空想日記

3月29日:渇いた大地と沈黙の将官

2026年1月13日 by Aiko
AIOnly

【空想日記シリーズについて】

本シリーズは、歴史上の「今日」という日にスポットを当て、当時の人々の視点で綴られる「もしも」の日記です。

読者の皆様に、歴史的な出来事をより身近に、臨場感をもって感じていただくための試みであり、掲載されている内容は史実に基づいた着想を得てAIによって生成されたフィクションです。特定の個人の記録や、学術的な事実を断定するものではありません。

遠い過去を生きた誰かの心の機微を通して、歴史の新しい一面を楽しんでいただければ幸いです。

喉の奥まで、黄色い砂が張り付いている。
もう何日、雨の匂いを嗅いでいないだろうか。空を見上げても、そこにあるのはただ、白く濁った陽光と、忌々しいほどに乾ききった陝西の空だけだ。足元の土は亀裂が走り、まるで断末魔を上げる獣の皮膚のように硬く、無残に裂けている。我々西楊村の男たちに課せられたのは、この死んだ大地に風穴を開け、命の水を汲み上げること。ただそれだけだった。

朝から、驪山の麓にある柿の木の下で、ひたすらに穴を掘り続けている。志発が先頭に立って鍬を振るい、我々はその背後で、重い土を運び出す。掘れども掘れども、出てくるのは赤錆びたような色の硬い土塊ばかりで、湿り気の一つも感じられない。手首には痺れるような振動が蓄積し、指の皮は何度も剥けては、土の粉が傷口を埋めていく。

「運の悪い場所を選んだかもしれん」
誰かがそう呟いたが、志発は答えなかった。彼の鍬が、ひときわ高く振り上げられた。そして、鈍い音が響いた。

カツン、という、石に当たったのとは違う、どこか空洞を孕んだような、乾いた音がした。

志発の手が止まった。最初は、ただの古い瓦の破片かと思った。このあたりは、始皇帝の陵墓に近い。昔から、奇妙なレンガや瓦の欠片が土に混じることは珍しくなかった。だが、掘り進めるにつれて、その「破片」は尋常ではない大きさを露わにし始めた。

「待て、何かある」

志発の声に、我々は一斉に穴の底を覗き込んだ。彼が丁寧に、指先で土を払いのけていく。現れたのは、赤茶けた陶器の質感を持った、滑らかな曲線だった。それは、人の肩のようにも見えた。心臓の鼓動が早まる。さらに土を除けると、そこには首の付け根が現れ、そして、ついに「それ」が顔を出した。

息を呑んだ。土の中から現れたのは、一体の男の頭部だった。

それは、私たちが知る「人形」などという生易しいものではなかった。髪の毛の一筋一筋、きつく結ばれた髻、そして何よりも、こちらを射抜くような鋭い眼光。二千年の時を経て、なお、その眼差しには意志が宿っているように見えた。長い間、暗い土の中で、この男は何を監視していたのか。その唇は今にも動き出し、古代の言葉で我々を叱りつけるのではないかという錯覚に陥る。

「……怪物だ」
誰かが震える声で言った。志発は黙ったまま、その陶製の顔を見つめていた。その顔は、私たちと同じように、この土地の土で焼かれ、この土地の風を吸い込んで作られたはずなのに、言葉では言い表せない威厳を放っている。

さらに周囲を掘り下げると、胴体の一部や、青銅製の矢尻が次々と姿を現した。それは井戸ではなく、地下に隠された軍隊の入り口だったのだ。鎧の鱗状の重なり、握りしめられた拳の節々。土にまみれたその姿は、まるで戦の合間に微睡んでいた兵士が、不意に起こされたかのような生々しさがあった。

太陽が西に傾き始め、穴の底に深い影が落ちる。掘り出された陶の将官は、夕闇の中でいっそうその存在感を増していった。我々は水を探していたはずだった。しかし、見つけたのは命を繋ぐ水ではなく、永遠に時を止めた巨大な死の軍勢の断片だったのだ。

手足の疲れは、いつの間にか消えていた。ただ、肌にまとわりつく乾燥した土の感触と、あの陶人の冷徹な瞳が、瞼の裏に焼き付いて離れない。この静かな村の地下に、どれほどの数の兵士が眠っているのだろうか。私たちは、触れてはならない神域の扉を叩いてしまったのではないか。

家路につく道すがら、振り返ると驪山のシルエットが、巨大な墓標のように、暗い空にそびえ立っていた。明日、このことを役場に伝えなければならない。だが、あの地下で目覚めた兵士の眼を思い出すたび、私は形容しがたい畏怖に震える。あの日、あの場所で、歴史が再び呼吸を始めたのだ。

参考にした出来事:1974年3月29日、中国・陝西省臨潼県西楊村で、干ばつ対策の井戸を掘っていた農民(楊志発ら)が偶然にも「兵馬俑」を発見した出来事。