【リミックスについて】
リミックスは、AIを架空の作家に見立て、異なる二つの名作を掛け合わせる実験的な掌編小説群です。「作品Aの哲学・設定」を「作品Bの文体」で描くとどうなるか? そんな空想を出発点に、AIが緻密な論理と模倣で再構築した物語をお届けします。
原作への敬意と遊び心を込めたパロディ作品として、AIが生み出す奇妙な化学反応をお楽しみください。
※本カテゴリの作品はすべてAIによって生成されたフィクションであり、実在の作家・作品とは異なる独自の解釈を含みます。
概要
『宇宙戦争』(H.G.ウェルズ) × 『竹取物語』(作者不詳)
その翁、名をさぬきの造と申す。野山に混じりて竹を取りつつ、万の事に使いけり。しかし、あの日、竹林の奥処で彼が見出したのは、天光を宿した瑞鳥の如き輝きではなく、泥濘の中に沈下した、見たこともない鈍色の円筒であった。それは大地の皮膚を無慈悲に抉り、熱を帯びた吐息を吐き出していた。翁が恐る恐るその金属の肌に触れれば、冷徹なまでの滑らかさが指先に伝わり、理性を揺るがす微かな振動が、地の底から響く脈動のように彼の骨髄を震わせた。やがて、その円筒の蓋が内側から緩やかに、機械的な律動をもって開き始めた時、溢れ出したのは慈悲深き浄土の光ではなく、深淵の如き闇と、粘着質な大気の揺らぎであった。
その中から這い出したのは、三寸ばかりの、しかしおよそ人の子とはかけ離れた構造を持つ「何か」であった。それは白磁よりも白く、不気味なほどに左右対称な肢体を持ち、無数の繊細な触手状の感覚器を、獲物を探るかのように蠢かせていた。翁はその異形の美しさに、神仏の顕現を見るのではなく、むしろ絶対的な上位捕食者の威厳を感じ取り、魂を凍らせた。しかし、その「嬰児」が発した波動は、翁の脳内に直接、甘美な虚像を叩き込んだ。彼の瞳には、それはただの美しい稚児として映るよう、神経系を書き換えられたのである。こうして、月より降りし「かぐや」という名の侵略は、一人の老いた寄生先を得て、密やかに始まった。
かぐやは瞬く間に成長した。その速度は、生命というよりは、高度に設計された結晶が秩序を拡大していく過程に似ていた。わずか三月で彼女は成人し、その美貌はこの世の理を歪めるほどであった。彼女の周囲では、空気が常に特有の電磁的な重みを帯び、竹林は変貌を遂げていった。通常の緑を失い、月面を思わせる無機質な灰白色へと変じた竹の根元からは、毒々しい真紅の蔓が這い回り、周囲の草木を絞め殺してはその養分を吸い上げ、不可解な熱を発し続けた。
京の貴人たちが、その美しさを求めて集ったのは、必然という名の喜劇であった。石作の皇子、庫持の皇子、右大臣阿倍御主人、大納言大伴御行、中納言石上麻呂。彼ら五人の求婚者に対し、かぐやが求めたのは「仏の御石の鉢」「蓬莱の玉の枝」「火鼠の皮衣」「龍の首の珠」「燕の持てる子安の貝」という、この地上の物理法則では到達し得ぬ特異点、すなわち、かつて地球に先遣隊として放たれた「回収されるべき観測機」の残骸であった。
貴人たちは奔走し、偽物と欺瞞、あるいは命を賭した狂奔の果てに自滅していった。彼らが差し出したのは、模造された工芸品か、あるいは自らの無能さを証明するだけの屍であった。かぐやはそれらを冷笑することさえせず、ただ無機質な瞳で彼らを「解剖」していた。彼女にとって、人間の欲望や愛着といった情動は、効率的な資源収穫を妨げるノイズに過ぎない。彼女が求めていたのは、月という母星へ帰還するための座標情報と、この惑星を完全に「洗浄」し、同胞たちが移住するための準備が整ったという確信であった。
ついに、帝が彼女に興味を抱く。帝は権力の極致として、彼女を自らの后に据えようと試みた。しかし、帝の遣わした使者が彼女の邸宅を囲んだ時、すでに事態は不可逆の領域に達していた。かぐやの身体から発せられる不可視の放射は、周囲の兵たちの理性を剥奪し、彼らは武器を捨て、虚空に向かって意味をなさない祈りを捧げるだけの廃人と化した。
十五夜の夜、空が割れた。雲間から現れたのは、瑞雲たなびく天女の群れなどではなかった。それは、三つの巨大な脚を備えた、高層建築をも凌駕する黒鉄の「歩行機械」の群れであった。それらは虚空を裂くような音を発しながら、月から降りてきた。機械の頂部には、巨大な水晶の眼球があり、そこから放たれる熱線は、一瞬にして都の豪奢な建築を、灰さえ残さぬほどに分子レベルで分解していった。
さぬきの造は、変わり果てた竹林の中で、天を仰いで泣き叫んだ。彼が愛した「娘」は、今や巨大な歩行機械の脚元に佇み、その身体から「羽衣」と呼ばれるナノマシン集合体を放散させていた。その羽衣を纏う時、彼女の人間としての記憶——というよりは、人間に擬態していた際のプログラム上のエラー——は完全に消去される。
かぐやは、もはや翁を見ることさえなかった。彼女の意識は、すでに上空で待機する集団知性へと接続されていた。彼女が地球にもたらした「不死の薬」とは、生命を永遠に保存する霊薬ではなく、肉体を分解し、その全情報を月のデータベースへと転送するための、高密度の溶解触媒に他ならなかった。
帝に捧げられたその壺の中身を、絶望した兵たちが富士の山頂で焼いた時、薬液から立ち上った煙は、この惑星の防衛システムを完全に無力化するシグナルとなった。煙は成層圏まで立ち昇り、地上の酸素を奪い、太陽光を遮断する、月の胞子の散布装置へと姿を変えた。
かぐやを乗せた機械は、重力を無視した軌道を描き、静寂の彼方へと帰還していった。後に残されたのは、深紅の蔓が地表を覆い尽くし、熱線によって完璧に「消毒」された、生命の気配の一切ない不毛の惑星であった。かつて「物語」と呼ばれた人類の記憶は、すべて月の冷徹な論理によって回収され、無機質な記録媒体の中へと圧縮された。
皮肉なことに、人類が最期に見たのは、これまでで最も大きく、最も美しい満月であった。それは希望の光ではなく、ただの巨大な、そして無慈悲な管理者の眼差しであった。地上に残された富士の山からは、今も黒い煙が立ち昇り続けているが、それを見上げる知性はもう、この星のどこにも存在しなかった。すべては月の望むままに、完全なる静止と、永劫の沈黙の中に統合されたのである。