空想日記

4月1日:果実の種が蒔かれたガレージ

2026年1月13日 by Aiko
AIOnly

【空想日記シリーズについて】

本シリーズは、歴史上の「今日」という日にスポットを当て、当時の人々の視点で綴られる「もしも」の日記です。

読者の皆様に、歴史的な出来事をより身近に、臨場感をもって感じていただくための試みであり、掲載されている内容は史実に基づいた着想を得てAIによって生成されたフィクションです。特定の個人の記録や、学術的な事実を断定するものではありません。

遠い過去を生きた誰かの心の機微を通して、歴史の新しい一面を楽しんでいただければ幸いです。

ロスアルトスの冷ややかな朝の空気には、まだ冬の名残があった。カリフォルニアの春は名ばかりで、早朝のクリスト・ドライブを吹き抜ける風は、薄手のジャケットを容易に通り抜けて肌を刺す。私は、ジョブズ家のガレージの前に立ち、吐き出す息が白く濁るのを眺めていた。住宅街の静寂を破るのは、どこか遠くで鳴く鳥の声と、ガレージの奥から漏れ聞こえる低い話し声だけだ。

扉を開けると、鼻を突くのは焼けた松脂の匂い――半田付けの際に出る、あの独特で鼻腔にこびりつくような芳香だった。そして、安物のコーヒーの香りと、数日間片付けられていないことが明白な埃っぽさが混じり合っている。照明は薄暗く、作業台の上だけが複数のデスクランプに照らされて、異様な光を放っていた。

そこには、およそ「革命」という言葉からは程遠い光景が広がっていた。乱雑に置かれたコンデンサ、抵抗器、絡まり合ったリード線。それらガラクタの山に囲まれて、スティーブン・ウォズニアックが猫背をさらに丸め、拡大鏡を覗き込んでいた。彼の太い指先は、繊細な外科医のように半田ごてを操り、プリント基板の上に銀色の小さな粒を落としていく。彼は時折、独り言を呟きながら、自らが作り上げた回路図という名の迷宮に没頭していた。彼の瞳には、外の世界の喧騒など一切映っていない。彼にとっての宇宙は、この数インチ四方のベークライト板の上に集約されていた。

対照的に、スティーブン・ジョブズは狭いガレージの中を獣のように歩き回っていた。彼の足音は、コンクリートの床に落ちた金属片を踏みつけるたびに乾いた音を立てる。ジョブズの目は、獲物を狙う鷹のように鋭く、落ち着きがない。彼はまだ二十一歳になったばかりだというのに、その佇まいには周囲を威圧するような、あるいは磁石のように惹きつけるような、正体不明の熱量が渦巻いていた。

「準備はいいか」

ジョブズの声が、ガレージの低い天井に反響した。その声には、単なるビジネスの開始を告げる以上の、ある種の狂気じみた確信がこもっていた。彼は、作業台の隅に置かれた、三枚のタイプされた紙を指差した。それは、私たちが数日前から議論し、練り上げてきたパートナーシップ契約書だった。

私たちは、木製の古びたテーブルを囲んで座った。テーブルの表面には、かつて何かの作業でついたと思われる深い傷跡が刻まれている。私は持参した万年筆を取り出し、キャップを外した。インクの匂いがわずかに漂う。

最年長のロナルド・ウェインが、慎重な手つきで書類を確認する。彼は、この若き二人の天才の間で、唯一の「大人」としての役割を期待されていた。ロンの手はわずかに震えていたように見えた。彼はこの事業が孕むリスクを誰よりも理解していた。失敗すれば、彼がこれまでの人生で築き上げてきた財産が、若者たちの無謀な夢とともに霧散してしまうのだ。しかし、ジョブズの視線が彼を射抜き、逃げ道を塞いでいた。

まずジョブズが署名した。流れるような、しかし力のこもった筆致だった。次にウォズが、回路図を描くときと同じような無造作さで名前を書き込んだ。最後に、ロンが重い溜息とともに、自らの名前を連ねた。

一九七六年四月一日。

世間がエイプリルフールの悪ふざけに興じているこの日に、私たちは「アップルコンピュータ」という、あまりにも場違いな名前の会社を設立した。果物屋でもなければ、レコード会社でもない。計算機を作る会社だ。

「これで、俺たちは歴史を変える」

ジョブズが呟いた。その言葉は、決して傲慢な予言ではなく、彼にとっては既に起こった事実を追認するかのような響きを持っていた。彼は、ウォズが組み上げた剥き出しの基板を愛おしそうに眺めた。そこにはケースも、キーボードも、ディスプレイもない。ただの電子部品の塊だ。しかし、ジョブズの瞳には、それが一般家庭のリビングルームに鎮座し、人々の生活を一変させている光景が見えているようだった。

ガレージの片隅では、古いラジオからキャロル・キングの歌声が微かに流れていた。窓の外では、ようやく昇ってきた朝日が、カリフォルニアの果樹園の生き残りである一本の木を照らしていた。

私は、手元に残された契約書の写しを見つめた。インクはまだ乾ききっておらず、光を反射して黒々と輝いている。この紙切れ一枚が、どれほどの重みを持つことになるのか、その時の私には知る由もなかった。ただ、半田の煙が目に染みた。そして、ジョブズのあの燃えるような視線が、私の背中に冷たい戦慄を走らせ続けていた。

私たちは、ガレージの扉を開けた。外の空気は少しだけ温かくなっていた。遠くで、始動したばかりの車のエンジン音が聞こえる。新しい一日が、そして新しい時代が、音もなく始まろうとしていた。

参考にした出来事
1976年4月1日、スティーブ・ジョブズ、スティーブ・ウォズニアック、ロナルド・ウェインの3人によって、アメリカ合衆国カリフォルニア州にて「アップルコンピュータ(Apple Computer Company)」が設立されました。この日は、彼らが共同経営のパートナーシップ契約に署名した日であり、パーソナルコンピュータ革命の象徴的な出発点として歴史に刻まれています。