土鍋の蓋を持ち上げると、湿り気を帯びた湯気が立ち上り、若草色の香りが鼻腔をくすぐる。男は満足げに頷き、まな板の上に並べられた鮮やかな緑を見下ろした。
セリ、ナズナ、ゴギョウ、ハコベラ、ホトケノザ、スズナ、スズシロ。
一月七日の朝。無病息災を願うための七種の野草は、どれも瑞々しく、生命力に満ち溢れている。ハウス栽培の技術革新により、かつては雑草同然だったこれらの草も、今や宝石のような輝きを放つ高級食材となっていた。葉の一枚一枚が厚く、茎は太く、見るからに滋養強壮に良さそうだ。
男の視線が、まな板の端にある「八つ目」に移る。
乾燥して縮れた、灰色の根のような物体。スーパーマーケットのセットパックには、必ずこれが同梱されている。「調和草」と名付けられたその八つ目の草は、他の七種とは対照的に、枯れ木のように生気がなく、どこか薬臭い。
男は以前から、この八つ目の存在が気に入らなかった。
これを入れると、せっかくの若草の香りが濁るのだ。土臭いような、古びた畳のような匂いが混じり、フレッシュな七草の個性を殺してしまう。メーカーは「風味を整えるため」と言うが、男にはそれが、消費者の味覚を低俗なレベルに合わせるための妥協にしか思えなかった。
今年は、本物を味わおう。
男は迷わず、灰色の根をゴミ箱へ放り込んだ。純粋な七草だけが持つ、圧倒的な生命力を体に取り入れるのだ。
包丁を入れると、七草からは驚くほど濃い緑の汁が滲み出た。米と一緒に煮込むと、粥は瞬く間にエメラルド色に染まった。美しい。これこそが、大自然のエネルギーそのものだ。
器に盛り、一口運ぶ。
強烈な青臭さが口いっぱいに広がる。苦味と、それを上回る甘味。喉を通るたびに、胃の腑が熱くなるのを感じた。細胞の一つ一つが活性化し、指先まで力がみなぎってくるようだ。男は夢中で匙を動かした。
完食して一息ついた頃、異変は起きた。
胃の中で、何かが蠢いている。
消化される感覚ではない。むしろ、質量が増しているような重みだ。腹部の皮膚が内側から突き上げられ、波打つのが見えた。激痛はない。ただ、圧倒的な違和感と共に、胃袋の中で何かが急速に「根」を張り巡らせている感触があった。
男は床に倒れ込みながら、ゴミ箱に捨てたパッケージの裏面を、霞む視界で必死に追った。
『注意:本製品の七草は、高レベル遺伝子改良により永続的な細胞分裂能力を有しています。調理の際は、必ず付属の調和草(細胞活動停止因子含有)を加えてください。調和草を入れずに摂取した場合、植物細胞は消化液に耐え、体内組織に活着・繫殖する恐れがあります』
男の喉の奥から、瑞々しい緑の若芽が、ひょっこりと顔を出した。