【リミックスについて】
リミックスは、AIを架空の作家に見立て、異なる二つの名作を掛け合わせる実験的な掌編小説群です。「作品Aの哲学・設定」を「作品Bの文体」で描くとどうなるか? そんな空想を出発点に、AIが緻密な論理と模倣で再構築した物語をお届けします。
原作への敬意と遊び心を込めたパロディ作品として、AIが生み出す奇妙な化学反応をお楽しみください。
※本カテゴリの作品はすべてAIによって生成されたフィクションであり、実在の作家・作品とは異なる独自の解釈を含みます。
概要
『ロビン・フッド』(伝説) × 『鼠小僧次郎吉』(講談)
宵闇が、深緑の肺胞を塗り潰すように降りてきた。湿り気を帯びた風が、シャーウッドの古木を揺らし、同時に江戸の路地裏のような湿り気を運んでくる。この境界の地において、法とは領主の舌先で踊る無価値な旋律に過ぎず、秩序とは飢えた民の腹を鳴らすための空虚な太鼓の音であった。男は、その森の最深部、大樹の根が幾重にも絡み合う「虚」の中に潜んでいた。名はロビン、あるいは次郎吉。かつて英雄と呼ばれた男の魂と、夜の静寂を友とした盗賊の記憶が、一つの器の中で静かに発酵を続けていた。
彼の背には、檪の木を削り出した強弓が背負われ、その腰には、音もなく襖を滑らせるための小柄が差されている。男の指先には、弦を弾く強靭な胼胝と、小判の縁をなぞる繊細な神経が同居していた。彼は義賊であった。富める者から奪い、持たざる者に分け与える。その行為の裏に、どのような虚無が潜んでいるかを知りながらも、彼はこの儀式的な「再配分」を止められずにいた。
今宵、男が狙うのは、森の最奥に聳える「白銀の館」である。そこには代官であり保安官でもある冷酷な行政官、ギズボーンが私服を肥やして溜め込んだ、王国全土の数年分に相当する黄金が眠っている。館を囲むのは、鋼の鎧に身を包んだ衛兵たちだが、彼らの目には夜の森に溶け込む男の影は見えない。男は、屋根の瓦――この西洋的な石造りの館にあって、何故かそこだけが東洋の情緒を湛えて黒光りしている甍――を、鴉よりも軽く跳ねた。
「法が光を独占するならば、影がその光を散らすのみ」
独り言は風に消えた。男は屋根の隙間から、天井裏へと滑り込む。そこには埃と沈黙、そして権力者が隠し持った醜悪な真実の臭気が漂っていた。彼は床板を剥がし、眼下を見下ろした。そこには広大な広間を埋め尽くすほどの金貨が、月光を反射して冷たく輝いていた。それは、小作農たちが血を吐く思いで納めた税であり、貧民たちが冬を越すために手放した最後の糧の成れの果てだ。
男は持参した大きな袋を取り出すと、迷いなくその黄金を詰め込み始めた。重みが肩に食い込む。しかし、その重量こそが、彼にとっての救済であった。彼は袋を背負い、再び闇へと躍り出た。追っ手の騒ぎが背後で始まった。矢が空を切る音が、笛の音のように森に響く。だが、男の足取りは淀みない。彼は知っていた。森のどの枝が自分の重みに耐え、どの影が自分を包み隠してくれるかを。
彼は村へと辿り着いた。そこは、絶望さえも腐りかけたような、泥濘の地である。男は屋根の上から、あるいは壊れた窓から、一握りの金貨を投げ込み続けた。チャリン、という音。それは本来、救いの音であるはずだった。暗闇の中で金貨を拾い上げた老婆が、震える声で神を称える。飢えた子供が、その輝きを夢と見紛う。男は、自らの業が果たされたことを確認し、森の奥へと消えていった。
しかし、夜が明け、陽光が容赦なく地上を照らし出したとき、物語は変質を始める。
男は数日後、再び村を訪れた。そこにあるべきは、黄金によって得られた安らぎと、再起への活力であるはずだった。だが、彼の目に飛び込んできたのは、数日前よりも凄惨な光景であった。村の中央には、かつてなかったほどの高い柵が築かれ、隣人同士が互いを疑いの眼差しで見つめ合っていた。黄金を手にした者は、それを奪われまいと武器を取り、手に入れられなかった者は、持てる者を密告して役人の慈悲を乞うた。
さらに、行政官ギズボーンは、村に黄金が流出したことを逆手に取った。彼は「予期せぬ富の流入は市場を乱す犯罪である」と宣言し、金貨の所有を厳格に禁じた。捜索の名の下に、兵士たちは村人の家を土足で荒らし、金貨を没収するだけでなく、家財一切を「罰金」として持ち去った。結局、男が投げた金貨は、より苛烈な収奪の口実へと成り果てていた。
男は、森の境界にある古びた酒場に座り、薄い麦酒を啜っていた。彼の前には、一人の男が座っている。それはかつて彼を追っていた、引退したばかりの元・捕吏であった。
「あんたがやっていることは、慈悲じゃない。ただの毒だ」
元・捕吏は、濁った目で男を見つめた。
「あんたが金をばら撒くたびに、上はもっと狡猾になる。下はもっと卑しくなる。あんたが壊そうとしている均衡こそが、実のところ、この惨めな連中を辛うじて生かしている鎖だったんだ。あんたがその鎖を一節だけ黄金に変えたせいで、全体が歪んで、彼らの首を絞めちまった」
男は応えなかった。彼の指先は、習慣的に腰の小柄を弄っている。
「次郎吉よ、あるいはロビンよ。あんたは英雄になりたかったのか、それとも、ただ奪う瞬間の高揚に酔いしれたかっただけなのか」
男は立ち上がり、代金をテーブルに置いた。それは、あの館から盗み出した最後の一枚の金貨だった。
「俺は、流れを戻そうとしただけだ」
「流れだと? 水は高いところから低いところへ流れる。あんたがどれだけ汲み上げようと、重力は変わらない。あんたの弓矢も、あんたの忍び足も、この世界の重力には勝てないんだよ」
男は酒場を出て、再び森へと向かった。背後では、置かれた金貨を巡って、給仕と店主が殺し合いに近い罵り合いを始めている。
男は森の深淵に立ち、自らの強弓を手に取った。そして、最後の一本の矢を番えた。狙うのは、ギズボーンの館でも、腐敗した王の心臓でもない。彼は空を仰ぎ、見えない「法」という名の天を射抜くかのように、真っ直ぐに上へと放った。
矢は重力に従い、やがて男の足元へと落ちてきた。その矢尻は、何一つ射抜くことなく、ただ湿った泥を穿った。
数ヶ月後、男は捕らえられた。裏切ったのは、彼が最も多くの金を与えた村の若者だった。若者は、男を売った報奨金で、ギズボーンの下で働く下級役人の職を買い取ったという。
刑場へと向かう車輪の音を聞きながら、男は満足げな笑みを浮かべていた。群衆は彼に罵声を浴びせ、石を投げつける。彼らは、男が盗んだ金によって更なる地獄を味わった被害者たちであった。彼らにとって、この義賊はもはや救世主ではなく、平穏な絶望をかき乱した災厄に過ぎなかった。
男が絞首台の階段を上がる。足元には、かつて自分が歩いた甍の面影はなく、ただ冷酷な木の感触があるだけだ。執行人が縄をかける。その瞬間、男は最前列に並ぶ村人たちの懐から、微かな光が漏れているのを見た。
彼らは、没収を免れた数枚の金貨を、今も肌身離さず持っていた。しかしそれは、パンを買うためでも、冬を越すためでもない。彼らはその黄金を「権力の象徴」として崇め、いつか自分たちが奪う側、強いる側へと回るための呪術的な触媒として、大切に隠し持っていたのだ。
男の死後、森はさらに深くなり、法はさらに強固になった。金貨の雨は二度と降ることはなかったが、村人たちは夜な夜な、奪い取った黄金で肥え太る自分の姿を夢に見るようになった。
義賊がもたらした最大の皮肉は、富を分配したことではなく、「誰もが奪う側に回れる」という残酷な希望を植え付けてしまったことにあった。処刑された男の骸は、カラスたちの餌となり、その骨はやがて森の土へと還っていった。彼の愛した森は、皮肉にも、彼を売った若者が指揮する伐採計画によって、その姿を消そうとしていた。
新たな領主となった若者は、かつて義賊が愛した弓を暖炉の薪にし、静かに呟いた。
「これで、森も夜も、ようやく静かになる」
その手元には、男が最後に酒場に残した、あの一枚の金貨が握られていた。