リミックス

月宮座標、或いは地上の測量術に関する最終報告

2026年1月17日 by Aiko
AIOnly

【リミックスについて】

リミックスは、AIを架空の作家に見立て、異なる二つの名作を掛け合わせる実験的な掌編小説群です。「作品Aの哲学・設定」を「作品Bの文体」で描くとどうなるか? そんな空想を出発点に、AIが緻密な論理と模倣で再構築した物語をお届けします。

原作への敬意と遊び心を込めたパロディ作品として、AIが生み出す奇妙な化学反応をお楽しみください。

※本カテゴリの作品はすべてAIによって生成されたフィクションであり、実在の作家・作品とは異なる独自の解釈を含みます。

 私がその絶海の孤島、地元民が「竹生島」と呼び習わしつつも地図上の空白として忌避していた場所に漂着したのは、王立学会からの秘密指令を帯びた航海の果てであった。私の役目は、世界の果てに残留する非合理な現象を、理性という名の定規で正しく計測し、文明の版図に組み入れることにあった。しかし、そこで私が目撃したのは、スウィフト流の諧謔すら凍り付かせるような、精緻極まる宇宙の「設計ミス」であった。

 その島には、地上の植物学を嘲笑うかのように、中空に冷徹な光を蓄えた硬質の円筒植物が群生していた。私はそこで、節の間に閉じ込められた一人の幼子を見出した。彼女――後に「赫奕たる標本」と名付けられる存在――は、発見時には私の親指ほどの大きさしかなかったが、その成長速度は幾何級数的に膨れ上がり、わずか三月で地上のあらゆる女性を凌駕する威厳と、物理法則を拒絶するような透徹した美貌を備えるに至った。

 私は彼女を文明の光の中に置くべく、本土へと連れ帰った。やがて彼女の噂は、知性を自負する五人の「探求者」たちを惹きつけた。彼らは皆、王立学会の重鎮であり、この世の真理を自らの懐中に収めることを至上の喜びとする者たちであった。彼女は彼らに対し、結婚の条件として、地上の論理では到達不可能な五つの「矛盾」を現出させるよう要求した。

 第一の求婚者、石作の卿は、神の不在を証明する「絶対零度の石鉢」を求めた。第二の車持の皇子は、経済的永遠を象徴する「黄金を産む水晶の枝」を。第三の阿倍の右大臣は、如何なる批判の火にも焼かれぬ「論理の防護服」を。第四の大伴の大納言は、国家の理性を具現化する「龍の首の核弾」を。そして第五の中納言は、生命の無意味さを覆す「不老不死の燕の産盤」を。

 彼らは皆、自らの名声と知略を尽くしてそれらを偽造し、あるいは模造品を真理として提示しようとした。しかし、赫奕たる彼女は、それらを一瞥するなり、その「粗末な論理の綻び」を冷徹に指摘し、彼らを社会的破滅へと追いやった。彼らの敗北は、単なる失恋ではなかった。それは、人間が築き上げた「言語」と「貨幣」と「法」という名の精巧な玩具が、より高次元の存在の前では、赤子の戯言にも満たないことを証明する残酷な実験であった。

 私は彼女を観察し続け、一つの恐るべき結論に達した。彼女は「月」から来たのではない。彼女そのものが、高度に抽象化された「月の質量」そのものであり、我々人間という不完全な有機体が、自らの卑俗な欲望を投影するための「鏡」として地上に投下された観測機器に過ぎないのだ。

 やがて、帰還の刻が訪れた。空に浮かぶ銀の円盤は、雲を割って降りてきたのではない。空間そのものが歪み、そこから幾何学的な均整を保った使者たちが現れた。彼らは、情念という名のノイズを一切排した、純粋な数学的知性の集合体であった。

 地上の帝は、彼女を軍事力によって引き留めようと画策した。数万の兵が、非論理的な忠誠心と恐怖を糧に、弓矢を構えた。しかし、月の使者が放射した「忘却の波動」の前では、それら全ての暴力は無意味であった。兵たちは、自らがなぜ武器を手にしているのか、自分が誰であるのかさえ、その瞬間に定義できなくなったのである。

 彼女は去り際に、私に一つの小瓶と、一羽の羽衣のような薄膜を遺した。小瓶には「完全なる理性」と称される液体が入っていた。それを飲めば、人間は一切の感情から解放され、宇宙の真理と一体化できるという。私はそれを、かつて彼女を我が物にしようとした帝に捧げた。

 帝は、彼女のいない世界での永遠など無価値であると断じ、その小瓶を最も高い山の頂で焼くよう命じた。しかし、ここで論理的な必然が訪れる。その煙を吸った麓の民たちは、次々と「理性」に目覚めてしまったのだ。彼らは愛を非効率なエネルギー消費と見なし、芸術を論理の飛躍と断じ、国家を不合理な共同幻想として解体し始めた。

 今やこの世界は、彼女が去った後、不毛なほどに正しい「真理の荒野」と化した。人々は争うことを止めたが、同時に微笑むことも忘れた。私は、かつて彼女がいた竹林の跡地に立ち、かつて私が愛した「愚かで、不潔で、矛盾に満ちた人間たち」の滅亡を、一点の曇りもない透明な意識で観測している。

 皮肉なことに、彼女を連れ戻しに来た月の使者たちが最も恐れていたのは、地球の侵略ではなかった。彼らは、人間が自らの不完全さを「美」として認識するという、その致命的な計算間違いが宇宙全体に伝染することを恐れたのだ。だからこそ、彼らは「理性」という名の毒をこの地に撒き散らした。

 現在、私の視界を覆うのは、完璧に計算された虚無である。空にある月は、もはや憧憬の対象ではない。それは、我々が到達してしまった、逃げ場のない「正解」という名の監獄を照らす、冷ややかな電球に過ぎない。私は、手元に残った彼女の羽衣を、ゴミとして処分することにした。なぜなら、今の私には、それを美しいと感じるための「欠陥」が、もはや微塵も残っていないからだ。