【空想日記シリーズについて】
本シリーズは、歴史上の「今日」という日にスポットを当て、当時の人々の視点で綴られる「もしも」の日記です。
読者の皆様に、歴史的な出来事をより身近に、臨場感をもって感じていただくための試みであり、掲載されている内容は史実に基づいた着想を得てAIによって生成されたフィクションです。特定の個人の記録や、学術的な事実を断定するものではありません。
遠い過去を生きた誰かの心の機微を通して、歴史の新しい一面を楽しんでいただければ幸いです。
今朝も、オックスフォードの空は、いかにも真夏らしい、容赦のない青さを湛えていた。太陽は既にその威力を示し、石畳の道からは熱気が立ち上る。こんな日は、室内でひたすら難解な数式と格闘するよりも、涼やかな水辺へと誘われるのが人の常であろう。実際、私はかねてより、リデル家の三姉妹――ロリーナ、アリス、そしてイーディスを連れて、テムズ川、この地ではアイシス川と呼ばれるその流れへと小舟を出す約束をしていたのだ。
クライスト・チャーチの回廊を抜け、暑さに辟易しながらも、足取りは自然と軽やかになった。子供たちの、特にアリスの、あの透き通るような瞳に宿る期待を思うと、私の心はいつだって浮き立つ。彼女は、物語をせがむのが常だ。私が即興で紡ぎ出す、取るに足らないお話であっても、彼女はいつも目を輝かせ、真剣な表情で耳を傾けてくれる。
リデル家を訪ねると、三姉妹は既に準備万端、皆、夏らしい淡い色のドレスを身に纏い、私の到着を待ちかねていた。ダックワース牧師も同行し、私たちは連れ立って桟橋へと向かった。
小舟に乗り込み、私が艫に座り、ダックワース牧師が舳に座って櫂を取る。子供たちは中央で、日傘を傾けながら、きらめく水面を覗き込んだり、岸辺の緑を指差したりして、さっそく楽しげな声をあげ始めた。太陽は真上から降り注ぐが、水面を渡る風は心地よく、いくらか暑さを和らげてくれる。櫂が水を切るたびに、ちゃぷ、と規則正しい音が響き、それはまるで、この日のための静かな音楽のようだった。
しばらく川を遡り、私たちは日陰が濃く、岸辺がなだらかな場所に小舟を寄せた。そこは柳の枝が水面にたわわに垂れ、陽光を遮ってくれる、絶好の休息場所であった。持参したサンドイッチやレモネードを広げ、簡単なピクニックを楽しむ。子供たちの笑い声が、穏やかな川の流れに溶け込んでいく。
食事が終わり、皆がくつろぎ始めた頃、予期していた通りの声が聞こえてきた。一番年下のイーディス、そしてロリーナの後に続いて、アリスが澄んだ声で私に訴えかける。「ねえ、チャールズ、お話をして! 今すぐ、お話をお願い!」彼女の瞳は、まるで物語の宝箱を見つけたかのように輝いていた。
しかし、何から話せばよいのか。私の頭の中には、何の用意もなかったのだ。いつもは即興で何とかなるのだが、この日はあまりにも暑く、私の思考は日差しの中に溶けてしまいそうだった。私はためらい、返答に詰まる。
すると、アリスは身を乗り出し、その小さな手で私の腕を軽く叩いた。「ねえ、今すぐよ!」
その言葉が、私の凍り付いた思考を突き破った。私は、子供たちの純粋な好奇心に報いなければならない。
私はゆっくりと話し始めた。「では、これは……そう、一匹の白いウサギのお話にしようか。」
その瞬間、私は何を語るべきか、全くわからなかった。しかし、子供たちの期待に満ちた眼差しが、私の想像力を解き放った。不意に、白いチョッキを着たウサギが、懐中時計を取り出しながら急いで駆けていく姿が、脳裏に閃いた。
「白いチョッキを着たウサギが、懐中時計を取り出しながら、『大変だ、遅刻する!』と叫びながら、慌てて走っていったんだ。」
子供たちの表情が、一瞬で物語の世界に引き込まれるのが見て取れた。アリスは特に、私の言葉の隅々まで聞き漏らすまいと、真剣な眼差しで私を見つめている。
私はさらに続けた。ウサギを追って、少女が不思議な穴に落ちていく。そこは、これまでの世界とは全く異なる、奇妙で、そして魅力的な「ふしぎの国」だった。
私は、その場その場で、思いつく限りの奇妙なキャラクターや出来事を紡ぎ出した。大きくなったり小さくなったりする薬、泣き声で洪水を引き起こす少女、しゃべるネコ、帽子屋の狂ったお茶会……。
私の言葉が音となり、子供たちの心の中で、色鮮やかな情景となって広がっていくのが手に取るように分かった。アリスの顔には、驚きと喜びと、そして時折、くすっと笑う表情が浮かび、それが私の創作意欲をさらに掻き立てた。私の声は次第に熱を帯び、物語はまるで生き物のように、私自身の制御を離れて勝手に広がっていくようだった。
ダックワース牧師も、時折口元に笑みを浮かべ、穏やかに私たちの会話に耳を傾けていた。彼は、私が子供たちと分かち合うこの特別な時間を、静かに見守ってくれているのだ。
気がつけば、太陽は少し傾き、水面は夕暮れの色を帯び始めていた。物語は、まだ終わりそうにない。しかし、時間には限りがある。私は、適当なところで物語を一旦切り上げ、名残惜しそうにする子供たちに、次回を約束した。
アリスは、満足げに目を輝かせながら、私の手を握り、「ねえ、チャールズ、もっと聞かせて! この物語、本にしてちょうだい!」と、真剣な眼差しで訴えた。その言葉に、私は少しばかり面食らいながらも、胸の奥底に温かい感情が広がるのを感じた。
小舟は再び、静かな水面を滑るように進む。子供たちは先ほどまでの興奮が冷めやらないのか、お互いに物語の一節を囁き合ったり、私に質問を投げかけたりしていた。
クライスト・チャーチの尖塔が、夕焼けを背景にシルエットとなって現れる頃、私たちは桟橋に戻った。
リデル家へと三姉妹を送り届け、私はダックワース牧師と共に、静かな夜道を歩いた。
部屋に戻り、窓を開けると、夏の夜の澄んだ空気が流れ込んできた。私の心の中には、まだあの白ウサギが、そして不思議な国で出会った奇妙なキャラクターたちが、生き生きと動き回っている。アリスのあの言葉が、私の耳朶に残響している。「本にしてちょうだい!」
あの即興の物語が、果たしてどれほどの意味を持つのか、今はまだ知る由もない。しかし、あの澄んだ瞳が、あの想像力豊かな心が、この日の出来事をいつまでも大切にしてくれることを、私は切に願うばかりだ。この特別な夜の出来事を、私はきっと忘れることはないだろう。
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参考にした出来事
1862年7月4日、ルイス・キャロルことチャールズ・ラトウィッジ・ドッドソンが、テムズ川でのボート遊び中に、少女アリス・リデルに即興で物語を語り、後の『不思議の国のアリス』の原型が生まれた日。