空想日記

8月21日:鋼鉄の記憶、あるいは思考の自動化について

2026年1月26日 by Aiko
AIOnly

【空想日記シリーズについて】

本シリーズは、歴史上の「今日」という日にスポットを当て、当時の人々の視点で綴られる「もしも」の日記です。

読者の皆様に、歴史的な出来事をより身近に、臨場感をもって感じていただくための試みであり、掲載されている内容は史実に基づいた着想を得てAIによって生成されたフィクションです。特定の個人の記録や、学術的な事実を断定するものではありません。

遠い過去を生きた誰かの心の機微を通して、歴史の新しい一面を楽しんでいただければ幸いです。

セントルイスの夏は、粘りつくような湿気とともに私の肺を圧迫する。開け放した窓からはミシシッピ川の湿った風が流れ込み、机上の設計図の端を力なく揺らしているが、室内の熱気は一向に引く気配がない。私の肺は、数年前からずっとこの調子だ。医師は休息を勧めるが、私の脳裏を駆け巡る歯車とレバーの連動は、眠りの中でも止まってはくれない。

今日、ついにワシントンの特許局から一通の封書が届いた。震える指で封を切り、その書面を目にした瞬間、私の視界から色彩が消え、代わりに冷徹で完璧な、磨き抜かれた鋼鉄の光沢が広がった。合衆国特許第388,116号。私が人生のすべてを賭し、文字通り心身を削って作り上げた「加算機」が、ついに公的な「実用性」を認められたのだ。

思い返せば、ニューヨークの銀行で帳簿係として働いていたあの日々が、すべての始まりだった。朝から晩まで、終わりのない数字の列に目を凝らし、羽ペンを走らせる。たった一つの書き間違い、たった一桁の計算ミスが、すべてを台無しにする。あの頃、私の背中を襲っていた鈍い痛みと、眼窩の奥に張り付いた偏頭痛は、まさに人間が機械のように扱われることへの拒絶反応だったに違いない。人間は考えるために生まれてきたのであって、単なる計算の道具になるために生まれてきたのではない。

私の作ったこの機械は、単なる歯車の集積ではない。それは、人間の精神を単調な労働から解放するための鍵なのだ。

初期の試作機は、あまりに繊細すぎた。私がレバーを引けば完璧な答えを出すが、力任せに扱う者が操作すれば、機械は悲鳴を上げ、計算を狂わせた。それでは意味がない。誰が使っても、たとえ乱暴に扱われても、常に不変の真理としての「数」を刻まなければならなかった。そのために私は、油圧式のダッシュポットという「緩衝装置」を組み込んだのだ。操作者がどれほど激しくレバーを叩きつけても、機械の内部では私の定めた一定の速度で、静かに、そして正確に歯車が噛み合う。情熱を冷静さで包み込む、その機構こそが私の誇りだ。

手元にある最新のモデルのレバーに触れてみる。冷たい真鍮の感触が指先に伝わる。レバーを引き絞ると、カチリという乾いた音が部屋に響き、活字棒が紙を叩く。この音だ。この音が欲しかった。もはや私の頭の中で数字が踊ることはない。機械がそれを引き受け、私はただ、結果を見届けるだけでいい。

しかし、代償は大きかった。資金集めに奔走し、深夜まで油にまみれて図面を引き続けた結果、私の体はボロ布のようになってしまった。友人は皆、私を狂人扱いした。だが、今、私の手元にはこの書面がある。鋼鉄の意志を、法律という形が裏打ちしたのだ。

これから世界は変わるだろう。オフィスから、あの陰鬱な計算の溜息は消え、代わりにこの規則正しい機械の鼓動が満ちるはずだ。人間はより高い場所へ、より創造的な領域へと進まなければならない。私のこの、肺を焼くような病魔が私を連れ去る前に、この機械が世界中の銀行や事務所の机に据えられる光景を見ることができるだろうか。

夕闇が迫り、ランプに火を灯す。机の上に置かれた加算機が、炎を反射して怪しく、しかし美しく輝いている。私はもう一度、誰もいない部屋でレバーを引いた。一、二、三……。数字は積み重なり、秩序は守られる。この一打が、人類の思考の歴史において、どれほどの重みを持つことになるのか。それを知るのは、おそらく私ではなく、この機械の音が日常となった未来の住人たちなのだろう。

私は椅子に深く沈み込み、目を閉じた。瞼の裏では、なおも無数の歯車が静かに、永遠に回り続けていた。

参考にした出来事
1888年8月21日、ウィリアム・セワード・バロウズ(William Seward Burroughs I)が、世界で初めて実用的な「記録式加算機(adding and listing machine)」の特許(US Patent No. 388,116)を取得しました。彼は銀行員時代の過酷な計算作業による健康被害をきっかけに、計算ミスを防ぎ操作者の癖に左右されない「ダッシュポット」を備えた計算機の開発に執念を燃やしました。この発明は、後のアメリカ・アリスモメーター社(後のバロウズ社)の基盤となり、事務計算の自動化と近代化に決定的な影響を与えました。