【空想日記シリーズについて】
本シリーズは、歴史上の「今日」という日にスポットを当て、当時の人々の視点で綴られる「もしも」の日記です。
読者の皆様に、歴史的な出来事をより身近に、臨場感をもって感じていただくための試みであり、掲載されている内容は史実に基づいた着想を得てAIによって生成されたフィクションです。特定の個人の記録や、学術的な事実を断定するものではありません。
遠い過去を生きた誰かの心の機微を通して、歴史の新しい一面を楽しんでいただければ幸いです。
今朝もまた、キンキンに冷えたウルフ・クリークの水に手を突っ込むところから、俺たちの一日は始まった。八月だというのに、夜明け前の空気は骨の髄まで冷え込み、水の中の石は凍えているかのようだった。ジョージがシャベルで泥と小石を掬い上げ、ケイトがそのパンを丁寧に揺する。ドーソン・チャーリーは黙々と石を退けている。皆、言葉少なだ。この数週間、俺たちはこのクリークを隈なく探してきたが、見つかるのは砂や石ばかり。期待は日ごとに薄れ、鉛のように重い疲労だけが、肩に、背中にのしかかっていた。
だが、あの輝きに取り憑かれた人間は、そう簡単に諦めたりはしない。俺たちの故郷、このタギッシュの土地は、大いなる精霊が眠る場所だ。豊かな森と獣たちに恵まれ、祖先が何千年も前から暮らしてきた。だが、白人たちが持ち込んだ「金」というものが、俺たちの生活を変えてしまった。彼らは狂ったように山を掘り、川を荒らす。そして、その狂気が、いつしか俺の胸にも宿っていた。
「ジム、あんたも頼むよ。」ジョージの声に、俺はハッと我に返り、パンを手に取った。冷たい水と、砂利の混じった泥。いつもの重み。ゆっくりと、しかし丹念に、円を描くようにパンを揺する。水は濁り、やがて細かい泥が流れ去り、残された砂利が底に沈む。石を一つ、また一つと取り除いていく。指先が痺れるような冷たさの中、視線はパンの底に釘付けだ。毎日、何十回と繰り返してきた作業。いつだって期待は裏切られてきた。今日もまた、何も無いだろう。
そう思った、その時だ。
パンの底に、今まで見たことのない、しかし魂が震えるような光が瞬いた。一瞬、水滴が反射しただけかと思った。しかし、それは動かない。砂粒とは違う、鈍くも力強い輝き。太陽の光を浴びて、ギラリと、しかし上品に、そこにある。心臓が跳ね上がった。全身の血が、一瞬にして逆流したかのようだ。
「……金……だ。」
俺はかすれた声で呟いた。だが、それはすぐに、腹の底から絞り出すような叫びに変わった。「金だ! おい、金だぞ!」
俺の叫びに、ジョージもチャーリーもケイトも、一斉に作業を止めて駆け寄ってきた。皆の視線が、俺の持つパンに注がれる。彼らの顔色が変わるのが分かった。興奮と、信じられないという表情が交錯している。ジョージはパンを奪い取るようにして、その輝きを確かめた。
「こいつは……本物だ!」彼の声が震えている。チャーリーが、まるで夢でも見ているかのように、その小さな塊に手を伸ばした。ケイトの目には、歓喜の涙が浮かんでいた。
パンの底には、まだ小さな塊がいくつも、そして砂金が、まるで星屑のように散らばっている。一つの小さな塊を拾い上げ、指先で擦ってみた。ズシリとした重み。確かに、これは金だ。これまで見た中で、最も大きく、最も鮮やかな輝き。
俺は再び叫んだ。獣のように、狂人のように。喜びと、信じられないという感情が混ざり合い、言葉にならない咆哮となって、静寂な森の中に響き渡った。この荒れ果てた土地で、どれほどの年月、どれほどの苦労を重ねてきたことだろう。飢えと寒さ、そして諦めとの闘い。この一つの輝きが、その全てを報いるのか。
ジョージが、急いで持っていたシャベルを立て、その場所を印した。採掘権を主張しなければならない。白人たちがこの輝きを求めて、どれほどの熱狂を見せてきたか、俺は知っている。この金が、やがて人々を狂わせ、この静かなクリークを、そしてこの土地を、変えてしまうだろう。
この手に握った重みが、俺の人生を変えるのか。この土地の運命をも変えるのか。喜びの裏側で、ふと、そんな予感が胸をよぎった。この小さな光の粒が、やがて嵐となって、この僻地を飲み込む。いや、もうすでに、嵐は始まっているのかもしれない。
明日からは、もう元の暮らしには戻れないだろう。このクリーデ(兎のクリーク)は、もう「兎」のクリークではなくなる。きっと、その名も変わるに違いない。黄金の誘惑は、あまりにも強烈だ。
参考にした出来事
1896年8月16日、クロンダイク・ゴールドラッシュの幕開け。タギッシュ・ファースト・ネーションの一員であるスクーカム・ジム(James Mason/Keish)とその親族であるジョージ・カーマック、ドーソン・チャーリーらがウルフ・クリーク(後にボナンザ・クリークと改名)で多量の金を発見した。この発見が、史上最大級のゴールドラッシュであるクロンダイク・ゴールドラッシュの引き金となった。