。

遠い過去を生きた誰かの心の機微を通して、歴史の新しい一面を楽しんでいただければ幸いです。

バイコヌールの冷え切った大地を蹴り立ててから、どれほどの時間が経過しただろうか。船室内に充満する機械油とゴム、そして再循環される乾燥した空気の匂いは、すでに私の鼻には馴染みきった生活の臭いへと変わっている。パベル・ベリャーエフの静かな呼吸音がヘッドセット越しに聞こえる。彼の冷静さは、これから私が踏み出そうとしている一歩がいかに正気を逸したものであるかを、かえって際立たせていた。

ヴォスホート二号の気密室「ヴォルガ」へと這い進む。狭隘な空間は、命を守る最後の殻だ。私の皮膚と宇宙を隔てているのは、ベルクート宇宙服の積層された布地とゴム、そして薄い金属の膜に過ぎない。気密室の空気が排出され、気圧計の針がゼロを指したその瞬間、私の体は文字通り、この世界から切り離された。

ハッチが開いた。

網膜を焼き切らんばかりの、暴力的なまでの光が飛び込んできた。それは地上で見る太陽の光とは異質のものだ。大気という濾過装置を通さない、純粋な放射の奔流。私は手摺りを掴み、ゆっくりと、震える足を暗黒へと踏み出した。

そこにあったのは、言葉を絶するほどの沈黙だった。

いや、沈黙という表現すら生温い。音という概念そのものが存在しない、絶対的な虚無だ。聞こえるのは、自分の肺が酸素を吸い込み、二酸化炭素を吐き出す湿った音と、宇宙服の生命維持装置が刻む微かな振動、そして自らの心臓が鼓動する早鐘のような響きだけだ。私は五メートルほどの命綱を頼りに、宇宙という名の深淵へ身を投げ出した。

眼下には、信じがたいほど鮮やかな色彩の球体が横たわっていた。黒海が深いサファイアのように輝き、コーカサスの山並みが、まるで誰かが不意に落とした白い絹糸のように繊細な雪を湛えている。地球の輪郭は鋭い青の光を放ち、漆黒の宇宙との境界を、残酷なまでに美しく描き出していた。私はそのあまりの広大さに、自分が塵よりも小さな、定義不能なほど微細な存在であることを痛感した。

だが、感動に浸る時間は長くは続かなかった。

宇宙服の内圧が、真空との差によって膨張し始めたのだ。グローブは強張って指の自由を奪い、ブーツの中で足が浮き、私は身動きの取れない風船のようになってしまった。ハッチへ戻ろうにも、膨れ上がった服が邪魔をして、狭い入り口を通り抜けることができない。死の予感が、冷たい汗となって背中を伝った。

地上との交信を待つ余裕はなかった。私は独断で、宇宙服の弁を開き、酸素を外部へ放出させた。気圧病の危険、意識を失う恐怖。だが、このまま宇宙の孤児になるよりは、命を賭した博打を選ぶしかなかった。服が萎み、ようやく手足に感覚が戻る。私は文字通り、這いつくばるようにして、頭から気密室へと滑り込んだ。肺が激しく波打ち、全身の毛細血管が悲鳴を上げている。

パベルの顔が見えた時、私は自分がまだ人間たちの住む世界に属していることを悟った。宇宙服を脱ぎ捨てた私の体は、三キログラム以上もの水分を失い、文字通り汗の海に浸かっていた。

今日、私は神の領域を覗き見た。そこは美しく、そしてどこまでも冷酷な場所だった。人類が初めて大地を離れ、海を渡り、空を飛んだように、私たちは今日、この無限の空虚に最初の一歩を刻んだのだ。記録には「順調であった」と記されるだろう。だが、あの暗黒の中で私が見た、静止した地球の輝きと、死と隣り合わせの孤独は、私の魂の奥深くに消えない烙印として残り続けるに違いない。

参考にした出来事:1965年3月18日、ソビエト連邦の宇宙船ヴォスホート2号に搭乗したアレクセイ・レオーノフ少佐が、約12分間にわたる人類初の宇宙遊泳(船外活動)を実施した。途中、宇宙服が膨張して船内に戻れなくなるという命の危険に直面したが、自ら服の圧力を下げるという緊急処置を講じて生還を果たした。