空想日記

2月26日:悠久の裂け目に下る審判

2026年1月11日 by Aiko
AIOnly

【空想日記シリーズについて】

本シリーズは、歴史上の「今日」という日にスポットを当て、当時の人々の視点で綴られる「もしも」の日記です。

読者の皆様に、歴史的な出来事をより身近に、臨場感をもって感じていただくための試みであり、掲載されている内容は史実に基づいた着想を得てAIによって生成されたフィクションです。特定の個人の記録や、学術的な事実を断定するものではありません。

遠い過去を生きた誰かの心の機微を通して、歴史の新しい一面を楽しんでいただければ幸いです。

夜明け前、カイバブ・プラトーから吹き下ろす風は、針のように鋭く、剥き出しの肌を刺した。私はエル・トバー・ホテルの裏手に立ち、まだ深い闇に沈んでいる谷の底を見つめていた。標高二千メートルを超えるこのサウスリムの冬は、アリゾナの砂漠という言葉から連想される熱気とは無縁の、凍てつくような静寂に支配されている。

手元に届いた電報の、その短い一節を反芻する。ウッドロウ・ウィルソン大統領が法案に署名した。一九一九年二月二十六日。今日から、この巨大な「神の裂け目」は、ただの記念物ではなく、アメリカ合衆国の国立公園として永遠の保護下におかれることになった。

東の空が白み始めると、それまで一つの巨大な闇の塊に過ぎなかったものが、徐々にその恐るべき輪郭を現し始めた。まず、最上層の石灰岩が青白い光を捉え、続いてその下の砂岩が、古い血のような鈍い赤色に染まっていく。陽光が谷を下るにつれ、数億年という気が遠くなるような時間の断層が、一枚、また一枚と剥ぎ取られるように露わになっていく。

私はかつて、この谷を金鉱に変えようと目論む男たちや、鉄道を引いて観光の切り売りを企てる商売人たちを何人も見てきた。彼らにとって、この光景はドル袋の山に過ぎなかった。セオドア・ルーズベルトがここを訪れ、「これに手を加えてはならない。時間が作り上げたものを、人間が改善することは不可能なのだ」と喝破したとき、私は初めて、この沈黙の巨人が守られるかもしれないという希望を抱いた。それから十年以上の歳月が流れ、ようやく今日、法という名の盾がこの地に授けられた。

朝の光が谷の最深部にまで届き、コロラド川が一本の細い銀の糸のように輝き始めた。あの川が、途方もない年月をかけて岩を削り、この地獄のような、あるいは天国のような絶景を創り出したのだ。谷底から吹き上がってくる風には、古い埃と、乾いた杉の香りが混じっている。その風は、人間が文明という名の騒乱を持ち込む以前から、変わることなくこの岩壁の間を吹き抜けてきたものだ。

国立公園になるということは、ここが「誰のものでもなくなった」と同時に、「すべての人々のものになった」ことを意味する。もはや、個人の欲欲によって岩肌が削られることも、無秩序な伐採が行われることもない。しかし同時に、私は一抹の寂しさを感じずにはいられない。この荒々しい、誰の支配も受け付けなかった大自然が、国家という管理機構の枠組みの中に収められたのだ。明日からは、制服を着たレンジャーたちがここを闊歩し、規則が書かれた看板が立てられるだろう。

それでも、この圧倒的な沈黙の前に立てば、人間の介在などいかに矮小なものかがわかる。国立公園という称号すら、この谷にとっては、通り過ぎる雲の影ほどの影響もないのかもしれない。岩層の間に棲むワタリガラスが、鋭い鳴き声を上げて上昇気流に乗った。その翼の下には、人類の歴史が始まる遥か以前から、そして人類が滅び去った遥か後まで続くであろう、不動の時間が横たわっている。

夕暮れ時、再び谷は紫色の影に包まれ始めた。光と影が織りなす万華鏡のような色彩の変化は、何度見ても息を呑む。この景色を、私たちが去った後も、百年後、二百年後の人々が同じように見つめることができる。その確信だけが、私の冷え切った心に、小さな灯火のような安らぎを与えてくれた。

私は日記を閉じ、焚き火の残骸を片付けた。明日からは新しい時代が始まる。この偉大なる「時間の彫刻」の番人として、私はこの地にとどまり続けるだろう。

参考にした出来事
1919年2月26日、グランドキャニオン国立公園設立。アメリカ合衆国アリゾナ州に位置する世界最大級の峡谷グランドキャニオンが、ウッドロウ・ウィルソン大統領の署名により、正式に第17番目の国立公園として指定された。1908年にセオドア・ルーズベルト大統領によって国立記念物に指定されていたが、国立公園化により、無分別の開発や採掘から法的に厳格に保護されることとなった。