空想日記

3月2日:白き怪鳥、空を拓く

2026年1月11日 by Aiko
AIOnly

【空想日記シリーズについて】

本シリーズは、歴史上の「今日」という日にスポットを当て、当時の人々の視点で綴られる「もしも」の日記です。

読者の皆様に、歴史的な出来事をより身近に、臨場感をもって感じていただくための試みであり、掲載されている内容は史実に基づいた着想を得てAIによって生成されたフィクションです。特定の個人の記録や、学術的な事実を断定するものではありません。

遠い過去を生きた誰かの心の機微を通して、歴史の新しい一面を楽しんでいただければ幸いです。

トゥールーズの朝は、刺すような冷気とともに明けた。ブラニャック飛行場の滑走路を包み込む霧が、ようやく春の訪れを予感させる薄陽に溶け始めていたが、私の指先は寒さとは別の理由で硬くこわばっていた。格納庫の重い扉が開かれ、その「機体」が姿を現したとき、周囲に詰めかけた技師たちの間から、祈りにも似た短い溜息が漏れた。

コンコルド001。これまでに人類が造り上げたどんな飛行機とも似ていない、あまりにも優美で、同時に攻撃的なまでに鋭利なシルエット。純白に塗られたその細長い胴体は、朝の光を反射して冷たく輝いている。後方に鋭く伸びるオージェ・デルタ翼は、地上にありながら既に音速を超えて飛翔しているかのような動的な均衡を保っていた。

私は、主脚のボルト一本、外板のわずかな歪みさえ見逃すまいと、計器板の最終確認を行う地上クルーたちの背中を追った。フランスのシュド・アヴィアシオンとイギリスのBAC。かつて戦火を交えた二つの国が、音速の壁を打ち破るという壮大な野望のために手を取り合った結晶が、今、私の目の前で目を覚まそうとしている。

午後三時を過ぎた頃、ついに四基のロールス・ロイス・スネクマ・オリンパスエンジンに火が入った。腹の底を揺さぶるような、重厚で野太い咆哮が周囲の空気を震わせる。ケロシンの焼ける鋭い匂いが鼻を突き、排気の熱気が陽炎となって滑走路の先を歪ませた。機首の「ドループ・ノーズ」がゆっくりと、まるで獲物を狙う猛禽の嘴のように下方へ折れ曲がる。操縦席に座るアンドレ・テュルカの、冷静沈着な横顔が見えた。

離陸の瞬間、時間は引き延ばされた。滑走を始めた機体は、そのあまりにも巨大な推力に耐えかねるように、一瞬、滑走路を掴む力を強めたかに見えた。しかし次の瞬間、機首が空を仰ぎ、白き怪鳥は重力という呪縛を軽やかに断ち切った。アフターバーナーの炎が、曇り始めた空を鮮やかに切り裂く。地上の私たちは、帽子を投げ出し、抱き合い、あるいは言葉もなくその軌跡を見送った。耳を聾する轟音の中、私の頬を伝ったのは、この十年近くに及ぶ苦闘と、数え切れないほどの計算、そして「不可能だ」と切り捨ててきた世評への、静かな回答だった。

飛行時間はわずか二十八分に過ぎなかった。しかし、その短い旋回の間、私たちは確かに未来を目撃した。音速という目に見えない壁の向こう側にある、新しい時代の扉が、トゥールーズの空で音を立てて開いたのだ。着陸し、再び滑走路に戻ってきた機体は、先ほどまでの荒々しさが嘘のように静謐で、気高くさえあった。テュルカが機を降り、フランス国旗を掲げたとき、私は確信した。明日からの世界は、昨日までのそれとは決定的に異なるものになるのだと。

今夜、トゥールーズの街は祝杯のワインで溢れるだろう。だが、私の耳の奥では、まだあのオリンパスエンジンの凄まじい咆哮が止まない。大西洋をわずか数時間で飛び越え、太陽を追い越して飛ぶ。そんな狂気じみた夢が、今、現実のものとして動き始めた。冷たい夜気に包まれながら格納庫に戻る怪鳥の背中を見つめ、私はただ、その白亜の翼を慈しむように撫でた。

参考にした出来事:1969年3月2日、超音速旅客機コンコルド(試作001号機)が、フランスのトゥールーズにおいて初のテスト飛行に成功。機長はアンドレ・テュルカが務めた。