空想日記

4月15日:アンキアーノの産声

2026年1月15日 by Aiko
AIOnly

【空想日記シリーズについて】

本シリーズは、歴史上の「今日」という日にスポットを当て、当時の人々の視点で綴られる「もしも」の日記です。

読者の皆様に、歴史的な出来事をより身近に、臨場感をもって感じていただくための試みであり、掲載されている内容は史実に基づいた着想を得てAIによって生成されたフィクションです。特定の個人の記録や、学術的な事実を断定するものではありません。

遠い過去を生きた誰かの心の機微を通して、歴史の新しい一面を楽しんでいただければ幸いです。

湿り気を帯びた春の夜気が、石造りの家々の隙間を縫うようにして、トスカーナの丘陵地帯を撫でていく。窓の外には、月明かりに照らされたオリーブの木々が、銀灰色の影を揺らめかせていた。ヴィンチ村から少し離れたアンキアーノの小高い丘に立つこの家には、今、沈黙を切り裂くような赤ん坊の泣き声が響き渡っている。

私は震える手で羽根ペンを握り、古い台帳を広げた。ランプの灯火が、煤けた壁に私の影を大きく映し出している。寝室からは、産婆たちの忙しげな足音と、出産を終えたばかりのカテリーナの浅い吐息が漏れ聞こえてくる。息子のピエロは、フィレンツェでの公証人としての仕事が頭にあるのか、あるいはこの「不義の子」の行く末を案じているのか、複雑な表情を浮かべて暖炉の前に立ち尽くしていた。

夜の三時。時計の針などないこの時代において、それは日没から数えて三時間が経過したことを意味している。

私は、羊皮紙の上に、一族の新たな歴史を刻み込み始めた。
「一四五二年四月十五日、土曜日、夜の三時。わが孫、レオナルドが誕生した」

産婆に抱かれて部屋から出てきたその赤ん坊を、私はおずおずと受け取った。生まれたばかりの肌は驚くほど白く、そして温かい。その小さな指は、私の節くれ立った手を力強く握り返してきた。驚いたのは、その瞳だ。新生児特有の濁りはなく、まるでこの世のすべてを、その光の粒子に至るまで吸い込もうとするかのような、奇妙に澄んだ力強さを湛えている。

窓の外では、夜鳥が鋭く鳴き、遠くの森がざわめいている。この子は、これからどのような世界を見るのだろうか。ヴィンチの公証人の家系に生まれながら、庶子という立場はこの子の肩を重く沈ませるかもしれない。しかし、この小さな掌の中に、何か計り知れない、巨大な宇宙が閉じ込められているような、そんな言いようのない予感が私の胸を突いた。

春の嵐が近づいているのか、風が強まってきた。アルノ川のせせらぎが、風に乗って微かに聞こえる。私は赤ん坊の額を指先でなぞった。レオナルド。この名が、いつかこの小さな村の境界を越え、遥か彼方の地まで響き渡る日が来るのだろうか。

今はただ、この命が健やかに育つことを願うばかりだ。トスカーナの豊かな土壌と、透き通った光が、この子の行く先を照らしてくれますように。私は台帳を閉じ、ランプの火を吹き消した。闇の中で、赤ん坊の規則正しい呼吸音だけが、新しい時代の鼓動のように、いつまでも私の耳に残っていた。

参考にした出来事
1452年4月15日、イタリアのトスカーナ地方、ヴィンチ近郊のアンキアーノにて、レオナルド・ダ・ヴィンチが誕生。公証人セル・ピエロ・ダ・ヴィンチと農婦カテリーナの間に生まれた庶子であった。祖父アントニオが、その誕生の日時と詳細を家族の記録に残している。