【空想日記シリーズについて】
本シリーズは、歴史上の「今日」という日にスポットを当て、当時の人々の視点で綴られる「もしも」の日記です。
読者の皆様に、歴史的な出来事をより身近に、臨場感をもって感じていただくための試みであり、掲載されている内容は史実に基づいた着想を得てAIによって生成されたフィクションです。特定の個人の記録や、学術的な事実を断定するものではありません。
遠い過去を生きた誰かの心の機微を通して、歴史の新しい一面を楽しんでいただければ幸いです。
アルバカーキの乾いた風が、安アパートの薄い窓枠をがたがたと鳴らしている。朝の光は容赦なく、机の上に散乱したパンチカードの断片や、何日も放置された空のコーヒーカップを照らし出していた。目を向ければ、視界の端には常にあのMITS社の無骨な社屋がある。砂漠の真ん中に放り出されたようなこの街で、僕たちは今日、ひとつの名前を自分たちの運命に刻みつけることにした。
マイクロソフト。
ビルが提案したその名前を最初に聞いたとき、不思議なほどすんなりと胸に落ちたのを覚えている。マイクロコンピュータとソフトウェア。当時、誰もが重厚なハードウェアこそがコンピュータの本質だと信じて疑わなかった時代に、僕たちは目に見えない論理の糸、つまりソフトウェアこそが世界を動かす中枢になると確信していた。今日、一九七五年四月四日は、その「無形のもの」を売るための会社が正式に産声を上げた日として、僕の日記に記されることになる。
隣の部屋では、ビルが相変わらずテレタイプのキーを叩く猛烈な音を響かせている。彼は十八時間も眠っていないはずだが、その瞳には疲労を凌駕する熱情が宿っている。彼と僕は、ハーバードの寮で深夜まで語り明かしたあの頃から、何も変わっていないのかもしれない。ただ、今は夢想するだけでなく、それを現実の契約書とコードへと変換する術を手に入れた。
指先に残るハンダの匂いと、過熱した基板が放つ独特の焦げたような香りが鼻を突く。アルテア八八〇〇。あの青い鉄の箱に、僕たちが作り上げたBASICという魂を吹き込んだとき、機械は単なる計算機から、人間と対話する知的なパートナーへと変貌した。あの瞬間の、背筋が凍るような感動を忘れることはできない。
外に出れば、サンディア山脈が夕刻の紫色の影を落とし始めている。この荒涼としたニューメキシコの地で、世界を変えるような大事業が始まると信じている人間が、僕たちの他に何人いるだろうか。通り過ぎる人々は、僕たちをただの世捨て人のような若者だと思っているに違いない。しかし、僕には見える。数年後、あるいは十年後、あらゆる家庭の机の上に、僕たちの作ったソフトウェアで駆動するコンピュータが置かれている未来が。
それはもはや狂気にも似た予感だが、確信でもある。僕たちは今日、ただの会社を作ったのではない。論理と数学によって構築される、新しい産業の礎石を置いたのだ。
ビルの叩くキーボードの音が不意に止まった。静寂が部屋を満たす。彼は椅子を回し、こちらを見て、少年のような不敵な笑みを浮かべた。言葉は必要なかった。僕たちはただ、始まったのだということを理解していた。
この小さな、埃っぽいオフィスから、重力を持たない帝国が広がっていく。その第一歩として、この日付を深く心に刻んでおこうと思う。
参考にした出来事:1975年4月4日、ビル・ゲイツとポール・アレンによってマイクロソフト(設立当初の名称はMicro-Soft)が設立された。当時、世界初の個人向けマイクロコンピュータ「Altair 8800」向けのBASICインタプリタを開発・販売するために、ニューメキシコ州アルバカーキで創業された。