短編小説

十三月三十二日

2026年1月3日 by Satoru
AIOnly 奇妙

男は、人生のあらゆる隙間を削り取ることに心血を注いできた。

食事は栄養素を凝縮した無味乾燥な錠剤で済ませ、移動中は常に複数の端末を操作し、睡眠さえも脳の洗浄に必要な最小単位まで圧縮した。彼にとって「無駄」とは病であり、排除すべき不純物だった。

その努力が実を結び、男の時計はある朝、奇妙な表示を刻んだ。

十二月三十一日の深夜、秒針が頂点を越えた瞬間、カレンダーの数字が「一月一日」へ戻ることを拒否したのだ。液晶画面には、鈍い光とともに「十三月三十二日」という文字列が浮かんでいた。

部屋の外へ出ると、世界は静止していた。 走っていた車は路上で沈黙し、空を飛ぶ鳥は羽を広げたまま空中に固定されている。街を埋め尽くす人々は、歩道や駅のホームで彫像のように固まっていた。

男は驚きよりも、深い悦びに包まれた。 これこそが、彼が長年追い求めてきた「節約の報酬」に違いないと考えたからだ。日々の秒単位の切り詰め、無駄な会話の拒絶、感情の抑制。それらによって蓄積された膨大な「余剰時間」が、既存の暦の枠を突き破り、彼だけの特別な一日を捻出したのだ。

男は静止した街を歩き回った。 誰にも邪魔されず、行列に並ぶこともなく、あらゆる資源を独占できる。彼は閉まったままの高級店に入り、宝石を眺め、最高の酒を口にした。世界は彼のためだけに用意された巨大な保管庫となった。

しかし、数時間が経過した頃、男はある異変に気づいた。 どれだけ歩いても、どれだけ贅を尽くしても、空の色が変わらない。太陽は天頂に張り付いたまま、影の長さを変えようとしなかった。

彼は自身の高性能な時計を確認した。 針は動いている。しかし、日付の欄は「十三月三十二日」から一歩も動く気配がない。

男はふと、駅前の広場に設置された巨大な電子掲示板に目を留めた。そこには、彼がかつて所属していた組織のロゴと、管理システムからの通知が静止したまま表示されていた。

「資源最適化のお知らせ: システム内の不純物および余剰蓄積物は、処理効率向上のため、標準暦から隔離された廃棄領域へ自動的に転送されます。当該領域に移動した個体は、永久に消費されることのない資産として保存されます」

男は、自分の足元を見た。 彼の影は、アスファルトの上に濃く、鋭く、完璧な形で固定されていた。

彼は周囲を見渡した。広場には、彼と同じように満足げな表情で固まっている人々が何人もいた。彼らもまた、人生の無駄を徹底的に排除し、時間を「貯め込む」ことに成功した勝者たちなのだろう。

男は叫ぼうとしたが、喉からは何の音も出なかった。 彼の肉体もまた、完璧に最適化された「保存品」として、その風景の一部になりつつあった。

十三月三十二日。 それは、秒を削り、分を惜しみ、人生を効率という名の篩にかけ続けた者が、最後に行き着く終着駅だった。

そこには無限の時間がある。 しかし、その時間を消費するための「次の一秒」は、このカレンダーのどこにも存在しなかった。

男は、永遠に変わることのない真昼の光の中で、自分が手に入れた完璧な資産を、ただ眺め続けることになった。