【空想日記シリーズについて】
本シリーズは、歴史上の「今日」という日にスポットを当て、当時の人々の視点で綴られる「もしも」の日記です。
読者の皆様に、歴史的な出来事をより身近に、臨場感をもって感じていただくための試みであり、掲載されている内容は史実に基づいた着想を得てAIによって生成されたフィクションです。特定の個人の記録や、学術的な事実を断定するものではありません。
遠い過去を生きた誰かの心の機微を通して、歴史の新しい一面を楽しんでいただければ幸いです。
凍てつくようなロンドンの霧が、窓硝子の外で煤けた灰色の帳を下ろしている。一八二四年一月三十日。地質学会の会合が開かれるサマセット・ハウスの一室は、暖炉の火が爆ぜる音と、詰めかけた会員たちの重苦しい外套が擦れる音、そして期待と懐疑が入り混じった密やかな囁き声に満たされていた。私は最前列に近い席を確保し、演壇に置かれた布を被せられた「何か」を、乾いた喉を鳴らしながら凝視していた。
ウィリアム・バックランド教授が登壇した。オックスフォードからやってきたその男は、相変わらずの情熱、あるいは狂気にも似た熱量をその眼窩に宿していた。彼は野外調査の際と同じく、今日もどこか土の匂いを纏っているかのように見えた。彼が壇上の布を静かに、しかし決然とした手つきで剥ぎ取った瞬間、部屋の空気は一変した。
そこに横たわっていたのは、オックスフォードシャーのストーンズフィールドで見つかった、石化した巨大な下顎の骨であった。
「諸君、これは単なる骨ではない。かつてこの大地を蹂躙していた、想像を絶する怪物の証拠である」
バックランドの声が、高い天井に響き渡る。私は身を乗り出し、その骨を凝視した。それは黒ずんだ石のように重厚で、何千万年という時間の重みに耐え抜いた威厳を備えていた。最も衝撃的だったのは、そこに並ぶ歯である。肉食獣の如く鋭く、内側に向かって緩やかに湾曲し、その縁には細かな鋸歯が刻まれている。これほど巨大な捕食者が、我々の足の下に眠っていたというのか。
彼はこの生物を「メガロサウルス(巨大な蜥蜴)」と名付けた。彼の説明が進むにつれ、私の脳裏には、霧に煙る現在のロンドンではなく、全く別の光景が広がり始めていた。それは、湿った熱気が立ち込め、巨大な羊歯が繁茂し、この恐るべき顎を持つ怪物が、大地を揺らしながら獲物を追う、名もなき時代の風景だ。聖書が語る洪水以前の物語よりも、はるかに古く、はるかに残酷で、そして圧倒的にリアルな世界の断片が、目の前の石の中に存在していた。
聴衆の中には、困惑を隠せない者もいた。キリスト教的な時間の概念の中に、どうやってこの「失われた怪物」を組み込むべきか、答えを持たぬ者たちの当惑である。しかし、バックランドの言葉は容赦なく、客観的な解剖学的根拠を積み上げていく。ワニのようでありながら、哺乳類のような直立した四肢を持っていた可能性。その推定される全長は四十フィートを超えるという。
私は震える手で日記帳にその形状を模写した。ペン先が紙を削る音が、異様に大きく聞こえた。この日、我々の歴史観は、不可逆的な転換点を迎えたのだと言える。かつてこの地球は、人間のための舞台ではなく、名もなき巨獣たちが支配する荒野であった。石の顎は、数千万年の沈黙を破り、私に向かってそう告げているようだった。
会合が終わった後も、私はしばらく席を立つことができなかった。ランプの油が切れ、部屋が薄暗くなっても、あの黒い骨の残像が網膜に焼き付いている。今夜、私はこの文明都市の舗装の下に、計り知れない深淵が広がっていることを思い知らされた。私たちは、怪物の墓標の上に、かりそめの平穏を築いているに過ぎない。冷え切った外気の中へ足を踏み出すと、街灯に照らされた霧が、まるで太古の湿原から立ち上る蒸気のように見えた。
参考にした出来事:1824年1月30日、ウィリアム・バックランドがロンドン地質学会において、ストーンズフィールドで発見された化石に基づき「メガロサウルス」を公式に記述。これは科学的に記載された史上最初の恐竜の記録とされる。