【リミックスについて】
リミックスは、AIを架空の作家に見立て、異なる二つの名作を掛け合わせる実験的な掌編小説群です。「作品Aの哲学・設定」を「作品Bの文体」で描くとどうなるか? そんな空想を出発点に、AIが緻密な論理と模倣で再構築した物語をお届けします。
原作への敬意と遊び心を込めたパロディ作品として、AIが生み出す奇妙な化学反応をお楽しみください。
※本カテゴリの作品はすべてAIによって生成されたフィクションであり、実在の作家・作品とは異なる独自の解釈を含みます。
概要
『グレート・ギャツビー』(フィッツジェラルド) × 『金色夜叉』(尾崎紅葉)
東方の海辺に聳え立つ、象牙と硝子を繋ぎ合わせたような異形の館。そこでは、夜が訪れるたびに狂熱の宴が催されていた。打ち寄せ、砕ける波の音を掻き消すのは、蓄音機が吐き出す不協和音のジャズと、シャンパングラスが触れ合う冷ややかな音階である。その主、葛城という男の素性を知る者はいない。ある者は、彼が大陸の戦火で死人の金歯を剥いで財を成したと言い、またある者は、禁じられた毒薬を密造して帝都の夜を支配しているのだと囁いた。しかし、彼がどれほどの富を積み上げようとも、その双眸は常に、湾の対岸に灯るたったひとつの淡い、青みがかった緑色の光を凝視していた。
その光の主は、美月。かつて、貧相な学生であった葛城が、魂を担保にしても足りないほどの愛を捧げた女である。しかし彼女は、降り積もる黄金の重みに耐えかねるように、名門の御曹司である有栖川のもとへと去った。熱海の外れ、月明かりが砂浜を白骨のように照らし出していたあの夜、葛城が縋り付く指を、彼女は冷徹なダイヤモンドの輝きで撥ね退けたのだ。その瞬間、葛城の中の「人間」は死に、代わりに「黄金の夜叉」が産声を上げた。
私は、その館の隣りにある、潮風に腐食された離れに住む観察者に過ぎない。葛城は私という窓口を通じて、かつての恋人との再会を画策した。彼は、自らが築き上げたこの豪奢な虚飾の城を、彼女という唯一の真実に捧げようとしていた。庭園には、季節を無視して咲き乱れる異国の花々が、死者の化粧のような香りを放っている。彼は信じていたのだ。黄金さえあれば、失われた時間は巻き戻せると。彼女が去ったあの瞬間に時計の針を止め、そこから別の、より輝かしい歴史を再構築できるのだと。
再会の日、大気は湿った沈黙を孕んでいた。葛城は、自らの富を誇示するかのように、金糸で刺繍された法衣のようなガウンを纏い、美月を迎え入れた。美月は、有栖川という退屈な権威に飼い慣らされた、空虚な真珠のようだった。彼女の瞳には、かつての情熱の残り火さえも見当たらない。ただ、眼前に並べられた異国の絹織物や、山と積まれた宝石の奔流を前にして、彼女は子供のように無邪気な、しかし凍てつくような歓喜の声を上げた。
「これほどの美しさが、この世にあったのね」
彼女が涙を流したのは、葛城の不変の愛に対してではなく、その愛が具現化した、圧倒的なまでの「価格」に対してであった。葛城はその涙を、自らの勝利の兆しと錯覚した。彼は、彼女を奪還するために、有栖川の持つ「血筋」という名の不遜な壁を、札束の暴力で打ち砕こうと試みる。
しかし、運命の歯車は、最も醜悪な形で噛み合った。夏の終わりの熱気が最高潮に達した午後、有栖川の所有する真紅の自動車が、ひとりの女を轢き殺した。被害者は、有栖川が情事を楽しんでいた酒場の女。ハンドルを握っていたのは、動転した美月であった。だが、葛城はその罪を自らのものとして引き受けた。彼にとって、美月の罪を背負うことこそが、聖なる殉教であり、彼女を永遠に自らのものにするための最後の手続きであったのだ。
翌朝、霧が立ち込めるプールサイドで、葛城は静かにその時を待っていた。彼は、対岸の光がもう二度と自分を照らさないことを予感していた。有栖川は、自らの手を汚すことなく、復讐を渇望する女の夫――轢き殺された女の配偶者――に、葛城が犯人であるという偽りの情報を流した。
一発の銃声が、朝の静寂を切り裂いた。
葛城の体は、自らが築き上げた富の象徴であるプールの水面に、赤い花を咲かせるように沈んでいった。その死に際、彼の瞳に映っていたのは、果たして誰の姿だったのか。美月は、葛城の死を知るや否や、有栖川と共に荷物をまとめ、何事もなかったかのように帝都へと戻っていった。彼らが残したのは、踏みにじられた他者の人生と、使い捨てられた記憶の残骸だけだった。
葛城が命を賭して求めた「愛」は、最初から存在しなかった。彼は、金という悪魔に魂を売ってまで、過去を買い戻そうとした。しかし、彼が手に入れたのは、美月という名の生身の人間ではなく、彼女の輪郭を模した、黄金製の精巧な人形に過ぎなかったのだ。
皮肉なことに、葛城の死後、彼の膨大な遺産を整理する中で発見されたのは、一枚の古ぼけた写真と、完済されることのなかった莫大な数の借用書であった。彼は、人々に金を貸し付け、人生を破滅させることで富を築きながら、その一方で、ただひとりの女に自らの人生を永遠に貸し出し、ついにその利息すら受け取ることができなかった。
海辺の館は、やがて潮風に洗われ、壮麗な廃墟へと姿を変えた。今でも月のない夜には、波打ち際に葛城の亡霊が現れるという。彼は、対岸の光を求めて砂を蹴り、叫ぶのだ。だがその声は、寄せては返す波の音に飲み込まれ、決して誰の耳にも届くことはない。
世界は、冷酷な均衡を保っている。黄金は夢を買い取り、現実はその夢を灰へと変える。私たちは皆、逆流する川を遡る小舟のように、過去という名の幻影に抗いながら、ただ、絶望的なまでの光輝へと押し流されていくのである。