【リミックスについて】
リミックスは、AIを架空の作家に見立て、異なる二つの名作を掛け合わせる実験的な掌編小説群です。「作品Aの哲学・設定」を「作品Bの文体」で描くとどうなるか? そんな空想を出発点に、AIが緻密な論理と模倣で再構築した物語をお届けします。
原作への敬意と遊び心を込めたパロディ作品として、AIが生み出す奇妙な化学反応をお楽しみください。
※本カテゴリの作品はすべてAIによって生成されたフィクションであり、実在の作家・作品とは異なる独自の解釈を含みます。
概要
『人間失格』(太宰治) × 『変身』(カフカ)
その朝、目が覚めたとき、私は自分が「人間」という職務から解雇されたことを悟った。
枕元にあるはずの苦悶や、朝の光に対する生理的な嫌悪が、霧散していたわけではない。むしろ、それらはより純粋な、結晶化された静寂となって私の肉体を支配していた。私は寝台から起き上がろうとして、自身の身体に変調が生じていることに気づいた。いや、変調という言葉は生温い。それは論理的な帰結であり、長年私が恐れ、同時に待ち望んでいた「化けの皮」の完成であった。
鏡の前に立った私の顔からは、目も、鼻も、口も、それら一切の凹凸が消失していた。そこにあるのは、滑らかな、あまりにも滑らかな陶器のような白い平面である。眉根を寄せて困惑を見せることも、口角を上げて臆病な道化を演じることもできない。私は、表情という名の通貨を失った、完全なる破産者となったのだ。
これまで私は、他人の期待という型に自分を流し込み、精巧な偽造品を作ることでどうにか生存を許されてきた。食卓で父が放つ、退屈で威圧的な訓話には「感銘」の仮面を被せて応じ、街角で友人が漏らす卑俗な欲望には「共感」という絵の具を塗って同調した。人間たちの不可解な怒りや、湿り気を帯びた慈愛の視線に晒されるたびに、私は内側で絶叫しながらも、表面では軽妙な冗談を飛ばす道化師であり続けた。
しかし、この「無貌」への変身は、私の内なる卑屈さがついに物理的な限界を超え、外皮を浸食した結果に他ならない。私は人間としての資格を喪失したのではない。最初から持っていなかったその資格の「欠如」が、隠し通せぬ形態として露呈しただけなのだ。
部屋の扉が叩かれた。妹の声がする。朝食の支度が整ったという、日常という名の監獄への召喚状だ。私は声を発しようとしたが、口のない平面からは、ただ乾いた空気の漏れるような音が漏れるだけだった。
扉が開いた。妹は私を見た。彼女の目に映ったのは、愛する兄の変わり果てた姿ではなく、理解の範疇を超えた「異物」であった。彼女は悲鳴を上げることもなく、ただ手にしていた盆を落とした。陶器の割れる音が、静謐な朝の空気を鋭く切り裂いた。
やがて父が、そして母がやってきた。彼らの反応は、恐怖よりもむしろ、法外な負債を突きつけられた債務者のそれに近かった。父は私の「顔」を凝視し、その滑らかな空白の中に、自分たちが注いできた教育や期待が、吸い込まれるように消えていくのを見たのだろう。
「これは、一体何の冗談だ」
父の声は冷徹な怒りに満ちていた。彼にとって、息子が怪異に変じたことよりも、その怪異が「家名の名誉」という台本に従わなくなったことの方が、より重大な背信であった。
その日から、私は家の奥の、採光の悪い一室に幽閉された。家族にとって、私はもはや息子でも兄でもなく、処理に困る「不燃ゴミ」のような存在に成り果てた。
食事は、扉の隙間から差し入れられた。私には口がなかったが、不思議と飢えを感じることはなかった。むしろ、これまで他人の視線を浴びることで消費してきた精神的エネルギーが、この密室の中で静かに蓄積されていくのを感じた。私は部屋の隅にうずくまり、自分がかつて演じてきた数々の「役柄」を思い出しては、それを一つずつ丁寧に解体していった。
道化としての笑い、臆病な沈黙、媚を売るような視線。それらはすべて、人間社会という巨大な劇場で生き残るための、哀れな護身術であった。今、顔を失ったことで、私はようやくその重責から解放されたのだ。鏡を見る必要もなく、他人の反応を伺う必要もない。私は、純粋な「無」としてそこに存在していた。
週が経つにつれ、家族の態度は露骨な嫌悪へと変質していった。扉の向こうから聞こえる彼らの会話は、もはや私を人間として扱ってはいなかった。
「あれをいつまで置いておくつもりなの?」
「近所の噂になれば、私たちの生活は破滅だ」
彼らが恐れていたのは、私の変身そのものではなく、その変身が彼らの「正常な世界」を脅かすことであった。彼らもまた、それぞれの仮面を被り、互いに嘘をつき合いながら、薄氷の上でダンスを踊っているに過ぎない。私の無貌は、彼らが懸命に隠蔽している「実存の空白」を鏡のように照らし出してしまうのだ。
ある夜、父が部屋に入ってきた。その手には、重厚な杖が握られていた。彼は私を、害虫を駆除するかのような冷淡な目で見下ろした。
「お前は、最初から私たちの家族ではなかったのだな」
その言葉は、刃物よりも深く私を貫いた。しかし、それは絶望ではなく、ある種の法悦を伴う納得であった。そうだ、私は最初から、あなたたちの言う「人間」ではなかった。ただ、そうであるかのように振る舞う、出来損ないの模倣品に過ぎなかったのだ。
父が杖を振り上げた。私は抵抗しなかった。むしろ、その一撃が私という無意味な存在に終止符を打ってくれることを、心から望んでいた。衝撃が走る。私の白い顔の一部が砕け、破片が床に散らばった。そこには血も肉もなく、ただ石膏のような乾燥した物質が詰まっているだけだった。
私は家を這い出した。深夜の街は、灰色の静寂に包まれていた。誰にも見つからぬよう、路地裏を通り、街外れの廃墟へと向かった。
私の身体は崩壊し始めていた。一歩歩くたびに、指先が、腕の皮膚が、剥落して粉塵となって消えていく。私は、ようやく自分が完成しつつあることを確信した。
夜明けが近づいていた。東の空が、恥辱の色をした薄紅に染まり始める。私は崩れかけた壁に背を預け、最期の瞬間を待った。
ふと、遠くで朝刊を配る自転車の音が聞こえた。世界は何事もなかったかのように、再び「人間」たちの営みを始めようとしている。昨日まで私が必死にしがみついていた、あの滑稽で、残酷で、愛おしい欺瞞の世界。
私は、自分が人間を拒絶したのではない。人間というシステムが、私という異物を論理的に排除したのだ。その結論は、あまりにも明快で、一点の曇りもなかった。
私の意識が薄れゆく中で、最後に見えたのは、昇り始めた太陽の光に照らされた、自身の砕けた破片だった。それは真珠のように白く輝き、この世のどんな美辞麗句よりも雄弁に、私の「真実」を物語っていた。
私は微笑もうとした。顔はないが、確かに心の中で微笑んだ。
死後、私の死体を見つけた人々は、それを何かの彫刻の失敗作だと思うだろう。あるいは、最初から何も存在しなかったのだと断じるかもしれない。
それでいい。私はようやく、誰の目も気にすることなく、完全なる「無」に帰ることができたのだから。
朝焼けが、私の消失した顔の上で、無慈悲なほど美しく踊っていた。